NEWS2023年7月号 Vol. 34 No. 4(通巻392号)

わが国の2021年度(令和3年度)の温室効果ガス排出量について ~新型コロナウイルス感染症による経済の停滞からの回復により排出量は増加~

  • 小坂尚史(地球環境研究センター温室効果ガスインベントリオフィス 高度技能専門員)
  • 畠中エルザ(地球環境研究センター温室効果ガスインベントリオフィス マネジャー)

1. はじめに

わが国は国連気候変動枠組条約(United Nations Framework Convention on Climate Change 以下、条約)等のもと、国際的な責務として日本国の温室効果ガスの排出・吸収量を算定しています。

国立環境研究所 地球システム領域 地球環境研究センター 温室効果ガスインベントリオフィス(Greenhouse Gas Inventory Office of Japan 以下、GIO)では、環境省の委託を受け、わが国の温室効果ガス排出・吸収量を算定し、それをとりまとめた目録(インベントリ)を毎年作成し、国連に報告しています。それと同時に、報道発表を行っています。GIOと環境省は2023年4月21日に、2021年度の排出・吸収量を公表しました。その概要を含め、わが国の状況について紹介します。

2. 概況

2021年度の温室効果ガス総排出量*1は11億7,000万トン(CO2換算、以下省略)となりました。2021年度のNDC*2における吸収量*3は4,760万トンで、これを2021年度の総排出量から差し引くと11億2,200万トンとなり、2013年度*4の総排出量と比べて20.3%の減少となりました。

3. 温室効果ガスの総排出量の推移と増減要因

1990年度*5から2021年度までのわが国の温室効果ガスの排出量の推移を図1および表1に示しました。

2021年度の総排出量は2013年度と比べて2億3,770万トン(16.9%)の減少となりましたが、前年度と比べて2,320万トン(2.0%)増で、8年ぶりに増加に転じました。

前年度と比べて排出量が増加した主な要因としては、新型コロナウイルス感染症で落ち込んでいた経済の回復等によるエネルギー消費量の増加があげられます。

2013年度以降、排出量が減少した主な要因としては、エネルギー消費量の減少(省エネの進展等)及び電力の低炭素化(再エネ拡大及び原発再稼働)に伴う電力由来のCO2排出量の減少があげられます。

図1 わが国の総排出量と各温室効果ガスの排出量の推移(1990~2021年度)
図1 わが国の総排出量と各温室効果ガスの排出量の推移(1990~2021年度)(画像拡大)
表1 各温室効果ガス排出量の推移(1990、1995、2000、2005、2010、2013、2015、2017~2021年度)(画像拡大)
表1 各温室効果ガス排出量の推移(1990、1995、2000、2005、2010、2013、2015、2017~2021年度))
※LULUCF分野の排出・吸収量は除く。

4. 各温室効果ガスの前年度および2013年度からの排出量の増減要因

次にガスの種類別に前年度及び2013年度と比較した排出量増減の詳細を紹介します。

(1)二酸化炭素(CO2

2021年度のCO2排出量は10億6,400万トンであり、前年度と比べて2,230万トン(2.1%)増加しました。また、2013年度と比べて2億5,350万トン(19.2%)減少しました。

表1および図2に部門別(電気・熱配分後)*6の推移を示しました。

図2 二酸化炭素の部門別排出量(電気・熱配分後)の推移(1990~2021年度)
図2 二酸化炭素の部門別排出量(電気・熱配分後)の推移(1990~2021年度)(画像拡大)

2021年度の産業部門からの排出量*7は3億7,300万トンであり、前年度比で1,910万トン(5.4%)増加、2013年度比で9,020万トン(19.5%)減少しました。

前年度からの増加は、新型コロナウイルス感染症で落ち込んでいた経済の回復等により、製造業における生産量が増加したことから、エネルギー消費量が増加したこと等によります。2013年度からの減少については、電力のCO2排出原単位(電力消費量当たりのCO2排出量)が改善したこと、製造業における生産量が新型コロナウイルス感染症拡大以前の水準を引き続き下回っていること等があげられます。

2021年度の運輸部門からの排出量は1億8,500万トンであり、前年度比で140万トン(0.8%)増加、2013年度比で3,950万トン(17.6%)減少しました。

前年度からの増加は、新型コロナウイルス感染症で落ち込んでいた経済の回復等により、貨物輸送量が増加したこと等によります。2013年度からの排出量の減少は、旅客輸送、貨物輸送ともに輸送量が新型コロナウイルス感染症の拡大以前の水準を引き続き下回っていること等があげられます。2019年度までは自動車の燃費の改善等により旅客輸送においてエネルギー消費原単位(輸送量当たりのエネルギー消費量)が改善したことも減少に寄与しました。

2021年度の業務その他部門*8からの排出量は1億9,000万トンであり、前年度比で600万トン(3.3%)増加、2013年度比で4,700万トン(19.8%)減少しました。

前年度からの増加は、新型コロナウイルス感染症で落ち込んでいた経済の回復等により、エネルギー消費量が増加したこと等によります。2013年度からの排出量の減少は、電力のCO2排出原単位の改善により電力消費に伴う排出量が減少したこと、省エネの進展等によりエネルギー消費原単位(第三次産業活動指数当たりのエネルギー消費量)が改善したため、エネルギー消費量が減少したこと等があげられます。

2021年度の家庭部門からの排出量は1億5,600万トンであり、前年度比で1,050万トン(6.3%)減少、2013年度比で5,150万トン(24.8%)減少しました。

前年度からの減少は、新型コロナウイルス感染症による外出自粛が緩和された影響で在宅時間が減少したことによる、電力等のエネルギー消費量の減少等によります。2013年度からの排出量の減少は、省エネの進展等によりエネルギー消費原単位(世帯当たりのエネルギー消費量)が改善しエネルギー消費量が減少したこと、電力のCO2排出原単位が改善したこと等によります。

2021年度の非エネルギー起源CO2排出量*9は7,580万トンであり、前年度比で160万トン(2.1%)増加、2013年度比で630万トン(7.7%)減少しました(表1)。前年度からの排出量の増加は、石灰生産量の増加等により工業プロセス及び製品の使用分野からの排出量が増加したこと等によります。2013年度からの排出量の減少は、セメント生産量の減少等により工業プロセス及び製品の使用分野からの排出量が減少したこと等によります。

(2)メタン(CH4)、一酸化二窒素(N2O)、ハイドロフルオロカーボン類(HFCs)、パーフルオロカーボン類(PFCs)、六ふっ化硫黄(SF6)、三ふっ化窒素(NF3

CO2以外のガスについては、図1および表1に推移を示しました。

2021年度のCH4排出量(CO2換算)は2,740万トンで、前年度比で2万トン(0.1%)減少、2013年度比で180万トン(6.1%)減少しました。前年度及び2013年度からの減少は、廃棄物分野(埋立等)における排出量が減少したこと等によります。

2021年度のN2O排出量(CO2換算)は1,950万トンで、前年度比で22万トン(1.1%)減少、2013年度比で240万トン(11.1%)減少しました。前年度及び2013年度からの減少は、廃棄物分野及び燃料の燃焼・漏出カテゴリーにおいて排出量が減少したこと等によります。

2021年のHFCs、PFCs、SF6、NF3のそれぞれの排出量(CO2換算)は5,360万トン、320万トン、200万トン、40万トンでした。前年比でそれぞれ140万トン(2.6%)増加、35万トン(9.9%)減少、2万トン(0.9%)増加、4万トン(12.8%)増加、2013年比でそれぞれ2,140万トン(66.7%)増加、14万トン(4.1%)減少、3万トン(1.3%)減少、120万トン(76.5%)減少しました。

HFCs排出量の前年及び2013年からの増加は、冷蔵庫等の冷媒として、オゾン層破壊物質であるハイドロクロロフルオロカーボン類(HCFCs)からHFCsへの代替が進んでいること等によります。わが国の温室効果ガスの中で唯一、顕著な増加傾向にあるのが、HFCsとなっています。

5. おわりに

2020年以降の地球温暖化防止の国際枠組である「パリ協定」は、産業革命以降の平均気温上昇を2℃より十分低く抑え、1.5℃未満を目指す努力を追求するという世界共通の長期目標を掲げています。そのために、各国は今世紀後半に温室効果ガス排出量を実質ゼロ(カーボンニュートラル)にすることを目指しています。

パリ協定には京都議定書のように法的拘束力のある数値目標はなく、各国がNDCを表明し、排出量や目標達成の進捗状況について透明性を担保した形で報告し、世界全体での進捗確認を繰り返すことで排出を削減するという考え方に基づいています。

わが国は温室効果ガス排出量を2030年度に2013年度比46%削減し、2050年までにカーボンニュートラルの実現を目指すという目標を掲げています。

私たちGIOが作成している温室効果ガスインベントリは、目標の進捗状況を測る指標として活用されています。排出削減策の効果をインベントリに反映することも含め、排出・吸収量の正確な把握は重要であることから、今後も算定方法を継続的に見直していく予定です。

本稿に使用した2021年度の温室効果ガス排出・吸収量に関する情報をGIOのウェブサイトにて公開しております〈https://www.nies.go.jp/gio/index.html〉。今後もウェブサイトや報告書において、情報をより利用しやすく、説明をわかりやすくし、公開情報の改善を図っていく予定です。

※「わが国の温室効果ガス排出量」は地球環境研究センターウェブサイトにまとめて掲載しています。