RESULT2024年4月号 Vol. 35 No. 1(通巻401号)

最新の研究成果 東アジア生態系の温室効果ガス収支に関する包括的な分析

  • 伊藤昭彦(地球システム領域 物質循環モデリング・解析研究室 主席研究員)

東アジア地域(日本、中国、韓国、北朝鮮、台湾、モンゴル)は多くの人口と盛んな経済活動、そして森林から砂漠、耕作地にわたる多様な生態系を持つのが特徴です。東アジアの生態系には大きな温室効果ガスの発生源と吸収源が存在すると考えられ、その収支の全体像を明らかにすることは重要な課題です。

グローバル・カーボン・プロジェクト(GCP: https://www.globalcarbonproject.org/)では、地域レベルの温室効果ガス収支を世界中で包括的に解明する研究活動(RECCAP2)を進めており、本研究ではその一環として国際的な研究チームにより東アジア地域の生態系に関する分析を行いました。

多数の観測データ、人為排出インベントリ、モデル推定による情報を集計し、2000〜2019年の二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)、一酸化二窒素(N2O)の大気への排出量と吸収量を求めました。結果をまとめたのが図1で、東アジア生態系はCO2については森林などの自然生態系や植林によって正味の吸収源となっており、CH4とN2Oについては水田・耕地の寄与が大きく正味の放出源となっていることが分かりました。

今回の分析では、3種類のガスを合計するとやや吸収量が上回っており、化石燃料消費などの人間活動に起因する温室効果ガス排出を抑制する上で、生態系が果たす役割が大きいことが示されました。今後、ネットゼロを目指していく中で、東アジア地域とその生態系の温室効果ガス収支がどう変わっていくか、引き続き注視していくことが重要です。

図1 東アジア地域の温室効果ガス収支の概要。TDは大気観測に基づくトップダウン手法の推定、BUは地上での放出・吸収量を積み上げたボトムアップ手法の推定を示します。両推定法の結果は概ね一致するものが多いですが差が目立つものもあり、また±で示される誤差の範囲が大きいため、それらの不整合や誤差を小さくしていくのが今後の課題です。
図1 東アジア地域の温室効果ガス収支の概要。TDは大気観測に基づくトップダウン手法の推定、BUは地上での放出・吸収量を積み上げたボトムアップ手法の推定を示します。両推定法の結果は概ね一致するものが多いですが差が目立つものもあり、また±で示される誤差の範囲が大きいため、それらの不整合や誤差を小さくしていくのが今後の課題です。