2018年11月号 [Vol.29 No.8] 通巻第335号 201811_335005

地球温暖化防止展に行ってみた (2) —CO2の発生を減らす技術の紹介—

  • 企画部 フェロー(前地球環境研究センター長) 向井人史
  • 地球環境研究センター 炭素循環研究室 高度技能専門員 木村裕子

2018年5月22日(火)〜25日(金)の4日間、東京ビックサイト(東京都江東区有明)にて開催された「2018NEW環境展/2018地球温暖化防止展」を見学したときの、レポートの第2段です(地球温暖化防止展に行ってみた (1) は地球環境研究センターニュース10月号を参照)。この環境展は環境に関わる技術のショーケースとして、全国各地から622の企業が一堂に会し、その技術の紹介が行われていて、非常に興味深いものでした。

今回は主に二酸化炭素(CO2)の排出削減関連の温暖化の「緩和技術」分野について、紹介したいと思います。

1. 二酸化炭素回収貯留

CCSという言葉をご存知でしょうか? Carbon dioxide Capture and Storageの略であり、CO2の回収、貯留を意味しています。CO2の増加が地球温暖化の主要な原因とされていますが、CCSは、工場や発電所などから発生する排ガス等に含まれるCO2を大気中に放散する前に回収し、地中貯留に適した地層まで運び、長期間にわたり安定的に貯留する技術です。今後CO2の排出をゼロまでにするには、CO2を大気中に放出させない仕組みが必要です。

CCSの仕組みは、3つの構成要素からなります。

  • 1. 分離・回収:工場・発電所などから発生するCO2を含む排ガス等から、CO2を分離回収する。
  • 2. 輸送:分離・回収されたCO2を貯留地点まで輸送する。
  • 3. 貯留:貯留地点まで輸送されてきたCO2を、地下1,000m以上の深さで、上部が遮へい層に厚く覆われた貯留層に圧入し貯留する。

北海道苫小牧市において日本初の本格的なCCS大規模実証プロジェクト(CO2の分離・回収、圧入、貯留、モニタリング)が日本CCS調査株式会社によって実施されています。

写真1CCS実証プロジェクト(日本CCS調査株式会社)
http://www.japanccs.com/wp/wp-content/uploads/2017/08/panel_in_tomakomai_2017.pdf

このプロジェクトでは、製油所の水素製造装置から発生するCO2含有ガスから、年間10万トン以上のCO2を分離回収しているそうです。CO2を効率よく回収するシステムもこのプロジェクトで開発されています。分離・回収したCO2は昇圧後、陸上から海底下に掘削された2つの圧入井を通して、貯留層であるすき間が多い砂岩などからできている萌別層と滝ノ上層(図の地層参照)に圧入され貯留されます。貯留層の直上にはCO2を通しにくい泥岩などからなる遮へい層があり蓋の役割をしています。また、モニタリングシステムによって地層内のCO2分布状況を把握し、CCSが安全に行えることを検証しています。

世界ではすでに年間40万トンCO2以上の貯留速度を持った大規模CCSプロジェクトが、米国、ノルウェー、カナダ、英国、オーストラリア、ブラジル、サウジアラビア、アラブ首長国連邦で行われており、2018年には18個目の施設が中国にも完成します。その他計画中や建設中のものを含めるとさらに38ヶ所のサイトで活動が行われています。その多くは石油の蓄積している層などにCO2を圧入貯留することで同時に石油等の回収を増強する意味合いを持っています。(http://www.globalccsinstitute.com/projects/large-scale-ccs-projects

パリ協定の2°C目標を達成するためには、CCS技術が必須ともいわれており、それがどのように展開されるのかが今後注目されています。パリ協定での各国における温室効果ガス排出削減計画では、トータルとして2°C目標に届いていないと評価されていることから、さらにCCSを含む技術展開が重要になってくる可能性が高まっていると報告されています。

2. バイオマス利用の一端

つぎに、再生可能エネルギーの技術についてご紹介します。再生可能エネルギーとは自然過程から得られるエネルギーです。比較的短期間に再生し、一度利用しても継続的に供給されるため枯渇しないエネルギーであることから、再生可能エネルギー(Renewable Energy)と言われます。代表的なものとして、太陽光、水力、風力、バイオマス、地熱などが挙げられます。中でも主軸は、水力や太陽光、風力ですが、ここではバイオマス利用について少し見てみましょう。

「バイオマス」とは、生物(bio)の量(mass)を表す言葉であり、「再生可能な、生物由来の有機性資源(化石燃料は除く)」のことです。バイオマスエネルギーのために使用する原料は、廃棄系(汚泥、紙、食品廃棄物、製材工場等残材等)と未利用バイオマス(農作物非食用部、林地残材等)、資源作物(糖質資源(サトウキビ、てんさい等)、でんぷん資源(とうもろこし、米等)、油脂資源(菜種、ひまわり等))に分類されることが多いとされています。

このなかで、木材からなるバイオマスのことを「木質バイオマス」と呼びます。木質バイオマスエネルギーによる発電や熱供給は、森林資源を活かした新たなエネルギー源として大きな注目を集めています。木材の活用は、快適な住環境の形成や地域経済の活性化につながるのみならず、地球温暖化の防止にも貢献することになります。

バイオマス発電も日本の中で地域ごとに徐々に進んできていて、およそ500ヶ所の発電所が認定されているそうです(https://www.jwba.or.jp/導入ガイドブック/木質バイオマス発電導入ガイドブック/木質バイオマス発電の普及状況/)。また、ボイラーなどにも利用が推進され、製造業や農業、また公共施設といった場所への導入も進んできています。中でも身近にあるのが、木質ペレットと呼ばれるもの(後述)を使ったストーブの利用推進など、地域で紹介されているケースです(たとえば、山形県ペレットエコポイント事業http://eny.jp/pellet-ecopoint/index.html)。発電に用いる際には木材チップ(木材を破砕したもの)で使われる場合も多いですが、ボイラーやストーブでは、ペレットを使うことがよくあります。ペレット化することで輸送や減量化が可能なこともあり、燃料として重宝されているケースが多いようです。ペレットの形で、石炭燃焼の発電施設に混ぜて使う方法などもあり、利用が広がることでペレット化は有用なプロセスになります。

さて、このペレットをどのように作っているのかが、この環境展でも展示されていて、個人的には興味深く拝見しました。さまざまなメーカーがありますが、(株)土佐テックでは木質ペレット製造機ペレタイザーを展示していました。丸い穴の開いたダイキャストの上をローラーが回ることで、圧縮、棒状化していくような仕組みです。そもそも「木質ペレット」とは木でできた長さ1〜2cmの固形燃料のことですが、木質を細かく粉砕した後、ペレタイザーにより、適当な直径と長さの棒状の形に成形されたものです。展示されていたのは、各種のバイオマスからできたペレットで、原料は、稲わら、コーヒー、竹、杉、ヒノキなどです。

通常のペレットの原料は、間伐材木や、木材として使用できない端材、製材過程でできたおが粉などです。新たに木を伐採して燃料にするのではなく、これまで使い途がなかったものに着目して、エネルギーに変えていこうというものです。もし、丸太をペレットにすると、全体の85〜90%をエネルギーとして効率的に利用できるとされています。ぺレットは乾燥・圧縮されているので、薪などの他の木質燃料と比べて、品質が均一化され、発生する熱量も高く、運搬や貯蔵の面でも利便性があります。

写真2(株)土佐テックが展示していたペレット製造機(ペレタイザー)。溝になっている形と台の丸い部分に押し付けて整形される

写真3各種のバイオマスから作られたペレット(稲わら、コーヒー、竹、杉、ヒノキなどいろいろ展示されていて興味深い)

3. 小水力利用

もう一つ注目したいのが、あまり聞きなれないかもしれませんが、小規模な水の流れを利用した水力発電などの小水力利用です。いわゆる電力会社の “水力発電” というものはダムなどを伴う大型の水力利用に分類され、2017年度においてその発電割合が全発電量の8.2%程度と、重要なエネルギー源となっています。一方で、ここでいう小規模な水力を用いた発電は、工場内から出る排水路や小さな流れなどに設置し、水のエネルギーを電気に変えて回収するというものです。これらは、分散的ではあるものの局所的な電力供給や工場内で捨てられていたエネルギー回収等により、地域や工場や事業所の省エネに役立つ可能性を有しています。水の使用については、場所によっては利害関係があったり、河川法等各種手続きが必要になったりすることもあるため、太陽光パネルほど設置が簡単ではない場合があるようです。しかし、一般的には太陽光や風力より安定した発電ができる場合が多く、設備利用率が高い特徴があります(全国小水力利用推進協議会http://j-water.org/about/index.html#about01)。

工場内や施設内で利用している水の位置エネルギーや河川へ戻す前の排水路における水路を利用する場合は、比較的簡単に利用できるケースも多いとされています。小水力というのは、通常1000kW以下の発電を意味しており、その規模はいろいろです。展示されていたのは、配管上や水路上に設置するものですが、数kWの発電量でマイクロ水力発電ともいわれており、多くのメーカーが技術開発を進めています。

従来使われていない小さな水力エネルギーを回収していくと、300万kW程度の未開発のエネルギーがあると推進協議会では概算しているようですので、今後の利用推進も考えられます。環境省では中規模の水力発電利用を含めて、今後のポテンシャルを推算しています(http://www.env.go.jp/earth/ondanka/shg/page05.html)。

写真4マイクロ水力発電機((株)マルヒhttps://maruhi-inc.com/products/#c)中の発電機が水流によって回るようになっている

4. あとがき

2015年のCOP21で採択されたパリ協定では、世界の平均気温上昇を産業革命前と比べて2°C未満に抑えることが宣言され、それに向けた各国の具体的な目標を、5年ごとに前進させる方向に見直していくことが約束されました。こうした世界的な地球温暖化への対応を受けて、日本においても「低炭素」を超えた「脱炭素」の取り組みを進めなければなりません。

低炭素・脱炭素という状況は、今後の企業の事業活動にも大きな影響を与えます。省エネルギー商品や適応に関する商品を開発することに加えて、如何に長期的に気候変動や脱炭素に企業として対応しているかという点でも評価が進んでくるといわれています。特に、CO2の排出量に課税する炭素税などカーボンプライシング(炭素の価格付け)の導入が世界的に広まっており、CO2排出がコストとして企業経営を圧迫する可能性があるといわれています。企業として脱炭素への取り組みが遅れると、将来的にカーボンプライシング導入や環境規制への対応が遅れ、企業の持続的な成長が難しいと考えられます。そのため、ひいては国内・国際的な資金調達を困難にし、グローバル企業との取引条件を悪化させる要因となるといわれています。

低炭素・脱炭素や適応に係る技術革新は早急に行われることが期待される分野で、世界ではすでに開発競争が激しくなっています。日本も、世界に遅れることなく、技術の進歩が必要と考えられますので、こういった展示会が互いにより良い製品をつくるアイデアを得る機会になったり、また新しい製品の市場投入へのはずみになったりしているのはとてもよいと思いました。また、地域に根差した技術も今後さらに求められることから、各地域の企業における技術開発が重要になってくると考えられます。

この展示場では、1日では回り切れないほどの技術や製品が毎年紹介されております。紹介できなかった技術は次の機会で順次紹介していければと思っています。最後になりましたが、取材にご協力いただいた企業の皆様ありがとうございました。

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