RESULT2022年6月号 Vol. 33 No. 3(通巻379号)

最近の研究成果 中国のロックダウンによるCO2排出量減少の影響を与那国島でも検出に成功

  • 遠嶋康徳(地球システム領域 動態化学研究室長)

与那国島(北緯24.47度、東経123.01度)で観測された大気中の二酸化炭素(CO2)とメタン(CH4)を解析することで、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大阻止のため2020年1月後半から3月にかけて中国で実施されたロックダウンによる化石燃料起源CO2の排出量減少に起因する変化の検出に成功しました。

各種経済指標の変化から、上記ロックダウン期間に中国の化石燃料起源CO2の排出量は20%程度減少したと推定されましたが、こうした変化を大気観測によって捉えることが課題となりました。そうした中、波照間島(北緯24.06度、東経123.81度)で観測された大気中のCO2とCH4の変動比(ΔCO2/ΔCH4比)を解析することで、中国のCO2放出量減少を検出できることが示されました(https://www.nies.go.jp/whatsnew/20201105/20201105.html)。しかし、捉えられたシグナルは微弱なもので、それを補強するような観測データの出現が待たれました。

与那国島は波照間島の西約100kmに位置し、気象庁が温室効果ガスの観測を続けています。そこで、気象庁・気象研究所・国立環境研究所は、波照間島の場合と同様の解析手法を用いて与那国島におけるΔCO2/ΔCH4比を解析しました。ところが期待に反して、与那国島で観測されるCO2濃度には島の植生の呼吸・光合成による変動が強く現れるため、中国の放出量の変化に起因するシグナルが隠されてしまうことが分かりました。

そこで、植生の影響が緩和される夜間のデータのみを用い、さらに植生の影響は日変動を示すことから変動比を解析する時間間隔を24時間から84時間と長くすることで、植生の影響を低減する工夫を行いました。その結果、与那国島でも波照間島とほぼ同じΔCO2/ΔCH4比の変化が得られるようになりました。図1に示すように、与那国島でのΔCO2/ΔCH4比は2020年1月後半から急激に減少し、2月に最低値となり、その後徐々に上昇してゆきます。こうした変化は中国の化石燃料起源CO2の排出量変化の推定パターンとよく一致していることが分かります。

大気観測から地域・国レベルの温室効果ガス排出量の変化を検出することは温室効果ガスの排出量削減状況を検証するためにも重要な課題となっています。今回の研究成果は、波照間島での観測結果を補強し、CO2とCH4の変動比に基づく解析が大陸における放出量の変動検出に有効な指標であることを示唆するものです。今後、両観測地点のデータを統合することで、より正確な放出量の推定が可能になるものと期待されます。

本研究は(独)環境再生保全機構の環境研究総合推進費(JPMEERF21S20802)の支援を受けて実施されました。

図1 上の図(左縦軸)の赤丸は2020年1月から2020年3月にかけて与那国島で観測されたΔCO<sub>2</sub>/ΔCH<sub>4</sub>比の30日間移動平均値を、灰色線は過去9年間(2011-2019年)の平均値(縦棒は変動幅(標準偏差))を表す。比較のため、波照間で観測されたΔCO<sub>2</sub>/ΔCH<sub>4</sub>比の30日間移動平均値を青丸で示した。下の図(右縦軸)の黒線は中国における各種経済活動の指標に基づく化石燃料起源CO<sub>2</sub>放出量の推定値を表し、破線は推定の範囲を表す。
図1 上の図(左縦軸)の赤丸は2020年1月から2020年3月にかけて与那国島で観測されたΔCO2/ΔCH4比の30日間移動平均値を、灰色線は過去9年間(2011-2019年)の平均値(縦棒は変動幅(標準偏差))を表す。比較のため、波照間で観測されたΔCO2/ΔCH4比の30日間移動平均値を青丸で示した。下の図(右縦軸)の黒線は中国における各種経済活動の指標に基づく化石燃料起源CO2放出量の推定値を表し、破線は推定の範囲を表す。