2018年10月号 [Vol.29 No.7] 通巻第334号 201810_334003
恒例:国立環境研究所夏の大公開 —地球環境研究センターの暑く熱い日—
1. はじめに
2018年7月21日(土)に開催された恒例の「夏の大公開—キミの知っている環境問題は氷山の一角かもしれない—」は、日本列島各地での記録的な猛暑の中、5,320名もの来場者をお迎えしました(お隣の気象庁構内でのこの日の最高気温は13時に35.1°Cと記録されました)。研究所キャンパスは、多くの人で溢れかえり、賑やかでとても熱い1日となりました。
2. 展示・催事の全体構成
地球環境研究センターでは地球温暖化を中心とした地球環境問題の研究を行っており、これらの成果や意義を一般の方々にご理解いただく展示・催事を企画・実施しました。
今年は新しいメニューを多数用意しました。11のイベントのうち7つが夏の大公開、新登場です。
また、今回初めての試みとして、水墨画家・佐藤鸞峯様の全面的なご協力をいただき、環境大臣賞を受賞した作品(九州北部豪雨の被害を描いたもの)を展示させていただきました。
- (1) ココが知りたい地球温暖化「パリ協定を達成できる技術と社会のイノベーションとは?」 NEW
- (2) 地球環境モニタリング(空から民間航空機を利用して測る)
- (3) メタンを知ろう、測ろう! NEW
- (4) 北極域では今 NEW
- (5) マイ環境学習帳を作ろう NEW
- (6) 温室効果ガスインベントリとは
- (7) 宇宙から温室効果ガスを測定する〜いぶき2号がいよいよ打上げへ! NEW
- (8) 二酸化炭素やメタンの吸収と排出を測ってみよう! NEW
- (9) 海はCO2を吸収する? 青・緑・黄・実験して自分で確かめよう!
- (10) 自転車de発電(自転車発電でLEDライトは何個つけられるのか?)
- (11) 佐藤鸞峯様水墨画「豪雨」(2017環境大臣賞受賞)特別展示 NEW
本稿では、その様子と内容の一部をご報告します。(1) のココが知りたい地球温暖化(パネルディスカッション)については別途報告されますのでここでは省略します。
(2) 地球環境モニタリング(空から民間航空機を利用して測る)
効率的かつ正確に全地球大気中の二酸化炭素(CO2)濃度の変動を観測する方法は? 国立環境研究所が行う地球環境モニタリングには様々な工夫がなされています。2005年から気象研究所等と共同で日本航空(JAL)の国際線旅客機に小型のCO2自動測定器装置と自動大気サンプリング装置を搭載して世界初となる観測を始めました。これにより今までデータがほとんどなかった対流圏界面(成層圏と対流圏の境目)付近(高度8,000–11,000m)での詳細なCO2濃度の分布や、空港上空での高度別CO2濃度の高頻度観測(離発着時に得られます)が可能になりました。これらの観測結果とともに、どうやって上空のCO2等の濃度を正確に観測するのかを実際の機材をお見せしながら説明しました。
(3) メタンを知ろう、測ろう!
温室効果ガスとしてCO2に次ぐ効果をもつメタンですが、どんなところから発生してどこに消えていくのか、そして最近どのような研究がされているのか、一般の人にはあまり知られていないようです。これらを分かりやすく解説し、ガス観測のデモンストレーションとして、人間の呼気に含まれる微量なメタンを最新機器を使って測定する体験も行いました。深呼吸をしてビニール袋に吹き込んだ息を分析するという実験の目新しさも手伝ってか、ご家族そろってのご参加も多く、予想を大きく上回る方々(300人以上!)に参加していただきました。牛などの家畜からメタンが排出されることは多くの方々ご存知のようでしたが、人間の呼気にも大気中の濃度以上のメタンが含まれる場合があることは、初めて知った方も多かったと思います。どうすれば大気中のメタンを減らせるのか、を質問される方も多くいらっしゃいました。
(4) 北極域では今
地球温暖化が進み、北極では海氷の減少などが懸念されています。そもそも北極の環境はどうなっているのか? 大気汚染物質でもあり、地球温暖化を促進する物質でもあるブラックカーボンとは何か? 最新の研究成果を紹介しました。
(5) マイ環境学習帳を作ろう
今年の工作コーナーは新企画、“マイ環境学習帳を作ろう” です。
表紙裏表紙(3種類)、背表紙テープ(5種類)、また地球環境モニタリングステーションやその周辺で撮影した自然豊かな風景の表紙写真(10種類)、これらのパーツを自由に組み合わせてノートを作ります。オリジナリティを高められるようデコ用のスタンプやシールも用意しました。当日は391名もの皆様にノートを作っていただきました。親子連れでお越しになる方も多く、大人も子どもも楽しくノートを作りながら地球環境モニタリングについて知っていただけたのではないかと思います。完成したノートを夏休みの環境学習に生かしてもらえればと思います。
(6) 温室効果ガスインベントリとは
日本はどのくらいの温室効果ガスを排出し、過去に比べて排出削減を達成しているか? 国立環境研究所に設置されている温室効果ガスインベントリオフィスの職員が日本語と英語の排出量推移を示すグラフを使い、説明を行いました。
(7) 宇宙から温室効果ガスを測定する〜いぶき2号がいよいよ打上げへ!
地球全体の温室効果ガスの濃度を正確に測定し、その吸収・排出の様子を調べるため、世界初の温室効果ガス観測専用衛星「いぶき」が2009年1月に打ち上げられました。今回は「いぶき」が9年にわたり観測してきた全球のCO2とメタン濃度の分布やその変化をポスター等で解説したほか、子ども向けの簡単なクイズやCO2濃度分布を示す小さな手作りの地球儀を年ごとに並べた展示も行いました。また、10月29日に打ち上げが予定されている「いぶき2号」の特徴も紹介しました。
いぶきのセンサーは陸上の植物が光合成の際に発するクロロフィル蛍光を検知できますが、その情報を使って植物によるCO2吸収の推定精度を改善する研究も進められています。野田響主任研究員がこの原理を説明する装置を使った実演を行いました。
(8) 二酸化炭素やメタンの吸収と排出を測ってみよう!
自然の中で起こるCO2やメタンの吸収・排出を理解することが、地球温暖化の正しい理解に繋がります。植物は光合成によりCO2を吸収し、土壌は有機物の分解により常にCO2を排出します。一方で、森林土壌はメタンを吸収していますが、水田や湿地など、嫌気的な環境からは、メタンが排出されます。その実態を確かめるため、植物や土壌を配した実験施設を使って、様々な測定結果を説明しました。
(9) 海はCO2を吸収する? 青・緑・黄・実験して自分で確かめよう!
人間活動で大気中に放出された大量のCO2のうち約半分は陸上植物と海洋が吸収してくれています。このうち海洋の仕組みについて理解するために、実際の海水がCO2を吸収する様を目の前で確認できる簡単な実験を実演し、来場者の皆様にも体験していただきました。海洋によるCO2の吸収は海水の酸性化という海の生物に関わる環境問題にもなっています。
実験のやり方は下記の図のとおりです。この実験の秀逸なところはキットを家に持ち帰り、今回体験した通りのことをすれば、誰でもCO2博士としてご家族を驚かすことができるところです。小瓶を振るだけで、試薬の色が酸性度に応じて黄色(酸性)になったり緑(中性)になったり青(アルカリ性)になったりします。これであなたも海水とCO2濃度の関係を忘れませんよね。
当初6回を予定していた実験は希望者が多かったため12回に増やし、200人以上に体験していただきました。
(10) 自転車de発電(自転車発電でLEDライトは何個つけられるのか?)
お馴染みになった自転車発電、今回は高効率のLEDライトを使用して人力でどれくらい明るくできるかに挑戦していただきました。準備したLEDライトは28個、一つあたり810ルーメン(旧60Wの白熱球の明るさに相当)ですので、全部つけると相当な明るさなのですがこれが意外にすんなり、全部点灯できるのですね。省エネ型のライトならではの発電・発光体験です。また、違う自転車では、白熱球とLEDライトの発電の大変さの比較をしたり、羽のない扇風機を動かして涼しい風を浴びる体験をしてもらいました。さらに、人間がどれくらいの電気を起こせるものかを体験する自転車発電ランキングも実施しました。暑い日でしたので体験者には水分補給用の水をお配りし、熱中症には気をつけるようお願いするなどの対策を徹底しました。
なお、地球温暖化の対策として、「適応」に注目が集まっています。適応とはすでに進行してしまっている温暖化に対して、人間の方で適切な対応を取ることを言います。今回、自転車発電実施会場とメイン会場の地球温暖化研究棟の間(約50m、屋外連絡ルートあり)に野外の暑さ対策としてドライ型ミストを扇風機で拡散する装置をレンタルして設置したところ、子どもたちに大人気でした。地球温暖化研究棟では「自転車発電はどこでやってますか」とよく聞かれました。自転車発電を楽しみにしてわざわざ来場して下さるお客様が多いようです。
(11) 佐藤鸞峯様水墨画「豪雨」(2017環境大臣賞受賞)展示
この夏は西日本豪雨や引き続く台風により多くの方が被害を受けました。心よりお見舞い申し上げます。これまでに経験したことのない気象が地球温暖化が進行していく中で増えていくことが懸念されています。今回、水墨画家の佐藤鸞峯様のご協力をいただき、昨年の九州北部豪雨による被害をテーマとした作品を展示させていただきました。モノクロではあるものの静かに地球温暖化による環境影響の深刻性を訴える作品に注目が集まりました。
3. おわりに
夏の大公開は1年で最も多くの人々が研究所キャンパスに集まる機会です。ご報告しました通り、この日はつくばでは猛暑日を記録し、来場される方も研究所のスタッフも暑さ対策が大変でした。今後も熱中症への対応について万全を期す必要があります。国立環境研究所は、4月の春の一般公開ではやや大人向けの内容を、7月の夏の大公開では、世代を問わず、子どもさんも含めて楽しめる内容を準備しています。地球環境研究センターでは、今回も大人から子どもまで楽しく学習できるような夏の大公開を準備いたしました。
今後は暑さ対策もさらに工夫していきたいと思います。皆様のご理解とご協力を引き続きよろしくお願い申し上げます。