REPORT2022年6月号 Vol. 33 No. 3(通巻379号)

Future Earthとともに進める持続可能な社会変革に関する研究 第7回NIES国際フォーラム報告

  • Peraphan Jittrapirom(GCPつくば国際オフィス 事務局長、ラドバウド大学(オランダ)助教)
  • 白井知子(地球システム領域 地球環境データ統合解析推進室長、GCPつくば国際オフィス 代表)

国立環境研究所(以下、NIES)は、2022年1月20日~21日にオンラインによる第7回アジアの持続可能な未来に関する国際フォーラム(NIES International Forum)を開催しました。このイベントは、NIES、総合地球環境学研究所(RIHN)、長崎大学、東京大学未来ビジョン研究センター、アジア工科大学院アジア太平洋地域資源センター(AIT, タイ)、Future Earthグローバル事務局日本ハブの6団体の協力で実施されました。

フォーラムのメインテーマは「Research for Societal Transformation(持続可能な地球に必要な社会変革に関する研究)」です。私たちが直面している気候変動という緊急事態を背景に、持続可能な社会へとすぐにシフトしなければならないということです。このフォーラムは、地球が重大な局面にあることを強調する内容になることが予想された気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書第2作業部会報告書(2022年2月に公表)の直前に開催されました。

フォーラムの主な目的は、若手研究者が自分の研究成果や関心事項を発表し、講演者らと議論することで、地球規模の持続可能性に向けた変革を加速させる方法を見出すためのプラットフォームを若手研究者に提供することです。さらに、イベントを通して強調したいのは、持続可能な社会を実現するための重要な要素の一つである、ステークホルダーとの超学際的なプロセスの重要性です。

2日間のイベントには100名以上の研究者が参加し、研究成果を発表し、議論しました。議論されたテーマは(1)環境評価、(2) 利害関係の複雑な現代における2050年温室効果ガス排出量ネットゼロ、(3)システミックリスクの3つを中心としました。また、イベントは3人の基調講演と、学生、若手研究者を中心としたフラッシュトーク(1分間で一つのテーマを話す)、基調講演者を含めたパネルディスカッションで構成されました。

1日目(1月20日)の午前中は、Giles Sioen(NIES)が司会を務め、フォーラムが開始されました。

主催機関の代表による開会の挨拶に続き、3人の基調講演が行われました。西田充氏(長崎大学)は、核兵器問題を重大な環境脅威の一つとして認識することの重要性を、Leena Srivastava氏(IIASA, オーストリア)は環境を有形・無形の価値として捉えることの必要性を、Ilan Chabay氏(IASS, ドイツ)は複合的なシステムリスクについて直接・間接の相互作用を認識しなければ説明できないことを解説し、複合的な環境問題を扱う上で視野を広げる重要性が強調されました。Chabay氏は、将来の地球規模の危機は、コミュニティがどのように災害に備え、対応するかに大きく依存し、その際、ナラティブ*1がツールとして重要な役割を果たすと結論づけました。基調講演の後、春日文子氏(Future Earth)の進行により、活発なディスカッションが行われました。

基調講演の後、門司和彦氏(長崎大学)の進行により、「社会と科学との相互理解」をテーマに、10名の若手研究者による活発なフラッシュトークが行われました。このセッションは、その後のイベントのフォローアップとなるもので、非常にインタラクティブなものでした。

続いて、江守正多(NIES)が進行役になり、基調講演者に住明正氏(東京大学)(写真1)、Shobhakar Dhakal氏(AIT)、亀山康子(NIES)と門司氏が加わり、社会と科学に関するパネルディスカッションが行われました。ここでは、リアルタイムで対応できる強固なモニタリングプロセスの重要性、意思決定プロセスにおける科学者の役割の強化(科学に基づく政策決定)、科学の価値向上におけるメディアとコミュニケーションの役割などが話し合われました。

最後に、永安武氏(長崎大学)の挨拶で、初日を終了しました。

なお、1日目の内容はYouTubeチャンネルからご視聴いただけます(https://www.youtube.com/watch?v=YiEe1S5tFF4、英語)。

写真1  住明正氏(東京大学)による話題提供。
写真1 住明正氏(東京大学)による話題提供。

セミナー2日目は、Giles Sioen(NIES)が司会を務め、(1)環境評価、(2)利害関係の複雑な現代における2050年温室効果ガス排出量ネットゼロ、(3)システミックリスクの3つのエキスパートセッションが行われました。エキスパートセッションでは、この分野の第一線で活躍する研究者が最先端の研究を紹介し、若い研究者が自分の研究について率直に議論する機会を提供しました。

最初のセッション「環境評価」は、近藤智恵子氏(長崎大学)がまとめ役となり、Chris Ng氏(東京大学)が座長を務めました。このセッションでは、Dodik Nurrohmat氏(IPB University, インドネシア)、太田貴大氏(長崎大学)、高橋潔(NIES)、Alan Dangour氏(London School of Hygiene and Tropical Medicine, イギリス)が講演しました。

講演では、環境価値を審査し評価できるさまざまなアプローチに焦点が当てられました。たとえば統合評価モデル(AIM)はオーソドックスなアプローチとしてすでに確立されたものですが、その能力を拡大するための作業が残されています。これらのアプローチで何ができ、何ができないのかについて認識する必要があります。また、より持続可能な消費と生産への転換が求められています。さらに、人間の健康と地球の健康が相互に依存していることを認識することも重要です。

第2部では、2050年の温室効果ガス排出量ネットゼロに向けた変革におけるステークホルダーの重要性について議論されました。このセッションは、谷本浩志(NIES)、Giles Sioen(NIES)がまとめ役を担当し、亀山康子(NIES)が座長を務め、Kejun Jiang氏(Energy Research Institute, 中国)、花岡達也(NIES)、Boer Rizaldi氏(Bogor Agricultural University, インドネシア)、白井知子(NIES)の4人の研究者が、テーマについて議論しました。

Jiang氏は、2060年までのカーボンニュートラル達成に向けた中国の技術進歩を紹介しました。花岡は、アジアにおける石炭の削減の重要性を強調しました。Rizaldi氏は、インドネシアにおける土地利用や林業部門からの排出を削減するための複数の政策を紹介しました。白井は、GCPの枠組みにおける国際協力の成果として、世界のCO2収支2021年版(Global Carbon Budget 2021)の最新推計を発表しました。本セッションでは、科学者、公的機関(国・地域)、民間企業、非政府組織など、さまざまなステークホルダーが連携して気候問題に取り組んでいることを幅広く紹介しました。登壇者たちは、コラボレーションの重要性を再度強調しました(写真2)。

写真2 セッション2の4人の発表の後のディスカッション。
写真2 セッション2の4人の発表の後のディスカッション。

最後のセッション「システミックリスク」は、Hein Mallee氏(RIHN)が座長を務め、吉田丈人氏(東京大学)、Chadia Wannous氏(Future Earth)、谷淳也氏(東京大学)、Maurie Cohen氏(New Jersey Institute of Technology, アメリカ)が参加し、複合的な環境リスクが、惑星システムに影響を与える可能性について議論しました。この課題に対処するためには、地域の知識やコミュニティの知恵を集約したエコシステム・ベースのアプローチが不可欠でしょう。

最後に、NIESの森口祐一が閉会の挨拶を述べ、2日間の会議を終了しました。