地球環境研究センター設立30周年を迎えて
国立環境研究所地球環境研究センターは、1990年に発足し、2020年10月に30周年を迎えることになりました。この機会にこれまでの30年を振り返り、次の30年への展開について考えてみたいと思います。
環境問題のグローバル化が進んだ1990年代
1960〜1970年代、日本では、大気汚染や水質汚濁をはじめとするローカルな公害問題が深刻となり、1974年、国立環境研究所の前身である国立公害研究所が発足まもない環境庁に設置されました。1980年代になると、世界では大気汚染物質の長距離輸送(酸性雨)、オゾン層破壊などの問題が顕在化し、環境問題の影響が、国境を越えて他の国へも及ぶことが多くの人に知られるようになりました。
1990年代、大量生産・大量消費が拡大する社会を背景に、環境問題のグローバル化はさらに進みました。地球温暖化については、人間活動による二酸化炭素排出の増加が地球の気温上昇を引き起こすことが科学的に予測されるようになり、国際社会が協力して対策を立て、それを実行する必要性が認識されるようになりました。
国立環境研究所地球環境研究センターの発足
こうした中で、1990年7月、環境庁(当時)の付属機関であった国立公害研究所は国立環境研究所へ改組され、同年10月には、地球規模の環境保全に取り組む部署として、地球環境研究センターが発足しました。当時は、
- 1. 地球環境研究の総合化
- 2. 地球環境研究の支援
- 3. 地球環境のモニタリング
を3つの柱として、地球温暖化や成層圏オゾン層破壊をはじめとする幅広い研究活動が開始されました。
研究の重点化と研究基盤の整備が進んだ2000年代
2001年、国立環境研究所を含む日本の多くの公的研究機関は、独立行政法人として国の機関から分離しました。2001〜2010年度には、重要な地球環境問題に集中的に取り組むため、地球温暖化や成層圏オゾン破壊に関する課題を重点研究プロジェクトと位置付けて推進しました。
同時に、1990年代から整備してきた地上ステーション・船舶・航空機などの観測インフラに基づく長期環境モニタリング(下イメージ)が、知的研究基盤と位置付けられました。知的研究基盤には、研究データの整備と発信、国内外の共同研究や日本の温室効果ガスインベントリの取りまとめを行う各種オフィス活動、広報活動も組み込み、これらを一体として推進しました。
2009年には、温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)による観測が始まり、温室効果ガスを中心とした地球規模での観測研究がさらに充実しました。
将来のよりよい社会の実現に取り組んだ2010年代
2011年以降、特に地球温暖化研究プログラム(2011〜2015年度)と低炭素研究プログラム(2016〜2020年度)では、気候変動の予測とその影響評価、気候変動リスクに関する総合的な研究が発展しました。その中で、豪雨などの災害をもたらす異常気象の将来予測や、現在起こっている異常気象に地球温暖化がどれだけの影響を及ぼしているかを示す最先端の研究などが進みました。こうした研究は、気候変動を予測し、その負の影響を軽減するための適応策を検討する上でも欠かせません。
これからの30年へ
30年前と今とでは、人々の考え方も社会のニーズも変化しています。さらに、2020年は、新型コロナウィルス感染症拡大の影響により、これまでの社会の常識や習慣の一部が急速かつ大きく変わり始めました。そのような中でも私達が変わらず目指すのは、国際協調に基づき、持続可能で環境と調和した地球の社会をつくることです。
最新の科学的知見や高品質のデータに基づき、パリ協定(2020年以降の温室効果ガス排出削減のための国際枠組み)や、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)に貢献することは、引き続き重要な目標です。次の30年を担う人材の育成も欠かせません。加えて、国立環境研究所も地球環境研究センターも、もっとオープンになって社会のさまざまな立場の方々と交流し、望む社会を共に探り、共に実現していく、そんな30年を創っていけたらと考えています。