SEMINAR2022年1月号 Vol. 32 No. 10(通巻374号)

北海道陸別中学校と陸別小学校の出前授業をオンラインで行いました

  • 地球環境研究センター 研究推進係

1. はじめに

2021年11月5日に北海道陸別中学校1年生、11日には陸別小学校5年生と6年生に、地球システム領域地球環境研究センター大気・海洋モニタリング推進室の町田敏暢室長がオンラインでの出前授業を行いました。

陸別町では、ここに観測拠点をおいている国立環境研究所(以下、国環研)、名古屋大学、北海道大学、北見工業大学、国立極地研究所と陸別町とが、情報交換や地域振興などを目的に陸別町社会連携連絡協議会を設立しており、その活動の一環として、これらの研究・教育機関が協力して年に一度、陸別小学校・陸別中学校への出前授業を行っています。国環研も、陸別町の銀河の森天文台に設置した観測拠点でフーリエ変換分光計による気柱中の二酸化炭素(CO2)およびメタン濃度の観測や、成層圏における微量気体成分の観測を行っており、出前授業は陸別町への恩返しのひとつでもあります。

毎年行ってきた出前授業ですが、2020年度は新型コロナウイルス感染拡大により中止となってしまいました。2021年度については関係者で協議し、オンラインによる開催となりました。

2. 二酸化炭素(CO2)はどこから来てどこに行くのだろう

(1)温室効果ガスと地球温暖化
まず、町田室長は地球と太陽エネルギーおよび赤外放射という熱のやり取りから温室効果の重要性と、温室効果ガスの増加による地球温暖化現象について説明しました。昨今悪者のようにいわれている温室効果ガス。しかし温室効果ガスがあるから地球は快適な温度に保たれているので、大事なものだということ、一方増えすぎると温暖化が進むので注意が必要となることをわかりやすい図を用いて説明しました。

主要な温室効果ガスであるCO2を世界で初めて正確に測ったのはアメリカのキーリング博士で、1958年にハワイ・マウナロア山と南極点で観測を始めました。マウナロア山での観測結果から、CO2濃度は植物が光合成を盛んに行う夏に低く、植物(葉・幹・根)・微生物による呼吸が盛んな冬に高くなるという季節変動をしながら年々増加していることを紹介しました。陸別と同じ北海道にある国環研の落石岬モニタリングステーションでも同様の結果が得られています(図1)。陸別中学校の授業では授業の前日に観測された最新のデータまで図に示して紹介しました。

落石岬モニタリングステーションで観測されたCO2濃度の変化。
図1 落石岬モニタリングステーションで観測されたCO2濃度の変化。

(2)CO2の循環(炭素循環)を知るために
人間が大気中に出したCO2の約半分は陸上植物や海洋が吸収してくれるので、大気に残るのは約半分です。だから今のCO2濃度で収まっているといえます。

こういったCO2の循環を知るために、国環研では北海道落石岬と沖縄県波照間島に地上モニタリングステーションを設置し、CO2濃度を観測しています。陸別町にある「銀河の森天文台」では太陽光の吸収からCO2を計測する装置を置き、陸別上空のCO2濃度を測っています(図2)。陸別のデータは人工衛星で観測されたCO2データの検証にも利用されています。陸別は、観測ネットワークにおいてアジア域のバックグラウンド(空気が清浄な)地点として重要な役割を担っています。

図2 陸別町でのCO2観測は銀河の森展望台で行われている。建物の天井から太陽の光を入れて、室内に置いた装置で太陽光の吸収を測定してCO2の量を観測している。(写真提供:森野勇氏)

また、国環研では船舶を利用した海水中のCO2観測を太平洋上で実施しています。この観測から、海洋は大気中のCO2を吸収している海域も、大気中にCO2を放出している海域もあり、季節によってその分布が違うことがわかっています。そして世界の同じような観測を使って地球上の全ての海域を平均すると、海洋はCO2を吸収しくれることがわかっています。では、海の水は本当にCO2を吸収することができるのでしょうか・・・。

(3)海水は本当にCO2を吸収するのだろうか?

図3 BTB溶液が入った海水に息を吹き込む町田室長。

次に、大気中に放出されたCO2を海水が吸収することを実際に目で見て確かめる実験を行いました。BTB溶液(液体が酸性か中性かアルカリ性かを調べる指示薬)を入れた海水に息を吹き込むと(図3)、弱アルカリ性の海水がCO2を吸収し酸性に近づき、青色から黄色へと変化します。逆にきれいな空気を入れると、海水がCO2を放出し酸性からアルカリ性になり、黄色から青色に戻ります。

はじめに解説を加えながら町田室長が実験を行い、次に、事前配布された海水の入った小瓶を使って生徒たちが実験しました。実験中、海水の色が変わると生徒たちから歓声が上がっていました。この実験をとおして、海水はCO2を吸収したり放出したりする仕組みがあり、気候変動に大きく影響していることを実感できたと思います。実験は繰り返し行えるので、町田室長からは家に帰ったら家族にこの実験を見せて、「人間が出したCO2が海に吸収されている」ことを説明してほしいとの宿題が出されました。

(4)まとめ
最後に、以下のようにまとめて授業を終了しました。

大気中のCO2は植物の活動に影響されます。海の働きにも影響されます。石油や石炭などのエネルギーを使うことによってCO2が増えます。とくに最近は急激に増えています。CO2が増えると地球が温暖化します。また、海が酸性に近づき、貝殻が作りにくくなるなど、生態系に悪影響を及ぼします。

そこで、CO2の増加を少しでも遅くするために、①車に乗らないなどCO2をなるべく出さない工夫をしたり、②CO2を吸収してくれる自然を大切にしたりすることが重要です。

3. おわりに

初めてのオンライン授業でしたが、綿密なリハーサルを行い、当日も大きなトラブルはなく進行しました。

授業のなかではクイズを交え、双方向のやりとりが行われました(図4)。また、実験では生徒たちが何度も楽しそうに繰り返し行うなど、画面を通して反応が伝わってきたのはとてもよかったことですが、できれば次回はこれまでのように陸別に伺い現地の人たちとの交流を深めたいと思います。

図4 CO2に関するクイズを出題する町田室長(上)と手を挙げて回答する生徒たち(下)。