「環境をまもりはぐくむ。国環研の50年と、これからの君へ」 -初の秋開催!一般公開2024における地球システム領域のイベント報告-
2024年度の国立環境研究所(以下、国環研)の一般公開は、昨年に引き続き対面で開催しました。昨年までの7月開催と異なり開催日は10月19日(土)ということで、国環研の一般公開では初めて秋に開催することとなりました。
当日は最高気温28度と、10月としては季節外れの暖かさとなりましたが、真夏の暑さに比べれば涼しく感じられました。国環研では春夏秋冬さまざまな植物による色づきが見られ、夏とは異なった秋を感じる自然の様子も、今回の一般公開の魅力のひとつとなったかもしれません。また、初の秋開催でしたが、千人近いお客様にお越しいただけました(国環研広報室発表*1)。ご参加いただいた皆様にお礼申し上げます。
地球システム領域では、今年は5つのイベントを企画しました。本稿では、それぞれの企画の様子を担当者から報告いたします。
1. 実験室潜入! 地球環境モニタリング
町田 敏暢(地球システム領域大気・海洋モニタリング推進室 室長)
昨年の夏の大公開で好評だった「参加型の」実験室潜入を今年度の一般公開でも実施することになりました。せっかく国環研まで足を運んでいただくのだから、ここでしか見られないものを見てほしいという気持ちから実験室に招待する(潜入する)イベントを数年前から開始し、さらに、せっかく実験室に来てもらうのだから見るだけではなく体験していただこうという気持ちから、実験に参加していただくイベントに、昨年度から成長しました。
実験室では、実際に民間航空機で使っている大気サンプリング用ポンプで建物の外の空気を容器に充填して、容器を二酸化炭素(CO2)濃度の測定装置に取り付けて分析し、出てきた装置の数字を使ってCO2濃度を計算し、最後に国環研が長期モニタリングを実施している沖縄県波照間島で観測したCO2濃度のグラフにこの観測結果を重ね合わせて濃度の違いについて考えてもらうという内容です。これを参加者全員が分担し、協力して成し遂げるというプログラムにしています。
今回も参加者は10名程度に絞って、小学生から中学生を中心に事前募集を行い、実験で行う12の工程を学年ごとにそれぞれできる(やりがいのある)担当を割り振りました。手動のポンプを回す人は体力が必要です。ポンプから空気が出ることを確認する人は手のひらで風を感じるだけなので簡単ですが重要な役目です。分析装置をコンピューターから遠隔操作するのは難しそうですが、最近の小学生はゲーム感覚で難なく操作できます。結果を分析ノートに記録する作業は地味ですが、「実験では記録しておくことが大事」だということを身につけてもらいたいです。分析結果をグラフに重ねる人は、結果を見る(確かめる)喜びを感じてくれたらうれしいです。参加者はどの分担を任されても、目をキラキラさせながら取り組んでくれたことが印象的でした。
昨年度は、参加者の子供たちが実験室に行っている時間帯は保護者の皆様には玄関ホールでただ待っていただいただけでしたが、今年度は玄関ホールに椅子と大型モニターを置いて、ZOOM機能を使ってスマホで撮った映像と音声をリアルタイムで中継することにしました。リアルタイム中継は安心して見守ってもらうことも目的の1つですが、保護者の皆様が子供たちと体験を共有できることで、家に帰ってからの会話が何倍にも膨らむことが期待でき、実験を体験した記憶や印象がより深くなることを狙っての企画です。参加してくれた子供たちの中から将来の研究者が生まれてくれたら、望外の喜びです。

2. 海はCO2を吸収する? 海水酸性化実験
中岡 慎一郎(地球システム領域大気・海洋モニタリング推進室 主任研究員)
二酸化炭素(CO2)は無色透明無味無臭のため、空気中のCO2濃度が増えても生活の中でその存在を意識することはありませんが、海水酸性化実験では海水がCO2を吸収することを体験できるという点で『異色』の実験といえます。当日午前とお昼、午後に計3回行なった今回のイベントには、未就学のお子さんから、小学生、大人まで幅広い年齢層の方々に参加いただきました。海水とBTB(ブロモ・チモール・ブルー)溶液と呼ばれる無害な指示薬を少量詰めた小瓶を配布し、参加者全員で実験を行いました。BTB溶液はもともと濃い緑色をしていますが、混ぜる液体の性質が酸性の場合は黄色、中性の場合は緑色、アルカリ性の場合は青色に変わります。実験では、まず炭酸水や水道水、重曹水にBTB溶液を混ぜてみて何色に変化するか皆さんに予想してもらいながら結果を確認しました。その後、みんなで一緒にBTB溶液入りの海水が入った小瓶の蓋を開けて息を吹きかけ、蓋を閉じて小瓶を振ることで呼気中のCO2を海水に吸わせたり、蓋を開けて室内の空気を小瓶に入れてまた蓋を閉じて振ることで海水からCO2を出したりして、海水の色が変わることを体験しました。溶液の色が変わるのを目の当たりにすると、特に小さいお子さんはまるで手品や魔法を見ているかのように驚き、喜んでいました。
実験の後には、参加した皆さんが大好きと答えたお寿司を題材にして、海洋の温暖化や酸性化が海に棲む生き物に与える影響について解説し、海の環境を守るためにもCO2の排出を抑えることが大事だという話をさせていただきました。
最後に質問時間を設けましたが、こちらが回答に窮する鋭い疑問がいくつも飛び出し、講演者としても良い刺激を受けました。今回使用した海水入りの小瓶は各自持ち帰ることができて繰り返し実験できるので、何かの機会に遊んで思い出してもらえればと願っています。ところでこの記事ではBTB溶液を加えた海水がはじめは何色なのか、息を吹きかけると何色になるかなどについては示していません。気になる方は今後の一般公開のスケジュールをチェックしてぜひ遊びに来てください!

3. 衛星博士ミッション「ブラック迷路」をクリアせよ!
吉田 幸生 (地球システム領域衛星観測研究室 主任研究員)
国立環境研究所はJAXA、環境省と共同でGOSATシリーズプロジェクトを推進しています。GOSATシリーズは宇宙からの温室効果ガス観測を主目的とした一連の地球観測衛星で、2009年1月打ち上げの1号機(温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」、GOSAT)と2018年10月打ち上げの2号機(温室効果ガス観測技術衛星2号「いぶき2号」、GOSAT-2)が現在運用中であり、3号機(温室効果ガス・水循環観測技術衛星、GOSAT-GW)が近々打ち上げられる予定です。これまでも研究所の一般公開においてGOSATシリーズに関する理解を深めてもらおうと工夫をこらした展示をしてきましたが、今回初の試みとして段ボール迷路を用いた展示を行いました。迷路の中に各衛星の特徴が書かれたパネルやGOSAT-2打ち上げ時の写真等を展示し、参加者には展示内容をヒントにGOSATシリーズに関する三択クイズ5問に挑戦してもらいました。
事前にクイズの問題用紙を100枚用意していましたが、開始から2時間程度で残り少なくなったため急遽増刷、最終的に5時間で200組強の方々に参加いただきました。迷路自体は幅8m×奥行き4m程度のサイズで、早ければ 1 分程度でクリアできるものですが、迷路各所にパネルを配置したためか5~10分程度かけて展示を見ながら迷路を抜けてこられる方が多かったようです。問題用紙にメモを取りながらご覧になる方や、日本語を母国語としないもののスマートフォンの翻訳アプリを使ってクイズに挑戦してくれた方、迷路の出口にたどり着いたもののクイズのヒントが一部見つけられなかったと迷路を2周された方などもおり、GOSATシリーズプロジェクトに多少なりとも関心を持っていただけたことと思われます。この場を借りて参加いただいた皆様に御礼申し上げます。



4. ペーパークラフト×GOSAT 〜手のひらの上でくるくる回るカライドサイクルでCO2濃度の上昇を実感
野田 響(地球システム領域衛星観測研究室 主任研究員)
これまでに開催された一般公開では、GOSATシリーズによる観測成果として、GOSATの観測データから得た世界のCO2濃度の地理的分布とその時間的変化をアピールするために、球面ディスプレイに投影したり(CGERニュース2017年10月号https://www.cger.nies.go.jp/cgernews/201710/322003.html)、濃度分布が印刷された小型の地球儀を作成したり(CGERニュース2018年10月号https://www.cger.nies.go.jp/cgernews/201810/334003.html)と、あの手この手で挑戦してきました。今回の一般公開では、「カライドサイクル」というペーパークラフト作成を通じて、GOSATが2009年から観測してきたCO2濃度の地理的分布と時間変化を学べるコンテンツを用意しました。カライドサイクルは、複数の四面体が繋がって輪を形成しており、四面体をくるくると回すことで、4種類の絵を表に現すことができます。今回は、6個の四面体から成るカライドサイクルに、2009年から2021年までの12年間、4年ごとの8月のCO2濃度分布の世界地図が順番に現れるカライドサイクルの展開図を印刷したペーパークラフトを用意しました。カライドサイクルのペーパークラフトは、切る過程がシンプルで子供でも簡単ですが、紙を折る過程が出来上がりを左右します。一般に、ペーパークラフトは折る前にカッターナイフなどで折り線の表面だけを軽く切ると綺麗に折ることができます。今回は子供たちが安全に作業できるように、カッターナイフの代わりに、書けなくなったボールペンで折り線をなぞってから折るようにしました。
ペーパークラフト作成は多くの来場者にとって魅力的だったようで、朝10時に開場するとすぐに体験に来る方が見えました。多い時には8席用意した作業用の席が足りなくなり、近くで待っていただくこともありました。また、用意したハサミや定規などが足りなくなってしまって、人気を十分に予測して準備できていなかったと反省する場面もありました。細かな説明なしで上手に作れる小学校低学年くらいのお子さんもいれば、大人でも失敗しそうになる方もいましたが、最終的には、みなさん自分のカライドサイクルを仕上げて持ち帰っていました。カライドサイクルをくるくる回すのは楽しいようで、ずっと手に持って回し続けるお子さんもいました。また、出来上がったカライドサイクルを回しながら、2009年から2021年までの間のCO2濃度の上昇について説明すると、CO2濃度が上昇を続けていること自体に驚く方もいました。CO2濃度が低い青色から高い赤色へと世界地図の色がどんどん変わっている様子を、手のひらの上の自分で作ったカライドサイクルで見るのは効果があったようです。最終的には120名程度の方がペーパークラフト作成を体験されました。

5. 気温変化の予測に幅があるのはどうして?〜未来の気候ルーレットで遊んで学ぶ〜
林 未知也 (地球システム領域地球システムリスク解析研究室 主任研究員)
新しい体験型イベント「未来の気候ルーレット」を、ココ知り(注)Q18「気候変化予測に幅があるのは?」の説明として企画しました。午前は中会議室にて、気候予測の解説とルーレットゲーム、グループワークを小学生高学年〜中学生を対象に実施しました。午後は地球温暖化研究棟にて、来場者の方々にルーレットゲームを体験していただきました。初めての試みなので、人が来てくれるかどうかなどの不安もありましたが、参加者の皆さまには終始楽しんでいただけたようで安心しました。
午前のイベントには、4名の小中学生にご参加いただきました。対話オフィスの前田和さんによる趣向説明のあと、ココ知りQ18担当の塩竈秀夫地球システムリスク解析研究室室長が作成した資料をもとに小倉知夫 気候モデリング・解析研究室室長が解説しました。
まず、2100年に予測される温暖化には1℃から5.7℃と大きな幅があることを伝えました。この幅には、世界中の多数の気候モデルによる予測の幅だけでなく、温室効果ガス排出量の想定が異なる5つの将来シナリオ(SSP:共通社会経済経路)による幅が含まれていることを説明しました。どのような社会の将来シナリオにしていくかは我々が選ぶことだと話すと、みんなとても真剣に聞いてくれていました。そこで、「ちなみに、すでに何℃上がっていると思いますか?」と尋ねると、「3℃?1℃?0.1℃?」と答えはばらつきました。「答えは…、1℃くらいですね」と資料の図を見せると、将来予測される温暖化の大きさを実感してくれたようでした。
温暖化の予測幅について解説したあと、二つの将来シナリオ(SSP5-8.5とSSP1-2.6)での2100年の予測に基づく「未来の気候ルーレット」で遊んでもらいました。まずルーレットを回さずに粘着性のボールを投げて、低い温暖化を頑張って狙いました。次に、現実には狙いを定めることはできない(どの予測値が正しいかは分からない)と言ってルーレットを回すと、それでも低い温暖化に当たるように挑戦してくれましたが、狙うのが難しくなりました。真ん中に当たると何が起こるのかを気にして、ひたすら真ん中を狙う方もいました。この遊びによって、一つのシナリオでの予測幅から特定の値を選べないことと、シナリオによる温暖化の違いが特に大きいことを体感してもらえたと思います。

ルーレットで遊んだ後、グループワークをしました。まず「2つのルーレットのうち、どっちのシナリオがいい?」と聞くと、低い温暖化のシナリオに全員が手を挙げました。そして、「そのシナリオにするためにはどうしたらいい?どんな温暖化対策が必要?私たちができることは?」という質問を投げかけて、その答えを前田さんとIrina Melnikova特別研究員と一緒に考えてもらいました。ある参加者からの「森で家を作って住めば良い」という意見から話し合いが始まりました。その理由と聞くと、「森が二酸化炭素を吸収してくれる」「木で色々作れるし、エネルギーとしても使える」「二酸化炭素の排出をゼロにできる」と答えてくれました。そのほかにも、二酸化炭素を空気から吸収する技術や、温暖化をさせないような空気を冷やす機械の開発も提案されました。一人ひとりが今取り組めることはないかと聞くと、節電などの案も出ました。イベントの最後に参加者らは、「森の中で暮らしながら、節電して、木からのエネルギーを効率的に使いつつ、温暖化させない技術を開発する」と結論を発表してくれました。
グループワークの間、小倉室長と私は3名の保護者の方々とお話ししました。ゴミ削減や節電、公共交通機関の利用などの努力で貢献したいが、みんなが取り組まないと自分が無力に感じてしまうという意見が出ました。もしも日常的に環境負荷がわかる表示が増えて、日頃の努力がどれだけ温暖化緩和につながるか実感できるとやりがいを感じる、と提案されました。また、過去50年ほどの間に気候の変化を体感しており、将来への不安も語られました。子どもたちの未来のためにできることとしては、今日のように気候変動について世間話する、選挙時には気候変動政策に注目するなども、社会を変える大事な取り組みだと伝えました。

午後は、ルーレットを地球温暖化研究棟へ移動させて、体験型展示を行いました。その間、3歳から小中学生くらいまでの多くの子どもたち、そのご家族などが絶え間なくルーレットで遊んでくれました。気候ルーレットの解説として上記の資料1枚を保護者の方々にお渡しして簡単に説明しました。なお、ルーレットに当たった箇所をシールで記録したところ、回転方向によって低い温暖化の枠の隣枠に当たりやすくなっていたため、ランダムさを表すにはルーレットのデザインの改善が今後必要そうです。
本イベントを通じて、参加してくれた子どもたちの楽しそうな姿を見ながら、彼らの未来は今の温暖化対策によって大きく変わってしまうという事実を(少なくとも私は)突きつけられました。この一般公開は私にとって、温暖化研究者のひとりとしての責任感と、弊所での多様な研究の必要性、研究成果の社会還元の重要性を改めて強く意識する機会となりました。今年度の経験を活かしてイベント内容を改善して、来年度以降もさらに参加者と開催者にとって有意義な時間となることを目指したいです。

(注)ココ知り:ココが知りたい地球温暖化 温暖化の科学編
https://cger.nies.go.jp/ja/library/qa/science.html