2018年2月号 [Vol.28 No.11] 通巻第326号 201802_326003
「陸別観測施設設立20周年記念シンポジウム—宇宙から地球まで—」報告
1. はじめに
陸別総合観測室が発足してから、2017年11月で20周年を迎えるのを記念して、名古屋大学宇宙地球環境研究所(以下、名大ISEE)、国立環境研究所(以下、NIES)、陸別町の共催で、11月8日〜11月9日に、陸別町タウンホールにおいて、「陸別観測施設設立20周年記念シンポジウム—宇宙から地球まで—」が開催された。陸別総合観測室は、1998年にオープンした、りくべつ宇宙地球科学館(通称:銀河の森天文台)の2階にあり、陸別総合観測室発足以前から、陸別町にオーロラ観測用分光計や可視分光計等を設置し観測を行っていた名大ISEEの陸別観測所と1997年に名古屋大学と北域成層圏研究に関する合意書に調印したNIESの陸別成層圏総合観測室の共同観測施設である。大別すると、名大ISEEはオーロラ・磁気嵐総合観測、NIESは過去にはオゾン総合観測、現在は温室効果ガス観測を行っているが、りくべつ宇宙地球科学館の建設、陸別観測所用スペースの提供を始め、名大ISEE、NIESの観測、研究は陸別町の支援、協力の下に行われている。
2. シンポジウムのプログラム及び概要
シンポジウムのプログラムと概要を以下のとおり報告する。
11月8日(水)
挨拶
- 野尻秀隆 陸別町長
- 松下裕秀 名古屋大学理事
- 上出洋介 りくべつ宇宙地球科学館長
- 草野完也 名古屋大学宇宙地球環境研究所長
雪氷・気象
座長:長濱智生(名大ISEE)
- 招待講演 亀田貴雄(北見工大)「陸別町での雪氷分野の実験および最近の研究成果の紹介—深層掘削機開発実験,南極雪上滑走路造成実験,日本一寒い町,陸別の実証—」
- 招待講演 小西啓之(大阪教育大)「南極の降雪量を測る—陸別での降雪観測を利用して—」
レーダーI
座長:寺本万里子(名大ISEE)
- 招待講演 長妻努(NICT)「SuperDARN観測と宇宙天気」
- 講演 寺本万里子(名大ISEE)「北海道-陸別短波レーダーを用いたPi2地磁気脈動の研究〜あらせ衛星との共同観測にむけて〜」
大気I(温暖化関係)
座長:水野亮(名大ISEE)
- 招待講演 青木周司(東北大院理)「地球規模炭素循環に関する最近の研究成果について」
- 講演 森野勇(NIES)「衛星及び地上FTIRによる温室効果ガスの観測と陸別における成果」
- 講演 中根英昭(高知工科大)「環境データの新しい解析手法—深層学習」
- 講演 広兼克憲(NIES)「国立環境研究所の研究成果の発信—陸別での観測結果を中心として—」
- 講演 長濱智生(名大ISEE)「陸別観測所FTIRによる成層圏・対流圏微量分子の長期変動研究」
電磁気圏
座長:塩川和夫(名大ISEE)
- 招待講演 Ioannis Daglis(U. Athens & 名大ISEE)「Storm-substorm relation and its connection to geospace energetic particles」
- 講演 塩川和夫(名大ISEE)「陸別観測所におけるオーロラ・大気光と磁場観測」
- 講演 土屋智(名大ISEE)「陸別・信楽の大気光画像を用いた中間圏・熱圏波動の水平位相速度分布の長期統計解析」
- 講演 大矢浩代(千葉大)「陸別観測所で観測された下部電離圏変動現象」
- 講演 村井崚(電通大)「陸別観測所におけるELF帯磁場観測」
11月9日(木)
レーダーII
座長:西谷望(名大ISEE)
- 講演 西谷望(名大ISEE)「SuperDARN北海道-陸別第一・第二HFレーダーによる電離圏プラズマ・超高層大気変動の研究」
- 講演 飯田剛平(名大ISEE)「陸別を含む大型短波レーダー網で観測される磁気圏急圧縮に伴う電離圏対流変動」
- 講演 張玉テイ(名大ISEE)「SuperDARN北海道-陸別短波レーダーによるサブオーロラ帯高速流の電気伝導度依存性(太陽天頂角)の研究」
大気II(成層圏関係)
座長:町田敏暢(NIES)
- 招待講演 塩谷雅人(京大RISH)「地球大気科学における地上観測と衛星観測」
- 講演 中島英彰(NIES)「陸別町でのFTIR観測の立ち上げとその後の歩み」
- 講演 水野亮(名大ISEE)「陸別におけるミリ波オゾン観測 20年間の紆余曲折」
- 講演 大山博史(NIES)「陸別観測所ミリ波分光放射計による成層圏・下部中間圏オゾンの観測」
まとめと将来展望
座長:水野亮、長濱智生(名大ISEE)
開催にあたり、4名の方から挨拶があった。野尻陸別町長からは、「陸別出身の科学者が生まれること、陸別の観測施設から素晴らしい研究者が輩出されることを望んでいる」「科学の町とすべく陸別町のまちづくりを進めていく」等が述べられた。松下名古屋大学理事からは、「陸別観測所と陸別町の関係は、研究成果の発信、人材育成、社会貢献の3つの点で他に類を見ないコラボレーションだと思っている」「この陸別町という恵まれた環境で将来の研究者の芽を育てることは重要だと思っている」等が述べられた。上出りくべつ宇宙地球科学館長からは、りくべつ宇宙地球科学館の設立までの思い出等が語られた。草野名大ISEE所長からは、陸別町の研究協力への感謝、イベントを開催した際の経験から感じられた人を育てる場としての陸別町の素晴らしさ等が述べられた。
講演では、講演者から熱のこもった研究内容、成果の説明があり、予定時間を超過する方もいた程であった。また、講演後は、参加者との間に活発な質疑応答が交わされた。筆者にとっては、セッション(大気I(温暖化関係))以外のセッションは、馴染みのない研究分野であり、また、理解の前提となる知識が不足していることから、研究内容、成果の概要を掴むに留まったが、ほとんどの研究において、陸別町が観測や実験に適した地であり、観測、実験場所の提供といった協力支援が研究成果につながっていることを認識した。
プログラムの終わりに、「まとめと将来展望」として、「次の30周年に向けて陸別町での観測関係者は何をしていけばよいか」という観点で参加者間の意見交換があり、「名大ISEE、NIESは観測を大事にし、データを愛情を持って見ていくという文化を継続し、協力していくことがこれからの10年も大切である」「現在、NIESはフーリエ変換分光計(FTS)による観測が主なミッションとなっているが、今後は総合的な大気の観測をテーマとすることも考えていく必要がある」「陸別での観測だけに留まらず、衛星観測分野など他の研究分野との連携も大切である」「長期間取ったデータをわかりやすく整備し、他の研究機関に活用してもらうことも考える必要がある」といった意見が出された。
3. おわりに
NIESの行政職である筆者は、陸別町で行われてきた観測、研究の理解を目的として本シンポジウムに参加させていただいた。既に述べたとおり、研究内容、成果は概要を掴むに留まったが、陸別町の支援、協力により、多くの研究成果が得られていることを認識した。これからの10年間も、名大ISEE、NIESと陸別町の他に類を見ないコラボレーションが継続され、さらに多くの研究成果が出され、将来、「陸別観測施設設立30周年記念シンポジウム」が盛大に開催されることを期待して、本稿を締め括りたいと思う。