REPORT2023年11月号 Vol. 34 No. 8(通巻396号)

オープンサイエンス時代における学術データや学術試料の利活用を推進するために

  • 三枝信子(地球システム領域長)
  • 白井知子(地球システム領域 地球環境データ統合解析推進室長)
シンポジウムのポスター

2023年8月20日(日)に日本学術会議が主催、日本地球惑星科学連合と日本地質学会が後援となり、公開シンポジウム「オープンサイエンス時代における学術データ・学術試料の保存・保管、共有問題の現状と将来」が開催されました。

日本学術会議が「オープンサイエンス」に焦点を当てた講演会としては、6月26・27日に学術フォーラム「オープンサイエンス、データ駆動型研究が変える科学と社会-G7コミュニケを読み解く」が行われ、人文社会学から理工学・医学に及ぶ広い分野の課題と展望が紹介されました(三枝信子「オープンサイエンスとデータ駆動型研究がもたらすもの」地球環境研究センターニュース10月号を参照)。 今回は、地球惑星科学分野における話題、特に、学術データ、標本、サンプル試料などの知的財産をどのように長期的に保存し、共有し、利活用するかという点について、さまざまな話題が提供されました。

シンポジウムはオンラインで開催されました。事務局の集計によると、参加者は91名とのことでした。当研究所からは、講演者として地球システム領域長の三枝信子、総合討論のコメンテータとして同領域地球環境データ統合解析推進室長の白井知子が参加しました。各講演の発表資料(PDFファイル)は以下のウェブサイトから公開されています。講演資料(日本学術会議)https://www.scj.go.jp/ja/event/2023/346-s-0820.html

シンポジウムは、日本学術会議会員で国立極地研究所所長の中村卓司氏の開会挨拶で始まりました。続く第1セッションでは「オープンサイエンス時代における学術データ共有とサイエンス」と題し、まずは、科学技術・学術政策研究所室長の林和弘氏と、情報通信研究機構研究統括の村山泰啓氏より、それぞれ政策側・学術コミュニティ側の視点から、オープンサイエンスにかかわる科学政策の国際動向や、学術ジャーナルとデータポリシー、研究コミュニティ・学協会の動き等について紹介がありました

次に、東北大学名誉教授の大谷栄治氏からは、日本地球惑星科学連合(JpGU)のオープン・アクセス・e-ジャーナル「Progress in Earth and Planetary Science (PEPS)」の総編集長を務めた経験から、論文出版の際に、信頼できるリポジトリからのデータ公開を要求する学術雑誌や出版社が増加しているが、データ公開場所や支援体制が不足するケースやそれらへの対応に関する最近の事例等の紹介がありました。また、本セッションの最後の講演として、三枝信子から「国立環境研究所におけるデータ駆動型科学の推進とそれを支えるデータ基盤」と題して、地球環境研究におけるマルチスケールの大規模モデル群と大規模観測データの融合、気候変動適応策に貢献するオープンデータ、データ利活用の推進などについて紹介しました。

第2セッションでは「学術試料散逸・保管のチャレンジと課題」として、高知大学教授の池原実氏、国立科学博物館研究主幹の齋藤めぐみ氏、中央大学教授の西田治文氏、東京大学大学院教授の小宮剛氏から、深海掘削コア、博物館の標本や資料など、宇宙・地球惑星研究や自然史研究のための有形の資料の保管についての事例や課題が提示されました。

標本などの有形試料は公開した時に利用把握しやすい一方、電子データのように複製できない上、長期間品質保持できる保管場所の確保が困難です。このため、どの機関も保管場所拡充の予算獲得に苦労しており、データ利活用の公募を行ったり、HPから標本や資料のデータベースを公開したり、クラウドファンディングに挑戦したりした事例も紹介されました。国立科学博物館からは、2023年にクラウドファンディングで寄付を募ったところ予想を大きく超える支援が得られたことが報告され、感謝とともに、国内にたくさんある中小規模の博物館では保管場所に困窮するところが今後も増えるだろうという危機感が共有されました。

最後の総合討論では、はじめに産業技術総合研究所の森田澄人氏から地質標本館における試料保管・公開に関する紹介があり、続いて白井知子よりオープンデータの理想と現実、その中で研究データへのDOI付与が果たし得る役割、研究手法やデータ形式に類似性がある隣接分野間での連携の重要性について話題提供およびコメントしました。

その後、近年では論文発表の際に使用データのアクセシビリティを確保するのが潮流となっているが、有形試料についても同様の対応を考える必要があるとの議論がありました。また、国際共同研究で他国にデータの主導権を取られないためには国内研究機関が組織としてのデータポリシーを定めておくことが重要であることや、国際的にデータ利活用を進めるためにはメタデータの統一を図るべき、といった意見交換が行われ、今後も場を改めて関係者間で議論を続けることが提案されて幕を閉じました。

今回のシンポジウムは、地球惑星科学の分野で既に重要となっている学術データの管理・公開の話題にとどまらず、学術標本やサンプルをはじめとする有形試料の保管・公開に関する各研究コミュニティの取組や将来展望についての考え方が共有され、たいへん興味深い内容になりました。