2020年4月号 [Vol.31 No.1] 通巻第352号 202004_352004

第5回NIES国際フォーラムへの参加報告 ミャンマーからアジアの持続可能な未来に向けて

  • 地球環境研究センター 観測第二係 小野明日美
  • 写真撮影/企画部広報室 成田正司

2020年1月21日〜22日、ミャンマーのヤンゴンで開催された「第5回NIES国際フォーラム/5th International Forum on Sustainable Future in Asia」に参加しました。

国立環境研究所(NIES)は、東京大学及びアジアの研究機関とともに、アジアの持続可能な未来に向けての議論を促進するため、2015年度よりNIES国際フォーラムを毎年開催しています。5回目となる今回は、ヤンゴン第一医科大学(UM1)、東京大学未来ビジョン研究センター、アジア工科大学院アジア太平洋地域資源センターとの共催によるもので、ミャンマーを始めとするアジア各国の研究者、政府関係者ら、約160名が参加し、様々な視点からの研究成果等の発表と活発な議論が行われました。基調講演の他、アジアにおいて重要な課題とされる下記3テーマについてそれぞれセッションが設けられ、今後進むべき未来について意見交換が行われました。

  • テーマ1:アジアにおける大気汚染等を含めた健康問題への対応
  • テーマ2:気候変動と生態系保全に関わるSDGsの同時解決に向けた方策の議論
  • テーマ3:アジアにおけるSDGs推進に向けた統合的アプローチ

写真1 ミャンマーの鮮やかな民族衣装があふれる会場

基調講演では、UM1のZaw Wai Soe学長より、環境健康影響に関する研究ネットワークの構築に向けた前向きな取り組みを支持することが述べられた他、大垣眞一郎NIES元理事長(2009年4月–2013年3月)より、不確実性の高い現代において持続可能な環境をデザインするための、統合的なアプローチについて紹介されました。ここでいう「不確実性」は、主に2つの変化の観点から説明されました。一つ目が、人口動態や都市化、地球規模での気候変動に代表される構造的な変化、二つ目が、自然災害に代表される予測不可能な変化です。特に構造的な変化を把握するためには、長期間に渡る観察・観測と、歴史的なエビデンスが必要不可欠なものとして位置づけられました。さらに大垣元理事長からは、NIES地球環境研究センター(CGER)が実施する温室効果ガスのモニタリング事業についても紹介があり、実際に波照間・落石地球環境モニタリングステーションで観測されたデータを示しながら、近年大気中の二酸化炭素濃度は410ppmを超えていること、NIESはアジア太平洋域の大気、陸域、海洋を網羅する包括的で広範囲な観測システムを有していることについて言及されました。

写真2 NIES渡辺知保理事長からも波照間・落石地球環境モニタリングステーションの紹介が

セッション1(アジアにおける大気汚染等を含めた健康問題への対応)では、次世代の健康的な生活と幸福を保障するための研究が取り上げられ、大気環境評価、海洋ゴミとマイクロプラスチック、水質評価などの、現代アジアが抱える課題について発表が行われました。発表の後は幅広い議論が展開され、科学に基づく想像力が重要であること、様々な領域の専門家やステークホルダーとの協働が必要であることが述べられました。

セッション2(気候変動と生態系保全に関わるSDGsの同時解決に向けた方策の議論)では、次世代の教育が最も効果的な未来への投資の一つであることが確認され、質の高い教育の重要性について言及されました。

セッション3(アジアにおけるSDGs推進に向けた統合的アプローチ)では、急速に増大する気候変動リスクに対するレジリエンスや、既存の都市や産業をスマートかつ持続可能な方向へ転換させることを視野に、科学的プラットフォームや統合的な政策決定プロセスについて、議論が行われました。

筆者は、両日午前の部の後に実施されたポスターセッションにおいて、CGERが実施している地球環境モニタリングに関する発表を行いました。

NIESの地球環境モニタリングは、既述のとおり基調講演の中でも度々紹介され、「NIESがこのようなことをしているなんて知らなかった。非常に興味深い意義のある取り組みだ」という声が聞かれた他、「どのような組織体制で実施しているのか?」「観測しているのは二酸化炭素のみか?」「データは公開されているのか?」など、様々な質問を受けました。発表の合間に、ポスターが隣同士だったUM1からの発表者と談笑していた際、「観測機器が高価で壊れやすいのが課題」「マネジメントや戦略といった考え方が弱い」という話が聞かれたのも、とても印象的でした。

写真3 ポスターセッションで質問に応える筆者

フォーラムの最後には、上記セッションの内容が盛り込まれた、4つの主催・共催機関による共同声明が発表されました。

本フォーラムでは、科学と想像力、様々なアクター間での協働、次世代への教育、科学的プラットフォーム、統合的な政策決定プロセスなど、よりよい未来に向けたキーワードがたびたび出てきています。国を越えて異なる立場の参加者が集い、科学を通じた活発な議論が展開されるNIES国際フォーラムという場自体が、アジアの持続可能な未来に向けた一翼を担っているように思います。

写真4 NIES渡辺理事長より発表された共同声明

筆者個人としては、このような国際的な場での発表は初めての機会でしたが、各国からの参加者とローカルな次元を越えて様々な話ができることはとても刺激的であり、貴重な経験をさせていただきました。参加にあたりサポートいただいた皆様に、改めて御礼申し上げます。

写真5 アジア各国からの参加者全員での集合写真

気候変動のグローバル化を肌で感じる

小野明日美

意図せずとも遭遇してしまう…それが私(海外旅行好きの事務系職員)にとっての環境問題である。「20世紀最大の環境破壊」が行われた地で見た船の墓場(ウズベキスタン)、砂漠のど真ん中でメタンが噴き出す大迫力のクレーター(トルクメニスタン)、環境汚染を理由に政府によって破壊された標高4,000mの村(インド)、ふらっと訪れただけの観光客の私でさえ、どの国に行っても何らかの環境にまつわる問題を知ることになるのである。

ミャンマーもそんな国の一つだった。シャン州ニャウンシェに位置するインレー湖は、独自の様式で人々が生活する湖であり、観光地としても有名である。片足で船尾に立ち船を操るインダー族の足漕ぎ漁、浮き島の上に建てられた高床式住居、湖上に浮かぶトマト畑など、とても興味深い水上世界が広がっている。このインレー湖の水位が、驚くべきスピードで低下していると聞いたのは、いつのことだったろうか。1世紀前のおおよそ半分の水位、3m程度低くなっていると話す人もいるようだ。猛暑などの気候変動要因に加え、土地開発のための森林伐採による土砂の流入、観光客の増加なども大きく影響しているという。

環境「問題」は、決して特定の地域固有の問題ということだけではなく、「我々」と密接に関連しながら地球規模で起こっている問題だと、改めて実感させられる。

ちなみにミャンマーは、気候変動の影響に対して世界で最も脆弱な国の一つともいわれるが、気候変動政策が発表されたのは、2019年6月と比較的最近のことである。持続可能な低炭素社会の実現に向けた意欲的な方針が打ち出されており、これからの動向に期待したい。

写真 水上集落の間をボートで進む—いま・ここにあるインレー湖の日常的な風景

ご意見、ご感想をお待ちしています。メール、またはFAXでお送りください。

地球環境研究センター ニュース編集局
www-cger(at)nies(dot)go(dot)jp
FAX: 029-858-2645

個人情報の取り扱いについては 国立環境研究所のプライバシーポリシー に従います。

TOP