2013年8月号 [Vol.24 No.5] 通巻第273号 201308_273003

2020年枠組みへ交渉の本格化が望まれるADP、一方SBでは貴重な時間が失われる

地球環境研究センター 温室効果ガスインベントリオフィス 高度技能専門員 畠中エルザ

2013年6月3〜14日に、ドイツ・ボンにおいて、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の下での強化された行動のためのダーバン・プラットフォーム特別作業部会(ADP)第2回会合(第2部)、および第38回補助機関会合(科学上及び技術上の助言に関する補助機関会合:SBSTA38、実施に関する補助機関会合:SBI38)が開催された。国立環境研究所からは、日本政府代表団の一員として温室効果ガスインベントリオフィスの畠中が参加した。以下に、筆者が担当しており、透明性確保の観点から重要なテーマの一つとなっている温室効果ガスインベントリ、隔年報告書関連事項を中心に、会合の概要を報告する。

1. ADP2-2会合

ADPは、野心レベルの向上、すなわち世界全体で現在目指されているレベルを上回る排出削減の達成に資するような先進国・途上国を問わずすべての国に適用される法的合意文書を2015年までに作成することを目的として、2012年から開催されている。現在、2020年以降すべての国に適用される法的枠組みと、2020年までの排出削減に関する野心レベルの向上について二つの「ワークストリーム(作業の流れ)」に分けて議論が行われている。

今次会合の一週目には、2020年枠組みに関するワークストリームに関連して、2015年合意を通じての適応の強化をテーマに、また野心の向上に関するワークストリームに関連して、エネルギー効率、再生可能エネルギー、二酸化炭素回収・貯留等をテーマにワークショップが開催され、有識者、国際機関からのプレゼンを踏まえて、議論が行われた。

2020年枠組みに関するワークストリームでは、世界全体で必要とされる排出削減のレベルを視野に入れた各国の排出削減目標の設定のしかた等、新たな枠組みのあり方について、イメージの共有が図られた。先進国は各国の目標の透明性の確保を重要視し、小島嶼国連合(AOSIS)は京都議定書の下での透明性のレベルは最低限確保する必要がある等とした。他の途上国は、先進国・途上国間の共通だが差異ある責任や衡平性といった条約の原則に立ち返ることを求めた。

2020年までの排出削減に関する野心の向上に関するワークストリームでは、国際機関や有識者の発表を踏まえ、さまざまな排出削減のオプションが議論された。その中には、オゾン層破壊物質の主要な代替物質であるハイドロフルオロカーボン(HFC)類の段階的使用停止等も含まれる。二酸化炭素に比べて地球温暖化係数(GWP)が高い上に、冷媒での使用等により各国で今後排出量が伸びていくことが予想されるため、各国横並びで削減が進めば有効な分野だろう。

今次会合では、また、昨年のADP第1回会合で決定していたトリニダード・トバゴのクマールシン氏に加え、附属書I国からEUのルンゲ=メッツガー氏が共同議長に決まった。交渉の進め方については、ワルシャワで開催される次回のADP会合に向けて、「バランスに配慮し、焦点を絞った、より公式な作業形態」を共同議長が提案することになっているため、来年のCOP20までこの2名が本格交渉へ舵を切ることになる。

2. SBI38会合

今次ボン会合の最大のニュースは、SBIが実質的に開催されなかったことだろう。引き金となったのは、昨年末のCOP18において、京都議定書第一約束期間で生じた余剰排出枠の繰り越しに制限をかけることについてロシア等が未だ賛成しないなか、議長が強引に合意とみなしたことだった。ロシア等の市場経済移行国の経済の低迷により、真の削減努力によらない多くの余剰排出枠が生じているが(いわゆる「ホットエア」)、どの程度第二約束期間への繰り越しを認めるかが問題となっていた。最終的には、繰り越しに制限をかけ、あわせて日本やEU、豪州、ノルウェー、スイス等も第一約束期間の余剰排出枠を購入しないと宣言を行う結果となったが、これらを決定づける第二約束期間に向けた京都議定書の改正事項を含め、多くの事項がパッケージとして包括的に合意されるなか、ロシアの発言機会の要請は認められず、コンセンサスが得られたとされたことへ不満が残った。

このような経緯から、今次SBI会合では、ロシア、ベラルーシ、ウクライナはCOPおよびCMPの意思決定に関する手続き的・法的課題に関する議題の追加を事前に提起していた。これに対し、G77+中国等が反対、シンガポールは、各国が議題の追加を勝手に提起する悪しき前例を作ることになると指摘した。本件が非公式な議論の中で決着するまで、他議題だけ先に議論を開始することや、他の議題の下で議論する道も模索されたが、SBI議長の指導力不足や、UNFCCCの意思決定のあり方の根幹を突く話であることがあいまってなかなか決着せず、結局SBI会合は実質的に開催されなかった。

このあおりを受けた重要事項の一つとして、事務局の2014〜2015年予算が挙げられる。先進国・途上国の隔年報告書(地球環境研究センターニュース2012年2月号 UNFCCC COP17およびCMP7報告 表参照)の提出が2014年から始まり、その透明性確保のための各種手続きも2014年から2015年にかけて控えており、関連予算の増加要求があるため、これに関し議論ができなかったことは、透明性確保関連の作業を実施に移す上で大きな問題になってくる。

同様に、途上国の隔年報告書に関して透明性を確保するための仕組みである国際協議・分析(ICA)の技術分析の深さや実施主体についてもまったく議論がされず、山積みの作業が後回しとなっただけであった。

photo. SBI議長と米代表団代表

議題採択が進まず壇上で途方に暮れるSBI議長(中央)と話しこむ米代表団代表(最右)

3. SBSTA38会合

本来であればSBIに割り当てられるべき議論の時間枠がSBSTAに十分に行きわたったため、今次ボン会合でのSBSTAでの議論の進捗は極めて順調だった。

筆者が関わっていた、排出量の算定・報告に関する透明性の確保に直結する、附属書I国の温室効果ガス目録に関するUNFCCC報告ガイドラインの見直しに関する議題では、技術的に細かな点で着実な進展があった。本ガイドラインは、2011年のCOP17会合において、試行目的で採択されており、2015年4月以降に提出するインベントリへのIPCC2006年ガイドラインの適用や、三フッ化窒素(NF3)等新規ガスの報告、IPCC第4次評価報告書のGWP値の使用等を規定している。今次会合では、11月に開催されるCOP19会合での正式採択を目指し、各国意見を踏まえて報告のための表の整理や整合性の確認を行い、その他、報告の対象ガス(c-C3F6等)の追加等について議論し合意した。

インベントリの関係では、他に先進国のインベントリ、国別報告書、隔年報告書の審査ガイドラインの策定という議題がある。途上国は自分たちにはICAという新たな透明性確保のための制度が課せられたこととのバランスを考慮し、先進国が手を抜くような事態にならないよう、目を光らせて審査ガイドラインを作成すべきと動いている。その一方で、先進国は現行のインベントリの審査だけですでに審査員不足等キャパシティ・オーバーが明らかになっている現状に鑑み、整理を進めたい考えだ。

その他、削減目標や緩和行動の透明性の確保に関しては、先進国の排出削減目標の明確化に関する作業プログラムという議題の下、会合中にイベントが開かれ、先進国の2020年目標に関して、UNFCCC事務局、NGO、国際機関からのプレゼンがあり、議論が行われた。一方、これと並行して先進国が進めたがっていた、途上国における緩和行動の内容の明確化のための作業プログラムはSBIが開催されなかったことで、作業が進まなかった。

このように、今次会合でこなせなかった作業により多くの時間を要することから、次回会合ではSBIに多くの時間枠が割り振られる可能性がある。

4. 最後に

議事次第をめぐって揉めるのはアジェンダ・ファイトと呼ばれている。これはそもそも何について議論するかの部分であるため、重要な意味をもっており場合によっては丁寧に時間をかけることが必要なプロセスだと思うが、今回二つの補助機関会合のうちSBIが丸々つぶれたのは非常にもったいなかった。関係参加者の意欲をそぐのはもちろんのこと、交渉を見守る世界中の納税者が納得しないのではないか。また、交渉関係者が全員会議場に集まって初めて議事次第に関する議論がスタートするという仕組みになっているのも残念である。

次回会合は、11月のCOP19である。議長国が、今次SBI会合をうまくハンドリングできたとは言い難いポーランドであり、アジェンダ・ファイトがUNFCCCの意思決定のあり方という重要事項に端を発したものだっただけに、次回きちんとSBI会合を開催できるのか心配されるところである。COP議長の指導力の発揮に期待したい。

略語一覧

  • 国連気候変動枠組条約(United Nations Framework Convention on Climate Change: UNFCCC)
  • 強化された行動のためのダーバン・プラットフォーム特別作業部会(Ad Hoc Working Group on the Durban Platform for Enhanced Action: ADP)
  • 科学上及び技術上の助言に関する補助機関会合(Subsidiary Body for Scientific and Technological Advice: SBSTA)
  • 実施に関する補助機関会合(Subsidiary Body for Implementation: SBI)
  • 小島嶼国連合(Alliance of Small Island States: AOSIS)
  • 締約国会議(Conference of the Parties: COP)
  • 京都議定書締約国会合(COP serving as the Meeting of the Parties to the Kyoto Protocol: CMP)
  • 国際協議・分析(International Consultation and Analysis: ICA)
  • 地球温暖化係数(Global Warming Potential: GWP)

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