2018年12月号 [Vol.29 No.9] 通巻第336号 201812_336003
地球大気化学国際会議(14th iCACGP, 15th IGAC)展示報告
1. 国際会議の概要
平成30年9月25日(火)から29日(土)まで香川県高松市で地球大気化学国際会議(2018 Joint 14th International Commission on Atmospheric Chemistry and Global Pollution (iCACGP) Quadrennial Symposium & 15th International Global Atmospheric Chemistry (IGAC) Science Conference)が開催されました。この国際会議には、国内外から700人以上が一堂に会する大規模な会議となりました。開催場所となった高松市内にも会議を知らせるタペストリーがいたるところに掲げられ、歓迎ムードが感じられました。
地球大気化学国際会議の内容は後日別途行われる報告に譲ることとし、本稿では、会場内の公式展示スペースでの国立環境研究所の広報内容と、本会合に合わせて行われたサイエンスカフェについて紹介します。
2. 国立環境研究所の取り組みに関する展示
国立環境研究所地球環境研究センターは全体会合が行われる大会議室のホワイエに3.6mの間口の展示スペースを確保して、日本航空との共同研究であるCONTRAILプロジェクトで使用するCME(連続二酸化炭素観測装置)や55インチ4Kスクリーンで投影した温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」の観測結果、温暖化影響モニタリングの結果、リアルタイムの二酸化炭素濃度観測結果等を紹介しました。観測結果は、高い画質によって、見る人に強い印象を与えたようです。また、いぶきの1/16模型を展示し、人工衛星を使った温室効果ガス観測の内容について説明を行いました。今回初の試みとして、富士山頂での二酸化炭素観測のバーチャルリアリティー(VR)画像も経験していただきました。
展示スペースには内外の10機関がブースを構え、大気観測用測定器をデモする民間企業のほか、RESTEC(リモート・センシング技術センター)、JAXA(宇宙航空研究開発機構)、WMO(世界気象機関)などの研究機関・国際機関が出展しました。
大会議場で会合が行われる合間に、各国の研究者が国立環境研究所の展示ブースに多数立ち寄り、説明を聞いてくれました。多くはCONTRAILプロジェクトに関するもので、特にCMEへの関心の高さが示されました。測定の方法等についてさまざまな質問を多数受けましたが、こちらの準備も経験を重ねて充実していたため、来訪者に適切な情報を提供することができたと思います。
各国の研究者からの代表的な質問・およびその回答は以下の通りです。
- CMEでは1フライトあたりいくつのデータが記録されるのか
(答:濃度の鉛直分布が取得できる上昇と下降時は10秒間隔、巡航時は1分ごとに時間・位置情報とともに外部大気中の二酸化炭素濃度がデータロガーに記録される。データは2ヶ月ごとに羽田空港または成田空港でCMEを取りおろした後にダウンロードされる) - 測定に使用されるセンサーは何か
(答:非分散赤外線分析計(Non-dispersive Infrared analyzer: NDIR)と呼ばれるセンサーを使っている。また正確なデータを得るために100気圧の二酸化炭素標準ガスシリンダーを2つ搭載していることがCMEの特徴) - データはどのように利用されているのか
(答:ウェブサイトを通じて公開しており、主として研究者に利用されている) - 外部大気はどこから採取するのか、航空機のエンジンの影響は受けないのか、南米のデータはないのか
(答:ジェットエンジンに入って加圧された空気の一部を引き込んでいるダクトから観測用に配管を分岐して大気を採取している。エンジンの後方ではないので自身の航空機からの排気ガスによる影響は受けない。南米には飛行実績がない) - ヨーロッパでも似た取り組みがあると思うが連携はしているのか
(答:研究者間で情報交換を行っており、共同研究を実施する準備ができている) - 日本航空はどの程度財政的な負担をしているのか
(答:わずかな予算を研究所からお支払いしているが、ほとんどの活動費は日本航空の環境保全に対する取り組みということで資源を投入していただいている)
3. 会議におけるアウトリーチ活動としてのサイエンスカフェ
会議の後半にあたる9月28日(金)17:30〜19:00には、会場に地元香川県の理科担当の高校の先生方約30人をお招きして、サイエンスカフェ「明日授業で使いたくなる大気化学の話」が開催されました。
サイエンスカフェは、90分間に6人の研究者が次々に大気化学に関する話題を紹介する形で行われました。研究者ならではの興味ある内容で、例えば人工衛星がどのような原理でさまざまな大気の情報を得ることができるのか、大陸から飛んでくる黄砂はどんなきっかけで空中に飛び出すのか、スーパーコンピューターはどのようにして大気の流れを再現するのかといった科学の原理に基づく話題から、現在地球温暖化関連物質として注目されている大気中の黒色炭素が実は恐竜の絶滅に深くかかわっていたといった地球史にかかわる話題、さらには大気中の粒子状物質に付着して輸送される微生物の研究が発展し黄砂に付着した納豆菌を培養して金沢大学の名物として発売したというユニークな話まで、まさに「明日(来週)の授業で使える話」が語られました。
国立環境研究所の町田敏暢室長も産業革命前後から現在までの大気中の二酸化炭素濃度の推移について解説しました。自分たちが生きてきた中でどれだけ二酸化炭素濃度が増えてきたか、時系列にイベントを並べて、地球温暖化が自分たちに関わることであるという印象が残るよう工夫して紹介しました。使用されたスライドは、来場した高校の先生方がそのまま学校の授業で使えるようにサイトからダウンロードできるようになっています。
その他、この国際会議では、世界の第一線の研究者が地元の高校でサイエンスに関する特別授業を行うなど、未来を担う高校生などの若い世代が、第一線の研究者から、現在の科学研究の最前線や今後の展望について直接話を聞き、科学の魅力を感じ取れるすばらしい機会となったと思いました。