2011年10月号 [Vol.22 No.7] 通巻第251号 201110_251006
中長期ロードマップ中間整理 3 7つのWGで場面ごとの対策を検討 —中央環境審議会地球環境部会中長期ロードマップ小委員会の議論から—
1. 7つのWGと3つのサブWG、一つずつの勉強会と検討作業部会で中長期目標達成のための対策・施策に関する専門的・技術的観点から検討
2009年12月28日から中長期ロードマップ検討会が始まり、その際に全体的なことを議論する親委員会と、各セクターの具体的な対策を検討するワーキンググループ(WG)が設置された。2010年4月15日に、中央環境審議会地球環境部会の小委員会として中長期ロードマップ小委員会が設置されることが決定され、親委員会は産業界等の委員を加えて本小委員会としてスタートし、WGは拡充して全部で7つのWG、3つのサブWG等で構成されることになった。1) 2050年までの大きな方向性を議論するマクロフレームWG、2) 各生産セクターの動向を分析し具体的な対策を提案するものづくりWG、3) 住宅・建築物WG、4) 自動車WG、5) エネルギー供給WG、6) それらを地域の視点から都市計画・国土計画の観点も踏まえて分析を行う地域づくりWG、そして、7) もう一方の重要なステークホルダーである生活者の行動を分析し、ロードマップで得られた知見をどのように伝えたら行動に結びつくかを検討するコミュニケーション・マーケティングWGという構成である。
国立環境研究所が中心となって行ったモデルシミュレーションとの関係は、1) 各WGで将来推計に必要なデータの検証を行う、2) モデルシミュレーションは各WGのデータを用いて整合的な分析結果を提示する、3) その結果を各WGの専門家が分析しながら、具体的にどのような政策をとれば実現する可能性が高まるのか、それぞれのWGのロードマップを構築する、というものである。モデルシミュレーションとWGの検討が相互に関連して行われたことに特徴があろう。
それぞれのWG(図)では次のようなことを検討した。詳細については、「地球温暖化対策に係る中長期ロードマップ」のホームページ[注]をご覧頂きたい。
(1) マクロフレームWG
2050年のわが国の姿を描くには、国際社会のグローバル化はどのように進展するのか、日本はどのような発展の方向性を志向するのか、何によって経済成長を達成するのか等の「分岐点」がある。マクロフレームWGでは、これらの分岐から帰結する「想定しうる」社会として、5つの社会[ものづくり統括拠点社会、メイドインジャパン社会、サービスブランド社会、資源自立社会、分かち合い社会]を描写した。
(2) ものづくりWG
G8サミット等において表明されている「世界の温室効果ガスの排出を2050年までに少なくとも半減する」ことを目指し、世界で低炭素社会を構築していくことと、わが国の成長を両立させるためには、わが国のものづくりはどうあるべきか。ものづくりWGでは、急成長するアジア諸国との競争の激化、国内の高齢化や技術の担い手不足など、日本のものづくりをとりまく内外の状況や、グローバルな炭素制約の動向等について現状分析を行い、ものづくりの低炭素化を通じた持続可能な発展モデルを提案するとともに、そのために必要な具体的な施策手法を整理した。
世界トップレベルの技術力という強みをもちながら、開発力を製品普及へ結びつける戦略的アプローチの不足という課題が指摘される中、低炭素社会時代におけるわが国のものづくりにおいては、グローバルな競争を勝ち抜くための人材の育成・組織の改革など企業の環境経営マネジメント力を高める取り組み、企業の環境配慮に向けた努力が報われる仕組み、低炭素化に向けた投資や消費を後押しする金融システム、消費者の意識を高めて需要を創出する仕組み等が必要となる。これらの取り組み・仕組みを通じ、国内市場の創出と海外市場の獲得を実現し、かつ、世界の低炭素化へ貢献し、わが国のプレゼンスを高めてゆく姿を「低炭素型スマートものづくり立国」として提案した。
(3) 住宅・建築物WG
住宅・建築物分野は、これまで自主的な取り組みが多いことから、省エネ住宅・建築物の普及率は低く、1990年以降エネルギー消費量が大きく伸びた分野である。どういった対策をどの程度まで導入することを想定できるのか、当該対策の導入を促進するための施策は何なのか。住宅・建築物WGでは、まず、長期的な方向性として、2030年において新築住宅・建築物でゼロエミッションとすること、2050年において住宅・建築物のストック平均でゼロエミッションとすることを目指すべき将来像として設定し、これらの検討を行った。
(4) 自動車WG
自動車対策において中心的な役割を果たすハイブリッド自動車や電気自動車、燃料電池車といった低炭素な次世代自動車は、その普及がハイブリッド自動車を中心に本格化してきているものの、国内の自動車保有台数約7500万台に占める次世代自動車の割合は未だ2%程度(約130万台、2010年10月現在)であり、一層の普及を図る必要があるのが現状である。これに加え、エコドライブ等の対策がどこまで導入されることを想定できるのか、当該対策の導入を促進するための施策は何なのか。自動車WGでは、2050年には新車販売の大部分(約90%)が次世代自動車となり、大幅に普及するとともに、エコドライブやカーシェアリングが浸透・拡大して自動車利用の効率化が進むことを目指すべき将来像としてまず設定し、これらの検討を行った。
(5) 地域づくりWG
日々の暮らしからの温室効果ガスの排出抑制を図るためには、自動車や住宅・建築物といった単体の効率改善に加えて、自動車の走行量削減のためのコンパクトシティ化の推進、および都市よりミクロな地区・街区単位でのエネルギー利用効率化等の対策の強化が必要である。こういった地域単位での排出削減の取り組みは、急速な高齢化への対応、地域の状況に応じた行政サービスの展開等、わが国のまちづくりが抱える長期的な課題への対応と方向性を一つにしているものである。
地域づくりWGでは、温暖化対策の実施を通じて持続可能で快適な魅力ある地域をどう実現していくのかについて、特に、地域全体の土地利用の配置や交通の低炭素化および地域資源の活用に焦点を当て、土地利用・交通サブWGおよび地区・街区サブWGを、農林水産業の活性化を含めた農山漁村地域における地域資源の活用に焦点を当てて農山漁村サブWGを設置し、検討を行った。また、交通を一体的に捉えた地域間交通の低炭素化も地域づくりWGの検討対象としており、特に、物流分野について検討を行った。
(6) エネルギー供給WG
「新成長戦略」(平成22年6月閣議決定)等において決定された2020年までに一次エネルギー供給に占める再生可能エネルギーの割合を10%にするという目標を達成するため、太陽光発電装置等の個々の再生可能エネルギー技術がどこまで導入されることを想定できるのか、当該対策の導入を促進するための施策は何なのか。それに加え、エネルギー供給の低炭素化を総合的に進めるために必要な施策にはどういうものがあるのか。エネルギー供給WGでは、2020年、2030年そして2050年に目指すべきエネルギー供給の姿を設定し、[1] 再生可能エネルギーの普及基盤を確立するための支援、[2] 再生可能エネルギーの普及段階に応じた社会システムの変革、[3] 次世代のエネルギー供給インフラ整備の推進、[4] 化石エネルギー利用の低炭素化の実現、安全の確保を大前提とした原子力発電の利用拡大、という4つの柱立てに基づき検討を行った。今回は [1] および [2] について重点的に検討を行った。
(7) コミュニケーション・マーケティングWG
日々の暮らしに関わる家庭やオフィスにおいて省エネ機器や低公害車の普及を進めるためには、単に買い替えを呼びかけるのみではなく、人々の意識を変え、行動変容を促していくことが必要となる。そのための障壁は何なのか、その障壁を取り除くにはどのような方策が考えられるのか。コミュニケーション・マーケティングWGでは、生活者の実態をヒアリング等によりきめ細かく把握し、低炭素商品のマーケティングという視点に立ち、生活者のニーズに合わせた効果的な情報提供のための戦略を検討した。
2. 「2013年以降の対策・施策に関する検討小委員会」が始まる
2011年3月11日に東日本大震災が発生した。東日本大震災で個人的に感じたことは、中長期ロードマップなり、低炭素社会シナリオに、果たして必然があったのだろうか、ということである。人々の生活に寄り添う、地域の風土に根差した、次世代のためになるものであっただろうか。
2011年8月2日から「中長期ロードマップ小委員会」の議論を引き継ぐ形で、「2013年以降の対策・施策に関する検討小委員会」が始まった。中長期を見据えた骨太の温暖化対策を念頭に置きながら、2012年度で期限の切れる京都議定書第1約束期間以降の温暖化対策について、より具体的な対策・施策を検討するものである。「中長期ロードマップ小委員会」に参加した委員をベースに、今までの委員の2名がご事情で代わられ、新たに地方自治体から2名の委員が加わった。
「2013年以降の対策・施策に関する検討小委員会」では、今までやってきたことを真摯に見直し、少しでも必然があるものになるよう尽力したい。
脚注
- 中長期ロードマップ小委員会の中間整理や関連資料は下記のウェブサイトからダウンロードできる。ご参照されたい。
http://www.challenge25.go.jp/roadmap/roadmap_detail.html