2018年1月号 [Vol.28 No.10] 通巻第325号 201801_325005

【最近の研究成果】 林床部炭素フラックスに対する気候変動の影響を探る:富士北麓カラマツ林における8年間の観測の結果から

  • 地球環境研究センター 炭素循環研究室 特別研究員 寺本宗正
  • 地球環境研究センター 炭素循環研究室 主任研究員 梁乃申

林床部の炭素フラックス(土壌呼吸[1]、微生物呼吸[2]、林床植生による光合成など)は、森林の炭素循環において重要な因子である。例えば林床部の二酸化炭素排出量(呼吸量)は、多くの場合森林全体の呼吸量の半分以上を占めるとされる。しかしながら、こういった林床部炭素フラックスの、温暖化をはじめとする気候変動に対する応答は、多くの不確実性を残しており、特に長期的な連続観測から解明するアプローチは少ない。本研究は、林床部炭素フラックスの季節変動および年々変動と環境因子の関係性から、気候変動が林床部炭素フラックスに与える影響を検出する事を目的とする。そのために、富士北麓カラマツ林に自動開閉チャンバーシステムを設置し、林床部炭素フラックスを連続的に観測した。2006年から2013年の8年間の観測では、林床部の呼吸量には地温が強く影響しており、年積算炭素排出量も年平均地温の上昇に伴って増加した(図1)。一方で、本観測サイトにおける年降水量は約1800mmと湿潤な環境であるため、林床部の呼吸量に対する土壌水分の影響は概して小さかった。しかしながら、降水量が著しく少なかった2013年の7月下旬から8月下旬にかけては、林床部の呼吸量に対する土壌水分の強い影響(土壌水分と呼吸量の間に強い正の相関)が確認された。林床植生による光合成量の年々変動は、林床部の光環境に強く依存していた(図2)。台風による林冠部の攪乱(2007年および2012年)や、夏季に晴天が続いたこと(2013年)などが林床部の光環境の変動に関わっており、間接的に林床部の光合成量に影響していた。本研究結果は、温暖化によって林床部の地温が上昇した場合、本カラマツ林の林床部から排出される二酸化炭素量が増加する事を示唆するものである。

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図1年平均地温と年積算炭素排出量の関係(Rs:土壌呼吸[1]Rh:微生物呼吸[2]Ru:林床部呼吸[3]、NUE:林床部炭素交換量[4]

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図2成長期(5–10月)における林床植生の光合成量(GPPu)と林床部における光の強さの関係。赤丸で示した2007年と2012年は台風による林冠部の攪乱、2013年は夏季の晴天が続いた事によって、光合成量が高かった

脚注

  1. 土壌から排出される二酸化炭素の総称。微生物呼吸と樹木の根の呼吸から成る。
  2. 土壌から排出される二酸化炭素のうち、微生物が土壌中の有機物を分解する事によって発生する二酸化炭素。
  3. 土壌呼吸に林床植生が排出する二酸化炭素を足したもの。
  4. 林床部呼吸量から、林床植生による光合成量を差し引いたもの。

本研究の論文情報

Long-term chamber measurements reveal strong impacts of soil temperature on seasonal and inter-annual variation in understory CO2 fluxes in a Japanese larch (Larix kaempferi Sarg.) forest
著者: Teramoto M., Liang N., Zeng J., Saigusa N., Takahashi Y.
掲載誌: Agricultural and Forest Meteorology, 247: 194–206. DOI: 10.1016/j.agrformet.2017.07.024.

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