2011年10月号 [Vol.22 No.7] 通巻第251号 201110_251005

社会のための科学技術の実現に向けて(国際会議参加報告)

地球環境研究センター 主席研究員 山形与志樹

持続可能な社会のための科学と技術に関する国際会議2011—グローバルな持続可能性の構築に向けて:アジアからの視点—が、2011年9月14日〜16日の3日間、国立京都国際会館において開催された。これは、日本学術会議の地球圏–生物圏国際協同研究計画(IGBP)分科会の委員長でもある名古屋大学地球水循環研究センター安成哲三教授が組織委員長をつとめられ、日本学術会議が主催した。私は地球環境研究センターに設置されている「グローバルカーボンプロジェクト(GCP)つくば国際オフィス」が属する国際科学会議(International Council for Science: ICSU)の地球システム科学パートナーシップ(Earth System Science Partnership: ESSP)に関連する会議として参加させていただいた。

本会議開催の背景としては、現在のICSUの地球環境変動に関する分野横断型の研究プログラムであるESSPをさらに発展させる形で、IGBP、地球環境変化の人間的側面に関する国際研究計画(IHDP)、生物多様性科学国際共同研究計画(DIVERSITAS)に世界気候研究計画(WCRP)の一部も加えた大連合が模索される中、国際的な研究の新たな枠組みの検討に日本としても貢献をしようということで、アジアに焦点を当てた会議を開催することとなったものである。特に、2010年、“Grand Challenge on Global Sustainability Research” と題するグローバルな持続可能性の研究の重要性を強調する提言がICSUでまとめられ、そこでは破壊的な全球的な環境変化を理解・予想し、それを回避・対処する方法を開発し、全球的な持続性を達成するための技術的、政策的および社会的応答を促進することの重要性が指摘された。この提言を受けて、これらの課題に関する検討を行い、アジアにおける自然–人間系の持続可能なシステムの構築をめざす方策を議論することが本会議の大きな目的の一つである。

また、来年3月にロンドンで予定されているICSU主催の “Planet under Pressure” Open Science Conferenceへの橋渡し、また来年6月のRio+20(地球環境サミット)という地球環境に関する国際政治の転換点に向けて、今後10年間の地球環境変動に関する研究を展望する “Grand Challenges” の検討も急務となっている。

このような中、アジアでは人口が世界の60%に達し、各種の環境問題が深刻化している一方で、まだ多様な生態系に恵まれ、伝統的な生活様式や農業を維持している。このアジアの視点に注目することで、アジアの持続可能な自然-人間システムの構築について考えることがテーマとして掲げられた。

特に主催者からは、アジアで進行する急激な経済発展と巨大都市化、それに伴う大気・水汚染、森林破壊、さらには将来の「地球温暖化」が大きな負の要因として働きつつあるため、アジアにおける持続性社会の新たな構築を、アジアにおける伝統的な「古い」持続性社会の遺産を生かしつつ、同時に近代化の負の側面を克服して、いかに「新しい」持続性社会を構築するかを考えることの重要性が提言された。

このような問題意識を踏まえて、本会議は、1) アジアの環境問題-地域からの報告、2) 水資源と管理、3) 土地利用・生態系サービス・生物多様性、4) 都市化と脆弱性、5) 持続可能な地域と世界に向けた国際的な取り組みの5つのセッションで構成され、講演と議論がなされた。議論の詳細については、後日にまとめられて、学術会議からの関連する国際会議にインプットされる予定であるが、下記に本会議の各セッションにおけるセッション名と発表者を示す。

基調講演 Deliang Chen
セッション1:アジアの環境問題—地域からの報告 Yang Xiuqun
Batjargal Zamba
Amita Baviskar
Bounthong Bouahom
Budi I. Setiawan
Le Quoc Doanh
Joon Kim
Liu Gin-Rong
Arun Agrawal
セッション2-1:喫緊の課題「水資源と管理」 沖大幹
XIA Jun
Falk Schmidt
セッション2-2:喫緊の課題「土地利用・生態系サービス・生物多様性」 Edurado S. Brondizio
矢原徹一
Li Xiubin
セッション2-3:喫緊の課題「都市化と脆弱性」 林良嗣
David Banister
Zhou Jian
竹内邦良
セッション3:持続可能な地域と世界に向けた国際的な取り組み Sybil Seitzinger
Pavel Kabat
Anantha Kumar Duraiappah
Hassan Virji
中塚武
米本昌平

個人的には、バーチャルウォーター[注]に関する研究の歴史と今後の課題を話された東京大学の沖教授、人類の数万年の歴史を生物多様性と人間との関わりの歴史としてまとめられた九州大学の矢原教授、世界の都市の発展の経緯と今後の方向性を交通システムの形態を軸として展望されたオックスフォード大学のBanister教授の講演が特に印象に残った。そして、来年から国際応用システム分析研究所(IIASA)の所長に就任が内定しているワーゲニンゲン大学のKabat教授から、モンスーンが特にアジアの膨大な人口を支える水田農業にとって不可欠な水を提供していること、一人当たりGDPが増大する際の都市化のパターンが都市間の相互作用として類型化され、各種の環境負荷との関係が整理できることについて多くのことを学ぶことができた。なお、プログラム全体の詳細と各発表のアブストラクト(英文)が下記のホームページからダウンロード可能なので是非参照されたい。
http://www.scj.go.jp/ja/int/kaisai/jizoku2011/ja/index.html

また、ICSUにおける検討と並行して、Belmont Forumという研究支援機関の組織がリードして、今後の環境研究の方向性を検討しており、特に「沿岸域の脆弱性」や「淡水の安全保障」がテーマとして議論されていて、来年1月には第5回Belmont Forumが京都市の総合地球環境学研究所において開催される予定である。

脚注

  • 農畜産物を輸入している国において、仮にその輸入品を自国で生産するとしたらどの程度の水が必要かを推定したもの。

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