2014年11月号 [Vol.25 No.8] 通巻第288号 201411_288008
日本気象学会2014年度堀内賞・正野賞・山本賞を受賞しました
2014年10月21日(火)〜23日(木)、福岡にて開催された日本気象学会2014年度秋季大会において、国立環境研究所地球環境研究センターの町田敏暢室長、塩竈秀夫主任研究員、釜江陽一特別研究員がそれぞれ堀内賞、正野賞、山本賞を受賞しました。
- 【堀内賞受賞者】
- 町田敏暢
- 【研究業績】
- 航空機を用いた温室効果気体のグローバル変動の観測とその解析
- 【選定理由】
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町田敏暢氏は国立環境研究所に入所し今日まで、一貫して航空機を利用した温室効果気体の観測を推進してきた。まず温室効果気体の循環の解明にとって重要であるが観測の空白域であったシベリアの3地点上空において1993年、1996年、1997年に相次いで定期観測を開始した。これらは大陸内部で系統的に行われた最初の航空機観測であり、北半球中高緯度の森林による二酸化炭素吸収が従来の理解より小さい可能性があることを指摘するなど、多くの新しい知見を見いだした。
シベリアでの観測に加え、気象研究所、日本航空、ジャムコ、JAL財団と共同で民間航空機を利用した新たな観測プロジェクト(CONTRAIL)を立ち上げた。このプロジェクトでは民間航空機搭載用の二酸化炭素濃度連続測定装置と改良型自動大気サンプリング装置を開発し、これらを日本航空が国際線で運航するボーイング747型機と777型機に搭載して、2005年より二酸化炭素濃度のデータを取得し続けている。このような民間航空機での広域にわたる系統的な連続観測は世界で初めてであり、上空における二酸化炭素観測を飛躍的に拡大させた。得られたデータはそれまで断片的にしか理解されていなかった地球規模での鉛直変動や緯度・経度変動について新たな事実を見いだすと同時に、国内外の多くの研究者にも広く提供して共同研究を進め、アジア域の二酸化炭素吸収量の評価、対流圏-成層圏間や南北両半球間での物質輸送の解明、GOSATなどの衛星観測の検証にも広く利用されている。
町田氏は、我が国における航空機観測の第一人者として世界気象機関全球大気監視(WMO/GAW)の温室効果気体部門科学助言委員会メンバー、EUの航空機観測プロジェクトIAGOSならびに航空機観測データ利用プロジェクトIGASの助言委員会メンバーに任命され、航空機観測の推進や観測データの品質向上に関わる国際的活動にも大いに貢献している。これらの功績に対して、日本気象学会から堀内賞が贈られた。
- 【正野賞受賞者】
- 塩竈秀夫
- 【研究業績】
- 過去の気候変化の要因推定と気候将来予測の不確実性に関する研究
- 【選定理由】
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人間活動による温室効果ガスやエアロゾルの排出によって、過去にどれだけ気候が変化してきたかを評価すること、さらに将来変化予測の不確実性を分析・低減することは、 気候変動への対策を考える上で非常に重要である。塩竈秀夫氏は、全球気候モデル(GCM)を用いた数値実験と観測データの解析に基づいて、過去の気候変化の要因推定と、将来予測の不確実性に関する研究を行ってきた。例えば、近年観測された猛暑や豪雨などに関して、人間活動がその発生確率を変えてきたのか否かを評価するイベント・アトリビューション研究を行ってきた。また、GCMの現在気候実験の誤差情報から予測の信頼性を評価する手法を開発し、マルチGCMの平均ではアマゾン川流域の湿潤化を予測しているにもかかわらず、実は乾燥化するという予測の方が信頼性が高いことを示した。さらに、塩竈氏は「気候変動に関する政府間パネル第1作業部会第5次評価報告書」において、気候モデル評価の章の執筆協力者として貢献した。現在は、「気候変動の検出と要因分析に関するモデル相互比較計画」の共同議長を務めている。これらの功績に対して、日本気象学会から正野賞が贈られた。
- 【山本賞受賞者】
- 釜江陽一
- 【研究業績】
- 二酸化炭素濃度上昇に対する対流圏調節過程とその気候変化への寄与に関する研究
- 【選定理由】
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釜江陽一氏の研究は、複雑な地球気候システムで起きている気候の変動メカニズムを解明するために、大気中二酸化炭素濃度の上昇によって、対流圏の雲や気温にどんな変化が生じるかを調査したものである。一般的に知られている、地上気温が上昇するに従って進行する「フィードバック」とは別に、大気の直接的な応答としての「対流圏調節」が重要であると指摘されている。釜江氏は気候モデルを用いた多様なシミュレーションを行い、対流圏調節のメカニズムとして、1. 対流圏の乾燥化によって雲が減り、太陽光の反射が減ること、2. 海洋上の境界層が薄くなること、3. 水循環が弱まること、を明らかにした。また、気候の応答プロセスの違いから、特に中・高緯度では、これらの直接的な応答が、進みゆく気候変化に果たす役割が大きいことを解明した。最近では、これらの研究成果からの発展として、近年の猛暑の頻発傾向の要因など、気候変化の新たな側面が明らかになりつつある。専門的な研究ではあるが、二酸化炭素をはじめとした外部強制因子に対する、地球気候システムの応答メカニズムの系統的な理解を進めていく上で、重要な成果である。これらの功績に対して、日本気象学会から山本賞が贈られた。