2014年2月号 [Vol.24 No.11] 通巻第279号 201402_279001

気候変動枠組条約第19回締約国会議(COP19)および京都議定書第9回締約国会合(CMP9)報告 2 2015年合意に向け、折り返し地点へ

  • 地球環境研究センター 温室効果ガスインベントリオフィス 高度技能専門員 畠中エルザ
  • 地球環境研究センター 温室効果ガスインベントリオフィス 高度技能専門員 小野貴子

国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)報告 一覧ページへ

2013年11月11日〜23日に、ポーランド・ワルシャワにおいて国連気候変動枠組条約(UNFCCC)第19回締約国会議(COP19)および京都議定書第9回締約国会合(CMP9)が開催された。これと並行して、強化された行動のためのダーバン・プラットフォーム特別作業部会(ADP)第2回会合(第3部)、および第39回補助機関会合(科学上及び技術上の助言に関する補助機関会合:SBSTA39、実施に関する補助機関会合:SBI39)が開催された。国立環境研究所からは、日本政府代表団(交渉)、サイドイベント(発表)、ブース(展示)という三つの立場で参加した。以下、政府代表団による交渉について概要を報告する。サイドイベントの報告は地球環境研究センターニュース1月号に、展示ブースについては、国立環境研究所ウェブサイト(http://www.nies.go.jp/event/cop/cop19/exhibition/20131111-16.html)に掲載している。

1. ADPの成果

南アフリカ・ダーバンのCOP17(締約国会議については地球環境豆知識参照)で設置が決まり、2015年のCOP21で2020年からの将来枠組み等を決定するための議論を行っているADPでは、今後の議論の方向性や進め方が決定された。

2020年以降の将来枠組みについては、先進国及び途上国各国に対し、予定されている(intended)国内で決定された貢献度(nationally determined contributions)、すなわち各国内の意思決定プロセスで自主的に決定した削減目標・削減行動について、国内で準備を開始または強化すること、またCOP21より十分に事前に(可能ならば2015年の第1四半期までに)それを表明するよう呼びかける決定がなされた。当初、約束(commitment)となっていたが、合意の直前に貢献度(contribution)に置換された。これは、途上国に配慮して「貢献度」という弱めの表現を用い、かつCOP21の前に貢献度に関して事前に協議する余地を残すものである。

2020年以前の野心レベルの向上、すなわち、世界全体で現在目指されているレベルを上回る排出削減の達成に向けては、削減目標や削減行動を依然表明していない国には表明を、先進国には削減目標の速やかな実施や、削減目標の(向上させる方向での)見直し(revisit)、また削減目標の前提条件があればその見直しを、削減行動を表明した途上国にはその実施や必要に応じてその行動の強化を促すことになった。

また、高い削減ポテンシャルが見込まれる行動の機会を技術的に評価する作業を2014年から加速させること、都市や地方レベルにおけるベストプラクティスの共有を進めること、自国での排出削減努力の分を増やしてもらうべくCER(クリーン開発メカニズムから得られるクレジット)の自主的な取り消しの推進を各国に勧めることが決められた。

2. 長期的資金

今回のCOP議長国ポーランドが出したいと考えていた成果には、上記のADPの議論の方向付け以外に、資金というテーマがあった。

この中では、とくに長期的資金の作業プログラムに関する決定が重要だった。その内容は、カンクン(COP16)で正式に合意された、2020年までに途上国支援のために毎年1000億米ドルを準備するという目標に向けての先進国のコミットメント、資金提供規模の予測可能性を向上させることが重要であるとCOPとして認識し、気候変動に係る公的資金準備の継続性の維持を先進国に促すことである。また、先進国に対し、2年ごとに、気候変動に係る資金提供を2014年から2020年にかけて増加させるための戦略等に関する情報を提出するよう呼びかけることが決まった。なお、同決定により、長期的資金に関する検討の継続やワークショップ等の開催、気候変動資金に関する2年ごとの閣僚級の対話を2014年から2020年にかけて実施することも決定された。

3. 気候変動の悪影響による損失と被害(ロス&ダメージ)

今次会合では、気候変動の悪影響に対してとくに脆弱な途上国における、極端現象および徐々に起こる現象(海面上昇等)を含む、損失と被害に取り組む(address)ためのロス&ダメージに関するワルシャワ国際メカニズムが設置されることが決まった。本メカニズムは、(1) ロス&ダメージに取り組むための包括的なリスク管理のアプローチに関する知識や理解の向上、(2) 関係ステークホルダー間の対話、調整、一貫性と相乗作用の強化、(3) 資金、技術、キャパシティビルディングを含めた行動と支援の向上といった機能をもつこととなる。本メカニズム最初の執行委員会は3月までに開催し、関係国際機関や地域機関のオブザーバー参加を求める予定である。執行委員会は今後2年間の作業計画を作成する。当該執行委員会の構成、手続きはSBSTAとSBIが決めることとなった。

こうして、途上国、とくに島嶼国の強い主張によりロス&ダメージのメカニズムが設置されることになったが、COP16で合意されたカンクン適応フレームワーク下での設置、すなわち既存のロス&ダメージに関する議論の範疇を超えないよう先進国が歯止めをかける形での合意となった。先進国側の大きなコスト負担を伴う可能性があるからである。複雑な仕組みになっているため、実際にどのような展開になるかは今後注視が必要である。

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上着を脱ぎ腕まくりで最終全体会合の議事進行を行うコロレツCOP議長

4. 温室効果ガスインベントリ、国別報告書、隔年(更新)報告書関連事項

筆者らが交渉に関わった、測定・報告・検証可能性、すなわち透明性の確保の観点から重要な温室効果ガスインベントリ、国別報告書、隔年(更新)報告書等の議題では、いくつかの重要な進展が見られた。

途上国の隔年更新報告書(BUR、表参照)の品質担保の役割を担う国際協議・分析(ICA)のうち、技術的分析を行う技術専門家チームの構成等に関する議題については、構成等のありようによって実質的に技術的分析の中身や深さが変わってくることから、前回のCOP18での採択を目指していたものの、合意できていなかった。ただ、最初のBUR提出期限が2014年12月末に迫っており、その6か月以内に開始されるICAのプロセスに向け準備が必要なこともあり、ようやく今回合意に至ったものである。その内容は、チームのメンバー選定にあたっては、選定を行う条約事務局に対し非附属書I国の国別報告書に関する専門家協議グループ(CGE)がガイダンスを与えること、またBURに含まれる情報を網羅するために必要な専門性を考慮に入れつつ、可能な限り、少なくとも1名、かつチーム全体の3分の1以下をCGEメンバーで占めること、加えて、チームメンバーの半数以上は非附属書I国からの専門家で構成すべきとされた。なお、技術的分析の目的は、緩和行動及びその効果に関する透明性の向上であり、国内政策の妥当性は対象外となった。

CGEの活動に関する議題も、作業内容の定義づけが上記ICAの議題の影響を受けたことから、結論が度々先送りにされていたが、今次会合でようやく合意をみた。その内容は、COP19で失効するCGEの暫定マンデートに代わる新マンデートの制定、活動期間を2014〜2018年の5年間とすること、国別報告書に加えBURを技術支援の対象に追加すること等である。

先進国の隔年報告書(BR)及び国別報告書の審査に関する議題では、審査の目的・タイミング・手続き・審査報告書の構成等について協議が行われ、審査ガイドラインの改訂作業が完了した。この中で、BRと国別報告書が同時に提出された場合は訪問審査を実施するが、BRのみが提出された場合は原則として当該国を訪問せず、条約事務局の所在地のドイツ・ボンにおいて集中審査を実施することが決まった。訪問審査と集中審査とでは一つの審査チームが取り扱う国の数が異なり、実質的に審査の深さが異なってくるものである。

なお、日本も昨年の12月27日に2020年目標を含む隔年報告書を提出している。この報告書は、上記ガイドラインに沿って、技術評価に付された後、SBIにおける多国間評価(multilateral assessment)というプロセスを経ることになっており、その中で削減目標の達成の状況が評価されることになる。

隔年(更新)報告書とその品質担保のあり方

  先進国 途上国
名称 隔年報告書(Biennial Report: BR) 隔年更新報告書(Biennial Update Report: BUR)
提出頻度 2年に一度 2年に一度
第一回提出期限 2014年1月1日 2014年12月31日
内容
  1. 温室効果ガス排出量およびその動向に関する情報
  2. 目標
  3. 目標の達成に関する進捗状況
  4. 排出予測
  5. 資金、技術、キャパシティビルディングに関して実施した支援
  1. 国家温室効果ガスインベントリ
  2. 緩和行動
  3. 資金、技術、キャパシティビルディング面のニーズおよび受けた支援
品質担保の方法 国際評価・レビュー(IAR)
= 技術評価 + 多国間評価
国際協議・分析(ICA)
= 技術的分析 + 促進的な見解の共有(facilitative sharing of views)
品質担保の対象 削減目標の達成の状況 緩和行動及びその効果に関する透明性
品質担保作業の
開始時期
2014年3月以降 遅くとも2015年6月末までに
  • * 先進国は温室効果ガスインベントリを毎年作成・提出しており、その情報をBRに含めるもの。
  • * 隔年(更新)報告書の他、先進国・途上国ともに4年に一度国別報告書を提出することが規定されている。報告書の内容は地球環境研究センターニュース2011年8月号注2参照。

また今次会合では、議論開始から4年を経て、ようやく附属書I国の年次インベントリ報告のための新UNFCCCガイドラインが採択された。これは2015年4月提出インベントリから適用されるものである。これまでの交渉ではIPCCが開発した排出量算定のための方法論(2006年IPCCガイドライン)の内容を、各国に報告を義務付けるルールに議論しながら反映させるという作業が主だった。今次会合では、COP19直前のIPCC総会で新たに承認されたIPCC湿地ガイドラインの取り扱いについて議論が行われ、当該IPCCガイドラインはひとまず自主的適用とすることで決着した。こうして、先進国が2015年4月以降に提出する年次インベントリから、対象排出源・吸収源、算定方法、対象ガス、地球温暖化係数(GWP)等が一部変更されることが確定した(畠中エルザ「2020年枠組みへ交渉の本格化が望まれるADP、一方SBでは貴重な時間が失われる」地球環境研究センターニュース2013年8月号他参照)。なお、先に述べた審査ガイドラインの議題下で、インベントリの審査ガイドラインの改訂作業がまだ残されており、今年末のCOP20での合意を目指している。

さて、今次会合では、他に京都議定書第一約束期間のインベントリ審査プロセス完了日設定のための議題が設けられていた。第一約束期間における約束が遵守されたか否かは、当該約束期間の最終年のインベントリ(2014年4月提出の2012年インベントリ)の審査完了日から100日間の第一約束期間の目標達成のための京都メカニズムクレジット売買を含む調整期間経過後に提出される最終的な排出枠・クレジットの状況を示す報告書の評価結果によって決定される。本議題では、インベントリ審査手続きの実務上の実現可能性を踏まえ、淡々とした意思決定が行われるものと予想されていたが、当該報告書の提出期限をCOP21前に設定すべきと途上国が主張して紛糾した。上述の通り、2015年12月に開催されるCOP21は、ADPにおいて将来枠組みを決する期限として設定されており、その前の参考情報として各国に上記報告書を提出させるべきというのが途上国の主張だった。途上国の主張する通りCOP21前までに当該報告書を提出するとなると、最終年のインベントリの審査は、遅くとも2015年6月くらいまでに完了していなければならない。しかしながら、近年の審査がインベントリ提出日から数えて翌年の8月以降まで完了がずれ込むケースが多い状況に照らすと、非現実的に早いタイミングでの報告書提出を途上国が求めたことになり、議論は歩み寄りの余地がなく決裂し、次回会合に先送りとなった。

このように、上述のBR、BURを含め、各国が作成する報告書の提出のタイミング等は、ADPにおける意思決定プロセスとの関係で、さらにその政治的な重要性を増していると思われる。

5. 最後に

会期中の日本の動きとしては、石原環境大臣から、議定書第一約束期間の目標(1990年比6%減)は、それを下回る8.2%減で達成見込みであることが発表された。あわせて2020年の削減目標を2005年比3.8%減とすること等の発表もあり、後者に対しては、G77+中国をはじめ途上国から批判する発言が見られた。

最後に、次回のCOP20は、ペルーにて開催されることとなった。2020年からの将来枠組みの合意を目指している2015年のCOP21のフランス開催も正式に決定し、COP22についてはセネガルがホストする意思を表明した。次期議長国ペルーには、COP16時のメキシコのような手腕の発揮を期待したい。

略語一覧

  • 国連気候変動枠組条約(United Nations Framework Convention on Climate Change: UNFCCC)
  • 締約国会議(Conference of the Parties: COP)
  • 京都議定書締約国会合(COP serving as the Meeting of the Parties to the Kyoto Protocol: CMP)
  • 強化された行動のためのダーバン・プラットフォーム特別作業部会(Ad Hoc Working Group on the Durban Platform for Enhanced Action: ADP)
  • 科学上及び技術上の助言に関する補助機関会合(Subsidiary Body for Scientific and Technological Advice: SBSTA)
  • 実施に関する補助機関会合(Subsidiary Body for Implementation: SBI)
  • 国際協議・分析(International Consultation and Analysis: ICA)
  • 専門家協議グループ(Consultative Group of Experts: CGE)
  • 気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change: IPCC)
  • 地球温暖化係数(Global Warming Potential: GWP)

サッカースタジアムで会議!?

地球環境研究センター 温室効果ガスインベントリオフィス 高度技能専門員 小野貴子

今回のワルシャワでのCOP19の会場がNational Stadium(ワルシャワ国立競技場)であるという案内を見たとき、最初に思ったことは「何かの間違いでは?」ということだった。このスタジアムはサッカー専用球技場であり、屋根付きとはいえサッカー場の観客席に暖房はない。平均最高気温5°Cの11月のポーランドで観客席に座って凍えながら会議か!?と本気で心配した。

会場に着いて「なるほど」と思ったのが、サッカーグラウンドに仮設された6つの巨大なプレハブの会議場であった。このスタジアムはサッカー以外のスポーツには使用できないが、サッカー観戦以外にもスタジアムを活用できるように、観客席下の建造部分に多目的使用可能な部屋が多数組み込まれている。COP19では、全体プレナリー会合など締約国の代表全てが集まる大規模な会合はグラウンドに仮設された大型会議場で行い、議題ごとの小規模な会合などは観客席下の部屋を使って行われた。

COP規模の国際会議では、全体プレナリー会合の会場として巨大な会議場が必要になる。しかしそのような巨大な会議場は、その国際会議が終了した後にはそれほど頻繁に使用するものではない。そのため、その一時的に必要となる巨大な会議場はサッカー場のグラウンドに仮設で作り、使用後は片づけてしまうという手法を用いれば、無駄な巨大施設を建築する必要がなくなる。8月から翌年5月までがサッカーシーズンであるヨーロッパで、シーズンの真最中にこの仮設の会議場がグラウンドに設営されたことは、グラウンドの芝が傷むのではとサッカーファンをやきもきさせたかもしれないが、このようにサッカースタジアムを活用して巨大な国際会議を開催するという手法もなかなか合理的な開催方法なのかもしれないと思った。

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サッカーグラウンドを埋め尽くす仮設の巨大会議場群

目次:2014年2月号 [Vol.24 No.11] 通巻第279号

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