2017年10月号 [Vol.28 No.7] 通巻第322号 201710_322003

恒例:国立環境研究所夏の大公開は史上最高入場者数を更新しました —地球環境研究センター総動員、夏のお・も・て・な・しのメニュー紹介—

  • 地球環境研究センター 交流推進係(国立環境研究所一般公開実行委員)広兼克憲

1. はじめに

2017年7月22日(土)に開催された恒例の夏の大公開は、すっかりつくばの夏のイベントとして定着しました。この日は猛暑の中にもかかわらず5,486名もの来場者をお迎えでき、これまでの入場数記録を2年連続で更新しました。平日は1,000人に満たない職員が働くこの職場もこの日だけは、人で溢れかえり、賑やかでとても熱い1日となりました。

2. 展示・催事の全体構成

地球環境研究センターでは地球温暖化を中心とした地球環境問題の研究を行っており、これらの成果や意義について、一般の方々にご理解いただくための展示・催事を企画・実施しました。

主なメニューとして以下のような10のイベントがあります。

潜入! 実験フィールドツアー(森は二酸化炭素を吸い続ける?)
林の中で森林土壌の呼吸を調べる装置を見て、研究者から説明を受ける特別ツアー
ぱらぱらマンガ&ぱたぱた絵本
新企画の「適応センス」や伝統のぱらぱらマンガを作る親子de工作コーナー
海が酸性化するってホント? 黄・青・緑・実験して自分で確かめよう!
海水に二酸化炭素が多く溶けるとどうなるかをその場で実験できるコーナー
自転車de発電(発電量ランキング発表、ミックスジュースブレンド体験、発電証明書発行)
自転車で発電しスムージーをつくって飲んだり発電量ランキングに挑戦するコーナー
ココが知りたい地球温暖化対策—世界はパリ協定の目標に真摯に立ち向かっているか?—
パリ協定をめぐる国際協力について議論する来場者参加型パネルディスカッション
JAL国際線現役パイロットと温室効果ガス研究者によるクロストーク—JAL/NIES空エコinつくば —
操縦席から見た地球環境の変化やCONTRAILプロジェクトに関するトーク
地球環境モニタリング(宇宙から測る)
1.5mの地球儀に二酸化炭素濃度の衛星観測結果を映して説明するダジックアース
地球環境モニタリング(空から測る、海で測る)
空から測るについては、上記クロストークとのコラボレーションで、海で測るについては「海洋酸性化実験」とともに、「目立つイベントで惹きつけといて」楽しく説明
地球温暖化やオゾン層の破壊をスーパーコンピュータで計算する
異常気象と温暖化の関係について手作りのピンボールでスパコンがやっている計算をわかりやすく解説
二酸化炭素濃度を測る機器を見てみよう!
「潜入! 実験フィールドツアー」にも関連した観測機器を実物展示して説明

これらに、地球環境研究センター長から新人まで職員の約1/4に相当する総勢43名で準備・対応しました。

本稿では、その様子と内容の一部をご報告します。なお、パネルディスカッションクロストークについては別途報告されますのでここでは省略します。

3. 潜入! 実験フィールドツアー(森は二酸化炭素を吸い続ける?)

午前・午後それぞれ2回ずつ行った特別ツアーには、大人30名、子ども22名の合計52名にご参加いただけました。森林の土壌は、そこに蓄えられてきた炭素を、大気中に二酸化炭素として吐き出すことが知られています。しかし、長期的に信頼できる方法でそれを計測した研究例が少ないのが実情です。

このツアーではまず、下記のような質問に答えてもらった上で、土壌から排出される二酸化炭素を測定する方法を学んでもらうことを目的にしています。

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図1フィールドツアー参加者に配布されたクイズ形式による基礎知識資料(答えはこの記事の最後に掲載)

森の中では図2のような装置により、24時間、土壌から排出される二酸化炭素の量を観測しています。装置全体は、透明な蓋つき容器20個と制御ボックスから構成されていて、1時間ごとに全ての容器で3分ずつ順番に蓋が閉じるようになっています。蓋が閉じると、容器の中の二酸化炭素濃度が増加するため、土壌からの二酸化炭素の排出量を計算できるのです。理屈ではそうなのですが、現場で実際に容器が開閉するのを見ると「なるほど」と実感できます。参加者からは「良かったー」という声も聞かれ、説明した研究者からは、たくさんご質問をいただいたと報告がありました。暑い中での森林ツアーでしたが、参加者の方にも説明者にも、お互いの理解が深まる貴重な時間になったものと思います。

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図2フィールドツアー参加者に配布されたデータ資料

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写真1所内の森林内に参加者が入っていきます

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写真2森林内で担当研究者が直接参加者に説明を行いました

4. ぱらぱらマンガ&ぱたぱた絵本

以前と場所を変えて、入り口付近のギャラリー中心部に工作スペースをドンと構えました。今回は「地球温暖化の適応」をテーマとして新しく製作した「適応センス(扇子)」キットの工作を体験いただきました。特に扇子を入れる袋を作る “特製の折り紙”(表面が適応策の説明、裏面が折り方の手順と浴衣の柄)については、親子ともに好評で、楽しく学習できたのではないかと思います。午前中後半からは親子連れを中心に大盛況となり、用意していた500のキットが正午前までになくなり、ぱらぱらマンガなどありったけの在庫を追加してなんとか対応しました。

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写真3適応センスとぱたぱた絵本を工作する参加者

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写真4適応センス(右)と作り方の説明書兼センスの入れ物(左)

5. 海が酸性化するってホント? 黄・青・緑・実験して自分で確かめよう!

二酸化炭素が増えてくると地球が温暖化するだけではなく、海の水が酸性化してしまうおそれがあります。酸性雨は淡水が酸性化する現象としてよく知られていますが、海の水が本当に酸性化するのかイメージが湧かない方も多いと思います。そこで、非常に簡単な実験でそれを理解してもらうイベントを向井人史センター長自らが博士役になって実演し、皆様に体験していただきました。

実験のやり方は下記の図のとおりです。この実験のすごいところはキットを家に持ち帰り、向井センター長と同じことをすれば、誰でも二酸化炭素博士としてご家族を驚かすことができるところです。試験管を振るだけで、試薬の色が酸性度に応じて黄色(酸性)になったり緑(中性)になったり青(アルカリ性)になったりします。これであなたもBTB溶液のことや海水と二酸化炭素濃度の関係を忘れませんよね。

実験と説明は、それなりの時間をかけて行うのですが、用意した200キットがなくなってしまい、60キットをスタッフが急遽追加して対応しました。

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写真5海水に二酸化炭素を吹き込み色の変化を観察する実験の様子

【お知らせ】この体験イベントはつくば科学フェスティバル(11月18日(土)つくばカピオ)でも行う予定です。お近くの方は是非お越しください。

6. 自転車de発電(発電量ランキング発表、ミックスジュースブレンド体験、発電証明書発行)

すっかりおなじみになった自転車発電ですが、今回も昨年同様、3種類の発電コースを設定して体験してもらいました。

コース1(写真手前) 子ども用自転車で、消費電力8WのLED、10Wの蛍光灯、60Wの白熱灯、43Wの液晶テレビをつけ比べ漕ぐ力の違いを実感。

コース2(写真中程) 発電量ランキング記録&発電証明書付き自転車で自分の発電能力を測定し、電気を作る大変さとありがたさを知る。

コース3(写真奥側) 発電した電気でブレンターを作動させ、冷凍フルーツをシェイクしてオリジナルスムージーを作り、美味しく味わっていただく。

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写真6手前は子ども用、中ほどは発電ランキング用、奥はスムージー用の自転車

この自転車発電は、参加者が思わず頑張ってしまい、特に夏場は熱中症になりやすいのですが、今回は細心の注意をし、気分を悪くされる方もなく、気持ちよく体験していただけました。その趣旨は、私たちは日常的に電気エネルギーをスイッチ一つで使っているけれど、その電気を自分の力で発生させるとしたらすごく大変であることを知ってもらうことです。

ちなみに今回もっとも発電された方は、男性では520Wでした(210人中1位)。スムージーを作る体験をされた方は男女合わせて約250人でした。

7. 地球環境モニタリング(宇宙から測る)

普段は倉庫になっているスペースに地球に見立てた直径1.5mの大きな球の風船を設置し、それにプロジェクタからカラー映像を投影することで地球型のディスプレイ(ダジックアース)を作りました。これには、現在大活躍中の温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」が取得したデータを可視化して投影しています。この幻想的な地球型風船を見ると地球上で二酸化炭素濃度が徐々に増えていく様子が目に見えてわかります。

ご覧になったお客様の中にはダジックアースを背景に、近い将来打ち上げが予定されている「いぶき2号」の模型と記念撮影をされる方も多く、狭い通路は大いに賑わいました。

なお、ここでご紹介した映像の元になっているデータは、ウェブサイトからも閲覧可能です(https://data2.gosat.nies.go.jp/gallery/fts_l2_swir_co2_gallery_en.html)。

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写真7地球型のスクリーンに人工衛星で観測した温室効果ガスの濃度が色分けされて示されています

8. 御礼

夏の大公開の人気は年々増しています。国立環境研究所は、4月の春の一般公開ではやや大人向けの内容を、7月の夏の大公開では、世代を問わず、子どもさんも含めて楽しめるような内容を準備しています。地球環境研究センターでは、今回も大人から子どもまで楽しく学習できるような夏の大公開を準備いたしました。今後も環境問題を自分で考える機会をサポートするような内容の公開に努めていきたいと思います。皆様のご理解とご協力を引き続きよろしくお願い申し上げます。

なお、来年の夏の大公開では、新しいアイデアを取り入れた新企画をご披露する予定です。乞うご期待!

図1土壌呼吸と地球温暖化に関するクイズの答えは、上から順に (3) 約10倍、(3) 微生物の働きと (4) 木の根の働き、(1) 増える可能性がある です。

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地球環境研究センター ニュース編集局
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