2018年1月号 [Vol.28 No.10] 通巻第325号 201801_325001

アジア・オセアニア地域におけるオープンサイエンスに向けた活動 —World Data System Asia-Oceania Conference 2017参加報告—

  • 地球環境研究センター 地球環境データ統合解析推進室 主任研究員 白井知子
  • 地球環境研究センター 地球環境データ統合解析推進室 高度技能専門員 福田陽子

1. はじめに

地球温暖化などの気候変動に関する情報は社会性が高く、研究者だけではなく、地方公共団体や一般市民による利用も意識したデータ利用体制の構築が求められています。2016年5月につくばで行われたG7科学技術大臣会合の共同声明でも、幅広い分野の研究成果(論文や関連するデータセット等)に学術関係者だけでなく、民間企業や一般市民が、広く利用・アクセスできるようにするためのオープンサイエンスの重要性について言及されました。地球環境研究センター(以下、CGER)でも、『地球環境データベース(GED)』の開発・運用や、研究データへの永続的なアクセスを支援するための国際的な識別子であるDOI(Digital Object Identifier)の付与など、オープンサイエンスを意識した活動に力を入れています。

9月27日から29日にかけてWorld Data System (WDS) Asia-Oceania Conference 2017が京都大学で開催され、CGERから3件の発表を行いました。WDSという組織の紹介を含めて、どのような発表が行われたかを報告します。

2. World Data System(WDS)とは

WDSは、科学界の国連と呼ばれる国際科学会議(International Council for Science: ICSU)が実施している、科学データに関する国際的取り組みの高度化を目指す国際組織で、品質管理された科学データの長期的な保全と提供によって、ICSUが推進する科学研究事業を支援することを目的としています。1957–58年に実施された国際地球観測年(IGY)を期に設立されたWorld Data Center(WDC)と、天文・地球物理学データの解析サービスを提供するFederation of Astronomical and Geophysical Data Analysis Services(FAGS)を再編して、2008年に設立されました。2017年9月時点で、108のデータセンターやデータ関連組織によって構成されています。WDSの前身にあたるWDCでは、地球科学系分野での活動に限定されていましたが、WDSは人文社会科学分野までを含む幅広い領域にわたるデータを対象としています。ちなみにWDSの国際プログラムオフィス(IPO)は、ICSUのプログラムIPOとして初めて日本に設置されたもので、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)にあります。

3. 会議内容

本会議は、アジア・オセアニア地域でのオープンサイエンスにおける国際的な協力関係を構築し、国家間の差を埋めることを目的として開催されました(写真1)。3日間で38件の口頭発表、30件のポスター発表があり、国際的なデータ相互利用促進に向けての取り組みの紹介のほか、各国・各機関の活動報告が行われました。国際的な取り組みとしては、国立環境研究所(以下、国環研)の特任フェロー春日文子氏による、Future Earthのデータ利用についての報告も行われました。その他の国々の取り組みとして、中国科学院のデータベース化の30年間の歩みをはじめ、地震や津波、台風といった自然災害を対象にした発表が多く行われました。例えば、フィリピン大学で提供されている、防災・減災のための気象情報やサイクロンの準リアルタイム監視ツールや、データ統合・解析システムで開発されているリアルタイム洪水予測など、科学データを用いた一般市民向けのツールが開発・展開されていることが紹介されました。また、宇宙放射線や磁気嵐といった健康や社会インフラに影響を及ぼす可能性のある太陽活動を観測し、予測を行う宇宙天気分野においてもデータ利活用が進められており、観測データの交換を目的に設立されたアジア・オセアニア宇宙天気連合の紹介をはじめ、中国、タイ、マレーシア等の各機関の取り組みについて報告が行われました。インドやアメリカにおける大学図書館員による研究データマネージメントの取り組みや、2017年9月に発足した新しいデータリポジトリ認証CoreTrustSealについても紹介がありました。さらに、グループディスカッションの時間が設けられ、Future Earth、宇宙天気、オープンデータの3グループに分かれて、各組織の現状やそれぞれのグループの懸念事項、今後の取り組みについての議論が交わされました。

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写真1アジア・オセアニアをはじめ、アメリカや南アフリカから集まった参加者

CGERからは、以下の3件の発表を行いました。三枝は、Data Activities related to Future Earthのセッションで、国環研での気候変動や炭素循環研究、特に地球環境モニタリングや、温室効果気体の人為的排出量の新たな推定方法についての紹介を行いました(写真2)。白井は、Open Data and Open Scienceのセッションで、環境データの多様性や、そのオープン化に向けた課題と、取り組みの例として、CGERで運用している『地球環境データベース(GED)』や、研究データへのDOI付与までの体制作り等について紹介しました(写真3)。福田はポスター発表で、温室効果関連物質の地上観測網が不足しているアジア・太平洋域に特化して、国環研が中心、もしくは参画機関として実施している観測や観測ネットワークの情報を集約し、観測項目や観測場所で絞り込めるような情報提供サイトを開発中であることを紹介しました(写真4)。環境データは汎用性が高い上、データをオープンにする際の課題は、他の分野との共通点も多いため、発表後に話しかけに来てくれるなど、参加者の多くに関心を持ってもらえたという手応えが感じられました。

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写真2国環研での地球環境モニタリングについて発表を行う三枝

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写真3オープンサイエンスに向けた取り組みについて発表を行う白井

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写真4ポスター発表でインドの大学図書館員に説明を行う福田

4. おわりに

会議では、幅広い分野をカバーしたデータベースの構築や、ビッグデータに応じたインフラ、人材の不足など、各国・各機関それぞれに課題を抱えつつも、データのオープン化に向けて尽力している様子が分かりました。CGERとして、オープンサイエンス関連の会議に参加し始めてまだ3年ほどですが、世界の現場でどのような試みが進められているかを知り、CGERで扱っているような環境データにどのように応用できるかを考える良いきっかけとなっています。現状では、オープン化に関する知識の不足やデータ管理のためのリソース不足により、データをオープンにすることのメリットよりもデメリットをより強く意識する研究者もおり、インセンティブのブレーキになることが一番のネックと感じていますが、今後、データの相互利用が進むに連れて、メリットのほうが実感されるようになってくるのではないかと期待しています。その流れに乗り遅れないように、まずは身の周りのデータから、オープンサイエンスの基盤作りを着々と進めていきたいと考えています。

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