第7回国際北極研究シンポジウム(Seventh International Symposium for Arctic Research: ISAR-7)参加報告
1. 国際会議の概要
2023年3月6日(月)~10日(金)、国立極地研究所(NIPR、立川市)において第7回国際北極研究シンポジウム(Seventh International Symposium for Arctic Research: ISAR-7) が開催され、国立環境研究所(以下、国環研)が協力機関として参加しました。当初対面開催が予定されていましたが、新型コロナの感染拡大状況等を鑑み、オンラインと対面のハイブリッド開催に変更されました。
本会議には、地球システム領域の研究者が組織委員会委員として参加し、気候変動や大気質に関するセッションを企画・実施したほか、協力機関として地球システム領域と連携推進部が協力し、職員数名が交代で受付や計時等の対応をおこないました。併せて展示ブースを出展し、国環研の研究活動をアピールしました。また、この機会を利用して、国際会議終了後には会議参加のため来日された2名の有識者をお招きし、地球システム領域の研究活動に対して助言をいただく助言者会合を実施しました。
本稿では、計時、受付係、並びに展示要員として参加した地球システム領域事務職員による会議の記録と、各セッションのコンビーナを務めた研究者2名の概要の報告をいたします。
2. 国環研の取り組みに関する展示
会議開催期間中、国立極地研究所1階ロビーにて展示をおこないました。地球環境研究センター、衛星観測センターのポスターを複数掲示し、持ち込んだTVモニターを使用して、両センターと気候変動適応センターの研究紹介動画を常時上映しました。ISAR-7用のバナーは地球システム領域の事業をベースにしたデザインで作成しましたが、その他気候変動適応センターのバナー、パンフレット、ポスターも掲示しました。
メインセッション等の会場は建物2階以上となっている中、国環研は幸いにも受付に一番近い出展場所となっており、セッション開催前や休憩時間に立ち寄っていただきました。


3. セッションの企画と開催
本国際会議全体の企画と開催には、国環研から町田敏暢室長が組織委員として貢献しました。また、3月6日(月)に池田恒平主任研究員が「S3 Atmospheric composition and Arctic environment/climate: New assessment reports and original studies」、3月9日(木)に町田敏暢室長が「R1 Atmosphere」のセッションコンビーナを担当しました。
<各セッションの概要と感想>
池田恒平主任研究員:大気組成と北極の気候・環境をテーマにした特別セッションを海洋研究開発機構(JAMSTEC)の金谷有剛地球表層センター長やフィンランド環境研究所(SYKE)のNiko Karvosenoja氏、Ville-Veikko Paunu氏らとともに開催しました。ISAR-7でセッションを開催したのは初めてのことで、講演の申し込みがどのくらいあるのか見当がつきませんでした。しかし、4件の招待講演を含め、観測からモデル研究まで幅広いテーマで18件の申し込みがあり、当該分野の関心の高さを感じました。
観測分野では、研究船による北極海での大気エアロゾル研究が、日本に加え中国や韓国でも活発におこなわれていることが印象に残りました。モデル研究では、ノルウェー国際気候研究センター(CICERO)のMarianne Lund氏や気象研究所の大島長主任研究官らが、第6期結合モデル相互比較プロジェクト(CMIP6)や北極評議会の評価報告書のために実施された最新のモデル相互比較実験による短寿命気候強制因子(SLCF)の北極気候への影響等について報告し、活発な質疑がおこなわれました。
池田はPlenary SessionでCMIP6モデルによる東アジア域のブラックカーボンの検証結果について発表をおこないました。対面開催であるものの海外研究者がどの程度来日するものか懸念もありましたが、予想以上に多くの海外研究者が現地参加しているように感じました。論文だけでは追いきれない海外の最新の研究動向について情報交換できる有意義な機会となりました。
町田敏暢室長:「R1 Atmosphere」セッションの共同コンビーナを岡山大学の野沢徹教授と共に務めました。基調講演をお願いした海洋研究開発機構のNaveen Chandra氏は近年注目されている大気中メタン濃度の急上昇についてモデルを使った最新の解析結果を紹介し、聴衆より高い関心を集めていました。本セッションにおけるその他の発表は4件と少なめでしたが、対面での(ハイブリッドでの)開催となったことにより久しぶりに会うことができた研究者も多く、個々の研究のディスカッションばかりでなく今後の共同研究の可能性にも話題が及び、有意義なセッションとなりました。

4. 国際有識者による助言者会合
会議最終日の3月10日(金)14:00~16:00に、ISAR-7に合わせて来日した2名の有識者を招き、国環研の研究活動(特に地球システム関連分野)を説明し、今後の研究推進について助言をいただく助言者会合を開催しました。
<有識者>
Henry Burgess(ヘンリー バージェス)氏
英国南極観測局(BAS)
国際北極科学委員会(IASC) 委員長
Jeremy Wilkinson(ジェレミー ウィルキンソン)氏
英国南極観測局(BAS)
専門:海氷のダイナミクス、海洋循環、熱力学
初めに、国環研の木本昌秀理事長から開催挨拶、三枝信子領域長より趣旨説明がありました。
続いて、有識者の2名から“Arctic science and the environment – programmes, priorities, opportunities and international collaboration”と題して、英国における極域を中心とした気候変動研究の最新の動向、北極域の観測拠点や船舶などのインフラを運営しつつ研究を継続することの重要性、海氷を対象とした海洋自動観測装置(Robotic Platforms)の開発と研究事例、衛星データの利活用、国際北極科学委員会をはじめとする国際協力活動などについて幅広く情報提供をいただきました。
その後、国環研から3名の発表をおこないました。
- 地球システム領域における気候変動分野の研究活動説明
谷本浩志副領域長(気候変動・大気質PG総括) - 民間航空機を用いた大気中温室効果ガスのモニタリング
町田敏暢大気・海洋モニタリング推進室長 - GOSATシリーズの概要
松永恒雄衛星観測センター長 ※オンライン
3名の発表を受けて、有識者からは、いずれのプロジェクトもまさに world-class(世界第一線)の内容であるといった国環研の活動を高く評価するコメントをいただくと同時に、今後の研究の発展に向けて有益な助言をいただきましたので、一部紹介いたします。
ロシアとの共同研究について:
- 北極研究の推進においてロシアは最重要国の一つであり、ロシアにおける観測データは科学の発展に不可欠である。今はロシアへの機器搬送や研究データのロシア国外への送信が止められている困難な状況であるが、紛争下にあっても研究者同士の繋がりを維持し続けることが大変重要である。
国環研の研究活動について:
- 研究者、政策担当者、民間企業などに向けて、相手に適した伝え方でより広く伝えることにより、現時点では思いつかないような将来の方向性を得られる可能性がある。
- 科学を政策に結び付けるのは難しいことであるが、我々は重要だと思う問題について policy brief*1を作成し、政策立案者に積極的に情報提供することで政策立案者を巻き込もうと努めている。
- 国際的なインパクトを強めるには、国際会議に出て、日本の研究を紹介し、人脈を作っていく必要がある。大変なことではあるが国際会議で存在感を示し、自分達がやっていることをもっとアピールしてほしい。
- 研究成果のハイライトを様々な方法で発信することもできる。ウェブサイトでニュース記事を定期的に出すのもよい。
最後に、森口祐一理事から閉会挨拶として議論の総括と有識者への御礼が述べられ、会合を終了しました。
![写真4 国環研研究者からの発表と、有識者[Jeremy Wilkinson氏(中央左)とHenry Burgess氏(中央右)]との質疑応答の様子](/assets/images/cgernews/202307/392001-pic04.jpg)
5. 最後に
私個人としては、今回2度目の国際会議参加でした。前回(COP27)は、年齢も性別も国籍も、環境問題への関心、専門分野も異なる(中には研究者ではなくNGO団体など一般の活動家も)数多くの方が参加されているものでしたが、本会議はテーマが定まっていることもあり、研究機関、教育機関に所属する比較的ヨーロッパ圏の方が多い印象を受けました。
私自身あまりにスピードの速い英語の会話に圧倒されなかなか思うようにコミュニケーションができない部分もありましたが、国環研のある研究者が、「自分も相手の言っていることを100%理解しているわけではないが、要所を理解して答えている」と言っていて(こちらから見ると滞りなく会話しているように見えるので)驚き、少し安心しました。至らない部分もありましたが、また毛色の異なる国際会議への参加経験を通して、個人的にステップアップできたのでは、と前向きに考えています。
また助言者会合で、「国環研の研究について政策担当者のような異なる立場の方々に対して相手に適した伝え方をするように」「海外にももっと積極的にアピールして存在感を示すように」といった助言を受けたことで、地球システム領域の広報担当として様々な媒体を通じた情報発信に貢献していきたいと感じました。
今回参加の機会をいただいたことに感謝しつつ、準備、調整から英会話(気持ちの持ちよう)まで、今後に活かしてければと思います。
