REPORT2024年4月号 Vol. 35 No. 1(通巻401号)

教科書ではわからない気候変動:参加者とともに考える

  • 横畠徳太(地球システム領域 地球システムリスク解析研究室 主幹研究員)

2023年、世界の平均気温は統計開始以来の最高値を記録し、日本でも年間平均気温が過去最高となりました。日本の各地で暑さに関する記録を更新しています。多くの人が気温の変化を実感し、気候変動について考える年になったのではないかと思います。私たちが参加している「気候変動予測先端研究プログラム」(文部科学省)では、進行しつつある気候変動について解明し、自治体や企業の気候変動対策に役立つ予測データの提供を行うことを目指した研究を進めています。

研究プログラムでは「教科書ではわからない気候変動~最近の異常気象から長期対策の必要性まで~」をテーマに、気候変動予測の方法やメタンの温暖化への影響などについて、最新の研究内容を交えて分かりやすくお伝えするイベントを企画しました(2023年12月25日)。毎年、公開シンポジウムを行い、最先端の研究成果を社会に伝える取り組みを行っていますが、2023年度は特に若い世代に向けた企画としました。学生さんが参加しやすいよう、冬休みの午後にオンラインで行いました。当日の様子は以下のサイトから見ることができます。

https://www.youtube.com/watch?v=iJfxxbytKpc

発表資料はこちらにあります。
https://www.jamstec.go.jp/sentan/event/sympo/2023/index.html

イベントの企画を発表した時は、主に高校生や大学生を対象としたシンポジウムを想定していました。しかし参加者と研究者への質問を募集したところ、中学生や小学生からも応募や質問があったため、小中学生でもわかる内容で話すことを決めました。

シンポジウムでは、研究者4名による講演を行いました。

  1. 来月の今日の天気が予報できないのに、なぜ何十年も先の気候を予測するのか?
    小坂優(東京大学先端科学技術研究センター)
  2. 気候シミュレーションはどこまで細かくなる?~コンピュータで掴む雲と雨~
    高須賀大輔(東京大学大気海洋研究所)
  3. メタン削減は温暖化対策になり得るか?~CO2だけじゃない地球温暖化の原因~
    関谷高志(海洋研究開発機構)
  4. 長期対策の必要性~地球温暖化を止めるには?~
    横畠徳太(国立環境研究所)

研究者の講演のあと、世界自然保護基金(WWF)ジャパンの小西雅子さんをお招きし、「終わったばかりの国連の気候変動に関するCOP28会議で決まったこと」についての話題提供をいただきました。さらに、小西さんにファシリテータをしていただき、参加者からの事前質問や当日の質問に答えるトークセッションを行いました。

当日は zoom と YouTube 配信で、530名ほどの方に参加していただきました。参加者アンケートから集計したところ、10代・20代の方々からも数多く参加をいただいたことが分かりました。トークセッションでは、皆様からいただいた以下のような質問に、参加者で答えていきました。回答については、https://www.youtube.com/watch?v=iJfxxbytKpc&t=6150s をぜひご覧ください。

  • 気候変動によって既に世界に大きな被害が出ているのでしょうか。日本や世界の被害の実例を具体的に教えてください。
  • このまま人間が排出を続けると、気温上昇は今世紀末に3度程度も上がってしまうというコンピューターシミュレーションの予測がありますが、そもそもこのような予測は当たるのか?コロナやウクライナやガザの戦争などの影響は?
  • コンピューターシミュレーションで雲や雨の予測ができるとのことですが、コンピューターの中に地球を再現することができるのですか?
  • 家畜のげっぷも温暖化ガスで、メタンは 30年ほどで大気中から消えると聞きましたが、それでも対策は必要?メタンの排出について、日本はどうすればよい?
  • 今年は例年に比べ夏が長く秋の始まる時期が遅い印象でしたが今後このような季節の移り変わりになるのでしょうか。
  • 気圧はどのような関係で数値が変化するのか。入道雲はどのようにしてできるのか。
  • 今の気候変動が以前の時代と似ている時代はありますか?
  • 気候変動の課題解決に向けて、ビジネスパーソンが明日から個人で貢献できる具体的な対策のヒントや、会社単位でめざすべき考え方や指標は?
  • 気候変動といっても色々な要素があり、研究の切り口もさまざまあるかと思うのですが、気候変動関連の研究の全体像とか、それぞれの研究がどのように関連しているのか知りたい。
  • 環境問題を解決しよう思うとき、最も大切なことは何だと思いますか。

また、終了後のアンケートでは、シンポジウムの講演やトークセッションに対して、数多くの方から興味深かった、との回答をいただきました。コメントやご感想として書き込んでいただいた内容は、以下のようなものです。

  • まさに聞きたかった内容でした。わかりやすいメッセージ性を感じました。
  • 題目が面白いと思いました。見た瞬間、興味をそそられる感じが良かったです。
  • 研究者の方々の努力が良くわかりました。感謝です。
  • 研究者としての現象に対する真摯な姿勢が印象的でした。小中学生にも分かり易く最先端の科学に目が開かれる魅力 的な内容・話しぶりだったと思います。
  • メタンの影響を具体的に分かり易く聞いたのは初めてでした。分かり易いデータとお話し、素晴らしかったです。
  • いま私たちがしなくてはいけないこと、長期的に対策を練るべきかをわかりやすく解説してもらい、非常に楽しかったです。
  • 分かりやすい説明で、講演時間が短く感じました。
  • かみ砕いた内容は小中学性に対してもとても分かりやすい内容だったと思います。

皆さんがどのようなことを疑問に思っているかを知ることは、私たちが研究を進め、それを社会に発信する際に、とても重要なことだと思います。たくさんの質問をいただき、感謝します。また、今回のシンポジウムのため、関係者で時間をかけて準備をしましたが、私たちの取り組みやイベントの内容に関して、多くの方に興味を持っていただけたこと、本当にありがたいことだと思います。いただいたご質問やご意見、感想を参考に、今後も研究活動を進めていきたいと思います。