2014年1月号 [Vol.24 No.10] 通巻第278号 201401_278001

京都議定書第一約束期間終了 〜基準年比6%削減の目標は達成の見込み〜

  • 地球環境研究センター 温室効果ガスインベントリオフィス 高度技能専門員 小坂尚史
  • 地球環境研究センター 温室効果ガスインベントリオフィス 高度技能専門員 酒井広平

1. はじめに

わが国は、京都議定書の第一約束期間(2008〜2012年)の温室効果ガス排出量を京都議定書の規定による基準年[1]と比べて6%削減することが求められている。また、その目標を達成するためには森林吸収量と京都メカニズムのクレジットを加味することができる。

地球環境研究センター温室効果ガスインベントリオフィス(以下、GIO)は、環境省の委託を受け、わが国の温室効果ガス排出量の算定を行っている。環境省及びGIOは2013年11月に2012年度(平成24年度)温室効果ガス排出量の速報値を公表した。これで京都議定書第一約束期間5カ年の総排出量が暫定値ではあるが、一通り出そろったことになる。本稿ではわが国の第一約束期間の温室効果ガス排出量と目標の達成状況について紹介するとともに、第一約束期間終了の手続きについて記述する。

2. 温室効果ガスの総排出量

第一約束期間におけるわが国の温室効果ガス排出量を表1に示す。2012年度(速報値)の温室効果ガス排出量(各温室効果ガスの排出量に地球温暖化係数[2]を乗じ、二酸化炭素(CO2)換算したものを合算した量)は13億4100万トン(CO2換算、以下省略)であり、前年度の総排出量を2.5%上回った。これは基準年排出量と比べると6.3%の増加となる。

表1第一約束期間の温室効果ガス排出量[クリックで拡大]

table.
  • 注1:代替フロン等3ガスの2012年値は、一部のデータを除き前年の値を代用
  • 注2:京都議定書目標達成計画に掲げる基準年比約3.8%(4,767万トン/年)
  • 注3:2012年度末時点での京都メカニズムクレジット取得事業によるクレジットの総契約量(9,752.8万トン)を5カ年で割った値
  • 注4:電気事業連合会のクレジット量(「電気事業における環境行動計画(2013年度版)」より)
  • 注5:総排出量から差し引ける量のため、基準年比はマイナス表記

第一約束期間5カ年の平均排出量は12億7900万トンであり、基準年の総排出量と比べると1.4%の増加となる。ガス別ではエネルギー起源CO2排出量が増加している一方で、非エネルギー起源CO2排出量とその他のガスの排出量が減少している。

京都議定書目標達成計画では森林吸収量の目標として基準年比約3.8%(4,767万トン/年)を掲げている。2008年度から2011年度までの4カ年平均の森林吸収量の実績は基準年比約3.8%(4,758万トン)となっている。

京都メカニズムクレジットについては5カ年平均で、政府取得分は約2000万トン、民間取得分は約5500万トンとなっている。

仮に森林吸収量の目標が達成され、また、京都メカニズムクレジットを加味すると、5カ年平均で基準年比8.2%減となり、京都議定書の目標(基準年比6%減)を達成する見込みとなっている(図1)。

fig.

図1わが国の温室効果ガス排出量と京都議定書の達成状況[クリックで拡大]

3. 温室効果ガス排出量の推移と要因分析

1990年度から2012年度までの温室効果ガス排出量の推移を図2に示す。本項では、総排出量の約9割(2012年度)を占めるエネルギー起源CO2排出量の推移の要因を説明する。分析には次式で表される茅方程式を用いた。

CO2排出量 = CO2排出量/エネルギー消費量 × エネルギー消費量/国内総生産 × 国内総生産/人口 × 人口

この式を用いて、年変動の要因を示したのが図3である。折れ線は前年度からのCO2排出量の変化を、縦棒は上式の各要因が排出量の変化に及ぼした影響の程度を示す。第一約束期間に着目すると、2008年度、2009年度にかけて過去20年間で最大の排出量減少がみられ、2010年度からは一転して排出量が増加したことがわかる。2008年度、2009年度と国内総生産(GDP)が軸の下方に伸びている。2008年9月に発生したリーマンショックの影響により景気が後退し、その影響でCO2排出量も低下したことが読み取れる。2010年度は景気回復がCO2排出量の増加に寄与した。2011年度、2012年度はエネルギー消費量あたりのCO2排出量(青)がCO2排出量増加に顕著な影響を及ぼしている。これは2011年3月に発生した東日本大震災以後原子力発電所が順次定期点検に入り、火力発電が増加したためである。2011年度、2012年度はGDPあたりエネルギー消費量(赤)が低下しており、電力などのエネルギー消費量が抑えられたことが読み取れる。

同様に過去の要因にも言及すると、1994年度の排出量増加は猛暑、渇水、1998年度の排出量の落ち込みはアジア通貨危機、2002年度、2007年度の排出量増加は原子力発電所の稼働率低下が影響している。

fig.

図2温室効果ガス排出量の推移[クリックで拡大]

fig.

図3エネルギー起源CO2排出量推移の要因分析

4. 第一約束期間終了の手続き

第一約束期間終了の手続きの概略を図4に示す。気候変動枠組条約附属書I国(いわゆる先進国及び市場経済移行国)は、2014年4月15日までに2012年の温室効果ガス排出吸収量データを含むインベントリを条約事務局に提出することとなっている。提出後審査が実施され、排出吸収量が確定することとなる。その後100日間の追加期間が与えられ、目標達成に不足する分を排出量取引により補うことができる。追加期間終了後には、追加期間満了後の報告書が作成され、これの提出をもって正式な手続きが終了する予定である。

fig.

図4第一約束期間終了の手続き

脚注

  1. わが国の京都議定書の規定による基準年は、CO2、CH4、N2Oについては1990年度、HFCs、PFCs、SF6については1995年である。
  2. 地球温暖化係数(Global Warming Potentials: GWP)とは温室効果ガスが一定時間内に地球の温暖化をもたらす程度を、CO2の当該程度に対する比で示した係数。京都議定書第一約束期間は、IPCC第二次評価報告書(1995)に示された100年値を用いる。CO2 = 1、CH4 = 21、N2O = 310、HFCs = 1,300など、PFCs = 6,500など、SF6 = 23,900である。

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