2014年11月号 [Vol.25 No.8] 通巻第288号 201411_288007

オフィス活動紹介—国環研GOSATプロジェクトオフィス— 温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」〜定常運用から後期利用運用へ〜

2009年1月23日に打ち上げられた温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)は、当初の計画通り5年の定常運用期間を2014年1月に無事終了し、現在も順調に稼働しています。定常運用終了以降をJAXAでは後期利用運用と呼んでいます。前回の掲載(2013年9月号)からほぼ1年、その間の主なイベントを以下にご紹介します。

まず、2014年2月に開催された「GOSAT定常運用終了審査会」において、プロジェクト開始時に宇宙開発委員会で設定された成功基準、(1) 温室効果ガスの全球濃度分布の測定、(2) 二酸化炭素吸収排出量の亜大陸規模(約7,000kmメッシュ)での推定誤差の半減、(3) 温室効果ガス測定技術基盤の確立、の全てを達成したことが確認されました。つまりこの5年余りの間に、GOSATは従来の地上観測では困難であった全球の温室効果ガスの観測や吸収排出量の推定誤差の大幅な低減を実現し、さらに副次的な成果として、全球規模の光合成量の直接測定につながるクロロフィル蛍光の観測に世界で初めて成功しました(図1)。

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図1クロロフィル蛍光の全球分布(Frankenberg, C. et al, 2011, Geophysical Research Letters, Volume 38, Issue 17, L17706, DOI: 10.1029/2011GL048738. より引用)

後期利用運用においては、有効な観測データ数向上の取り組みとして、(1) 観測箇所の晴天率の高い地点への変更、(2) 海洋上サングリント観測(太陽の強い反射光を得るため太陽光の海表面での鏡面反射を利用する観測。海を見たときに太陽がぎらぎらと光っている部分がそれにあたる)における緯度範囲の拡張(最大±20度)、を予定しています。また2014年7月に打ち上げに成功した米国NASAの二酸化炭素観測衛星(OCO-2)との相互校正・検証による協力も計画されています。

2014年3月末には、全球の月別および年間メタン収支の推定結果を、JAXA、環境省と合同で発表しました。メタンは二酸化炭素に次いで放射強制力の大きな温室効果ガスであり、両者を合わせると気温上昇寄与率のほぼ90%を占めます(IPCC AR5による)。これまでの地上観測データにGOSATのデータを加えることで、より確実性の高い推定が可能となり、メタン放出量の多い地域や季節変動の様子が明らかになりました(図2、図3)。詳しくは2014年3月27日の報道発表資料をご参照ください。 http://www.nies.go.jp/whatsnew/2014/20140327/20140327.html

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図22010年7月(上段)および2011年1月(下段)の、メタン正味収支の推定結果(左列)と推定値の不確実性(右列):国立環境研究所が開発した大気輸送モデルを使用 [クリックで拡大] *「不確実性」とは、推定結果が確実ではない程度(統計学では1σ(標準誤差))の大きさを表す。値が大きいほどその地域の推定結果が不確実(曖昧)であることを示す。

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図32009年6月〜2011年5月までのメタンの月別収支量にもとづく地域別年間収支量の推定

同じく2014年3月には、GOSATのデータ提供サービスサイト(GOSAT User Interface Gateway: GUIG)のトップページを飾った折々のCAI(Cloud and Aerosol Imager)画像を、ギャラリー内の「『いぶき』が捉えた地球の様子」として一覧ページに纏めました(図4はその一例)。2009年6月以降の、台風、洪水、火山の噴煙・溶岩流、山火事、砂嵐、流氷などの事象に関する画像約60点が収録されています。 http://data.gosat.nies.go.jp/GosatBrowseImage/browseImage/cai_image_gallery_ja.html

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図4「いぶき」がとらえたアイスランド、バルダルブンガ火山の溶岩流(赤・緑・青色の各三原色にCAIの波長の異なる三つのバンド(短波長赤外、近赤外、紫外)を割り当てて合成した疑似カラー画像。火口付近では溶岩流は赤く、噴煙は青く見える)

2014年6月9日〜12日には、第6回GOSAT RA PI(研究公募 研究代表者)会議をつくば国際会議場にて開催しました(写真1、写真2)。60名のPI(研究代表者)およびCo-I(研究分担者)、国立環境研究所・環境省・JAXA・NASAの関係者等で総勢126名が参加しました。4日間の会期中、プレナリー・校正・検証・アルゴリズム・モデル・応用の各セッションにて、プロジェクトからの4報告と52件の口頭発表があり、9件のポスター発表とともに、活発な意見交換の場となりました。因みにこれまでの研究公募では120件のテーマが採択され、世界中で活発な研究が進められています。

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写真1第6回GOSAT RA PI 会議参加者(つくば国際会議場にて)

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写真2第6回GOSAT RA PI会議終了後のテクニカルツアーにて国環研とJAXAを訪問

これら以外にも、GOSATプロジェクトオフィスで、様々なデータの処理・蓄積・提供が行われていることは前回紹介した通りです。今まで扱ってきたデータの総量は、観測結果の一次処理(Level1)データから本稿で紹介した全球吸収排出量・全球3次元濃度分布(Level4)データにいたる標準プロダクトだけでなく、それらの処理に必要な気象データ等を含めると、現時点で約600TB(テラバイト)に上ります。なお公開プロダクトは、どなたでもGUIGから入手できます(簡単なユーザ登録が必要です)。またGUIGのギャラリーには、GOSATデータの解析結果(二酸化炭素、メタン、水蒸気)やCAIが捉えた観測画像などを示す図や、アニメーション画像等を掲載しておりますので、是非一度ご覧ください。

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