2014年2月号 [Vol.24 No.11] 通巻第279号 201402_279006

多様な観点からの研究が生み出す成果 JAMSTEC(海洋開発研究機構)第10回「地球環境シリーズ」講演会 地球環境はどう変わったのか?—CO2高濃度時代への警鐘—

  • 地球環境研究センター 交流推進係 高度技能専門員 柿沼美穂

2013年11月25日(月)にヤクルトホールにおいて、海洋開発研究機構(以下JAMSTEC)が開催した「地球環境シリーズ」講演会「地球環境はどう変わったのか?—CO2高濃度時代への警鐘—」に参加しました。JAMSTECは、国立環境研究所地球環境研究センターと近いテーマでの研究もしていますが、独自の観測網・観測施設や、研究ネットワークを有し、地球環境研究センターとは違う観点から研究成果を発表しています。実際、同じ研究対象であっても観点の異なる研究によりさらに多くの知見が得られることをあらためて知る機会となりました。

JAMESTEC理事長の平朝彦氏による開会の辞に続いて古海洋環境研究チームリーダーの原田尚美氏からこの日の講演会のポイントついて紹介がありました。研究背景なども含めたわかりやすい解説で、その後の研究発表の概要をつかむことができました。

続いて宮崎和幸研究員が「これまでの大気中CO2濃度の変動とその要因」について発表し、まず、標高3397mにあるハワイのマウナロアの観測所において、CO2の濃度が一時的にではあるにせよ、400ppmvを超えたことを、炭鉱で空気の異変を察知して鳴く「カナリヤの警告」にたとえました。そして、このようなCO2の濃度変動は、1850年以前はおもに土地利用の変化が原因でしたが、それ以降は化石燃料の利用という人間活動がもたらしたと述べました。さらに2013年9月に公表されたIPCCの第5次評価報告書(AR5)WG1に示された炭素循環の図を用い、地球における炭素循環が自然現象と人間活動の両面から徐々に解明されてきてはいるものの、その理解には、植物や土壌、海洋などに関する、さらに正確かつ長期的な観測情報が必要であるとしました。また衛星による観測は全球をカバーできるため、今後の発展が期待されます。

次に海洋データ同化研究チームリーダーの増田周平研究員が「海水温と海面水位の長期変化」と題して、海洋が過去50年間、温室効果ガスにより大気に蓄えられる熱エネルギーの8割以上を吸収していること、ただし、今後もこのような吸収が継続するかは不明であり、海面過程や海洋循環の変動を考慮しながら観測、解析を継続する必要があることなどを解説しました。海水温の変化は熱膨張や収縮による海面水位の変化を伴い、漁業や居住地など、人間社会に大きな影響を与えるため、これらの正確な把握は、予測や適応策の基盤ともなります。

さらに海洋循環研究チームリーダーの村田昌彦研究員が「海に貯まるCO2—その仕組みと蓄積量—」について、人間活動によって放出されたCO2の約30%を海が吸収・蓄積していること、吸収されたCO2は「溶解度ポンプ」「生物ポンプ」と呼ばれる作用により、海の表層面から内部へと運ばれていること、しかしながら、CO2の高濃度時代となりつつある現在、モデル等による吸収の予測値よりも実測値のほうが低く出ており、このような働きが次第に弱まりつつある可能性が報告されました。また、村田研究員は「海洋酸性化」にも触れ、海水のpHの低下について、多くの生物にはまだpHの低下に対応する余裕があるが、カキ養殖場での稚貝の死滅などの報告も入ってきており、生物ポンプの働きにも警戒信号が灯りつつあるのではないかと述べました。この発表では海洋開発研究機構の観測機器を使った実際の観測作業も紹介され、地道な観測の積み重ねが重要な解析へとつながることがより実感されたと思われます。

陸域生態系研究チームリーダーの鈴木力英研究員は「CO2などの温室効果ガスの変動に対する陸上生態系の関わり合い」について、(1) 温暖化による植生変化が地球の炭素循環そのものに影響を与えている、(2) 永久凍土から発生する温室効果ガスが温暖化をさらに加速するという2つのポイントから説明しました。(1) については、近年高緯度地方における大気中のCO2濃度の季節変化の振幅が増大(1960年頃に対する2010年頃の増幅は50%に達する)しており、この間の植生動態モデルと合わせて考察すると、北方の森林生態系の変化が、炭素循環の植生による光合成や呼吸の地理的な分布の変化にも影響を与えている可能性がある、また (2) については、(1) の変化ともあいまって、永久凍土中のCO2やメタンが増えており、その凍土融解は温暖化を加速させる可能性があるとのことです。

最後の発表者次世代モデル研究プログラムの木村富士男リーダーは、「温室効果ガスの増大による極端現象の変化」について、温暖化により猛暑、竜巻、台風などの極端現象がより激しくなるといわれているが、これらの極端現象が地域限定で頻度の低い現象であるため、相関関係ははっきりしていないと述べました。また、極端現象が引き起こす被害の大きさは、社会システムの脆弱さ等によっても差が出るため、社会への情報発信なども考慮に入れた長期的・総合的な対応が必要となります。

すべての研究発表のあと、周辺領域の研究者やジャーナリスト3名が講演者に加わり、パネルディスカッションが行われました。フロアも含め、活発な討論となり、「長期的・網羅的な観測の重要性」「コンピュータシミュレーションのより有効な活用法」「人間の経験をも活かす、統計学を越える理論」「生物の応答に関するより高精度の情報」「モデルと観測のさらなる協力態勢」「多数の視点からの多様な地球環境の展望」などが今後の課題として挙げられました。

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会場では関連研究のポスター発表も行われ、参加者からさまざまな質問が出されていた

シンプルでわかりやすい図表を多用したり、観測の原理や具体的な方法などの説明を加えたりと、より多くの人に理解しやすい配慮がされていて、たいへん意義深い講演だったのではないかと思います。また、今後の意欲的な研究展望が示されており、気候変動についてより多面的な把握が進んでいることを感じさせる内容でもありました。しばしば、同様のテーマの研究であれば、複数の分野を統合して行うほうが効率的ではないかといわれますが、複数の分野が協力して行う研究は、さまざまな気づきを生み、結局は効果的なのではないかとも考えられます。そういう意味でも有意義な講演会であったと思われます。

講演会のウェブサイトURL http://www.jamstec.go.jp/rigc/j/sympo/2013/

目次:2014年2月号 [Vol.24 No.11] 通巻第279号

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