REPORT2022年1月号 Vol. 32 No. 10(通巻374号)

南北両極上空のオゾン層破壊再び ~国際オゾンシンポジウム2021オンライン開催~

  • 中島英彰(地球システム領域気候モデリング・解析研究室 主席研究員)

1.はじめに

2021年10月3日~9日の日程で、国際オゾンシンポジウム(Quadrennial Ozone Symposium: QOS)がOnline形式で開催された。QOSの歴史は、1929年にパリで開かれた「Conference on Ozone and Atmospheric Absorption」にまで遡る、由緒あるシンポジウムである。当時の出席者は35名で、その中には現在も各国で使われている、オゾン観測の標準測器である「ドブソン分光光度計」にその名を残すGordon Dobson博士(1889-1976)もいた。彼らはシンポジウムの中でオゾン観測の重要性を議論し、その後も約4年おきにQOSを開催してきた。年とともに参加者の数も徐々に増加し、1984年のギリシャHalkidikiでのQOSの参加者は220名ほどになっていた。

このギリシャでのQOSにおいては、日本の気象研究所の忠鉢繁博士が、1982年の南極昭和基地でのオゾンの観測結果を初めて国際会議の場で発表し、そのことが後の「南極オゾンホール」の発見につながったという、日本のオゾン観測史上特筆すべき歴史を有している。ちなみに、南極オゾンホールの発見は、Joseph C. Farman博士らによる1985年のNatureの論文*1が発見の一報の様に言われることが多いが、実は忠鉢博士によるNIPR Proceedings*2やQOSのProceedings*3の発行は1984~1985年であり、Farman博士らの論文より早く世に出ている。

南極オゾンホールの発見後、オゾン層関連の研究は地球環境問題への関心の高まりとあいまって急速に拡大し、それに伴いQOSへの出席者も増加の一途を辿った。1988年ドイツのGöttingenでの出席者は550人、筆者が初めて参加した1996年イタリア・L’Aquilaでの出席者は622人、そして2000年日本で初めて開催された札幌での参加者も566人を数え、2004年ギリシャ・Kos島での参加者はこれまでで最大の約700人となった。

その後、地球環境問題の中心がオゾン層破壊から地球温暖化へと移り変わっていく中でQOSへの参加者も若干減少したが、最近でも300名程度の参加者がある。今回のOnlineのQOSは、本来は1年前の2020年秋に韓国・ソウルで開催予定であったが、新型コロナウイルス感染拡大のため、開催の延期を余儀なくされた。2021年の開催もコロナウイルスの影響の継続で、早々とOnlineでの開催へと移行された。なお、2021年のQOSは、第35回に当たる。

2.Quadrennial Ozone Symposium 2021概要

Quadrennial Ozone Symposium 2021には、合計で292件の発表が登録された。参加者数は330名であったとのことである。日本からの発表登録数は、15件であった。また、開催期間中のZoomへの接続数は、200~230人程度で推移していた。シンポジウムは、世界各地からの参加者の時刻帯を考慮して、7日間ともUT(世界時。日本時間はUT+9時間)で12:00~15:00の時間帯に行われた。この時間帯は、参加者の多い欧州では午後の時間帯、北米では早朝~午前中の時間帯となるが、開催国の韓国や日本では夜の21:00~24:00となる。最も不便を強いられるのはニュージーランドで、0:00~3:00の時間帯である。

新型コロナウイルス感染拡大以降ここ2年程の間の国際会議はOnlineでの開催が増えているが、世界中の参加者のことを考えると、時差はいかんともしがたい問題である。それでも、1日の会議時間を3時間に限定することと、発表資料をPowerPointの動画ファイルに保存して、すべて事前提出とすることで、何とか接続のトラブルもなく順調に会議は進行した。

QOSの開催方式の特徴の一つとして、会議全体を通してパラレルセッションは行わず、Oralセッションはすべての参加者が単一のセッションに参加するということが挙げられる。そのため、Oral発表の数はPoster発表に比べて少なく設定されている。今回のシンポジウムではKeynote Speechが7件、Oral発表が69件、Poster発表が216件であった。

今回のシンポジウムは、以下の6つのセッションに分けて発表が行われた。

  • Session A: Stratospheric ozone science (成層圏オゾン科学)
  • Session B: Ozone-depleting substances, sources, sinks, and budgets (オゾン破壊物質、その発生源、消滅先、及び量の収支)
  • Session C: Tropospheric ozone science (対流圏オゾン科学)
  • Session D: Ozone, climate, and meteorology (オゾン、気候と気象)
  • Session E: Ozone monitoring and measurement techniques (オゾン監視・観測手法)
  • Session F: Environmental and human effects of atmospheric ozone and UV (大気中オゾンと紫外線の環境と人間への影響)

それぞれのセッションごとに、1~2件のKeynote Speechと、10数件のOral発表が割り当てられ、残りはPoster発表となっていた。発表は、今回のシンポジウムの世話役である韓国・Yonsei大学のJa-Ho Koo教授(図1)が、それぞれのセッションの座長とともにZoomでシンポジウムを進行する形式で、プログラムに沿って事前に送られていた発表動画が、Zoom画面に再生された(図2)。

今回の世話役の代表者である韓国・Yonsei大学のJa-Ho Koo教授。
図1 今回の世話役の代表者である韓国・Yonsei大学のJa-Ho Koo教授。
Zoomでの国際オゾンシンポジウムの様子。
図2 Zoomでの国際オゾンシンポジウムの様子。一番左上に、国際オゾン委員会会長のSophie Godin-Beekmann博士が。一番上の列の真ん中に、今回の世話役である韓国・Yonsei大学のJa-Ho Koo教授の顔が見える。

発表時間は、Keynote Speechが15分、Oral発表が5分とかなり短く、Poster発表に至っては2分での概要説明だけであった。Keynote SpeechとOral発表の後には、短いQ&AがZoomのChat機能を用いて行われた。一方、各発表それぞれには、別途Q&Aを書き込めるスペースが設けられていたが、短い発表時間の間でやり取りをするのは簡単ではなく、Q&Aページをざっと見て回っても、活発なやり取りがされている発表はあまり多くはなかったように思われる。

Keynote SpeechとOral発表は、Zoomでの発表を見るしかなかったが、Poster発表に関しては詳細なPoster発表自体をダウンロードしてじっくり後で見ることも可能で、そちらの方が後々発表内容の詳細をチェックするには便利であった。一方、Keynote SpeechやOral発表の内容に関しても、再配布などはしないという条件付きで、その動画映像が会議終了後に参加者の間で共有されている。

今回の発表の中で印象に残ったのは、2000年ぐらいを境にその規模を縮小に転じたとみられていた南極オゾンホールが、2020年は最近にない大きな規模(1979年以降で12番目の大きさ)となったということである。その原因については現在もなおさまざまな解析がなされているところであるが、一つの可能性として2020年に起こったオーストラリアでの大規模な森林火災による火災積乱雲(Pyrocumulonimbus: PyroCb)に伴う空気塊の南極への輸送の影響が指摘されている。また2021年の南極オゾンホールも、現時点(2021.11.04)では昨年と同様かそれより大きな規模で遷移している。

一方2020年の北極オゾン破壊量も、これまでの最大値を更新する大きなもので、オゾン破壊量が大きかった1997年や2011年の値を上回っていた(図3)。まだまだしばらくの間は、南北両極でのオゾン破壊の様子を注視し続けていく必要がありそうである。

図3 最近の北極・南極上空のオゾン破壊の推移を示すUlrike Langematz教授(ドイツ・ベルリン自由大学)のKeynote Speech。2020年は南北両半球ともにオゾン破壊量が大きかったことがわかる。(QOS21, Langematz教授(ドイツ・ベルリン自由大学)から許可を得て掲載)

会議の最後に、Zoomへの参加者240名ほどで、可能な人はカメラをonにした集合写真を、図4に示す。

図4 QOS 2021の参加者による集合写真。カメラをonにできる人はできる限りonにして参加した。(写真提供:QOS21事務局)

3.International Ozone Commissionメンバー交代

国際オゾンシンポジウムの開催母体である国際オゾン委員会(International Ozone Commission: IO3C)では、4年に1回のQOSのたびに推薦と投票によってメンバーの一部交代を行ってきている。トップ3のメンバーには交代はなく、会長(President)はSophie Godin-Beekmann博士(フランス)、副会長(Vice President)はPaul Newman博士(米国)、事務局長(Secretary)はIrina Petropavloskikh博士(米国)の3人が引き続き担当することになった。

一方、各国からの委員は約半数が交代した。日本からの代表は、北海道大学の藤原正智准教授が委員継続。JAMSTECの金谷有剛博士は2020年で退任。2021年からは、筆者が新たに委員として加わった。

なお、通常の対面でのQOSでは、次の4年後のQOSの開催地は何となく事前に決まっており、Banquetの席上や会議の最後でHost役となる研究者が次回開催の予告を伝えることが多かったが、今回に限ってはOnline開催だったこともあってか、まだ次回の開催地は決定していないようである。今後IO3Cのメンバーの間でのZoom会議などで次回の開催地について議論される予定となっているが、一部のメンバーから、「米国は1992年以来QOSを開催していないので、次回2024年のQOSは32年ぶりに米国で開催してはどうか?」という提案がなされている。

これまでQOSを多く開催してきているのは、ドイツが5回、英国、米国、ギリシャが4回、スイス、カナダが3回、イタリア、ノルウェー、オーストラリアが2回であり、オゾン関連の研究者の数を考えると、米国での5回目の開催は十分あり得そうな話である。次回こそは現地に集まって、オゾン研究仲間との久しぶりの交流を温め合いたいものである。

※国際オゾンシンポジウムに関するこれまでの記事は以下からご覧いただけます。