2015年11月号 [Vol.26 No.8] 通巻第300号 201511_300004

40周年を迎えた温室効果ガス観測国際会議

  • 地球環境研究センター 観測第一係 高度技能専門員 勝又啓一

9月14日から17日に開催された第18回二酸化炭素・温室効果ガス等の計測技術に関する国際会議(18th WMO/IAEA Meeting on Carbon Dioxide, Other Greenhouse Gases, and Related Measurement Techniques、GGMT-2015)に参加しました。この会議は世界気象機関(World Meteorological Organization: WMO)と国際原子力機関(International Atomic Energy Agency: IAEA)の主催により2年に一度開催されるもので、今回はアメリカ・サンディエゴの海岸沿いにあるカリフォルニア大学サンディエゴ校スクリプス海洋研究所の眺めのよい会議場において開催されました。この会議では、温室効果ガス等の観測に必要な技術について議論が行われるほか、温室効果ガス観測指針の作成も行われます。この指針は会議後に出版され、温室効果ガス観測を行う機関はこの指針に従って観測を実施します。

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写真1天気のよい会場前の庭での昼食は大変気持ちよいものですが、同時に午前中に行われた報告に関する議論も続いています。後ろに見える桟橋はスクリプス海洋研究所の観測施設です (写真提供:寺尾有希夫)

この会議の歴史を繙くと、第1回の会議は今から40年前の1975年に今回と同じ場所で、Charles David Keeling教授によって開催されました。Keeling教授は1957年に世界で初めてハワイ島のマウナロア山で二酸化炭素(CO2)の観測を始めた研究者として有名です。会議では10名程度の専門家が集まり、温室効果ガス等の観測に関する技術的な内容について細部に至るまで議論したとのことです。現在では100名以上の研究者・技術者が参加する会議となりました。18回目の今回は40周年の記念として、第1回と同じ場所で、第1回主催者のご子息であるスクリプス海洋研究所のRalph Keeling教授により開催されました。世界各国で観測を行っている約140名が参加し、講演42件、ポスター70件の発表がありました。内容は、温室効果ガス等の計測技術、観測体制の紹介、データの取扱に関するポリシーなど多岐にわたりました。

今回新しく加わったテーマである都市域での観測セッションでは、フランス・パリやアメリカ・インディアナポリスなどで都市から排出されるCO2量推定のための観測例が紹介されました。いずれの都市でも数カ所の観測点を設け(パリではエッフェル塔でも!)、研究を進めているとのことです。近いうちに、東京タワーやスカイツリーでの観測が始まる日が来るかもしれません。この会議では、これまで大気中の温室効果ガス観測に関する話題が主に取り上げられてきており、海洋での観測も今回から新たに加わったテーマです。海水中の溶存CO2の観測などについて、標準物質の調製と配布から船舶を利用した観測紹介など、海洋観測を網羅する報告が行われました。また、A地点でのデータとB地点でのデータは本当に比較してよいのか、高精度な計測が必要な温室効果ガス観測ではこのような当たり前のことを実現するために多くの労力が割かれています。新しい都市域での観測も、従来から行われているバックグラウンド大気の観測でも、近年では大きなプロジェクトの下で10地点以上の多地点での観測が増えてきました。これらのデータの同一性を確保するために、計測装置の特性の調査、日常の測器の較正、異常データの排除、得られたデータの配布方法などについての詳細な報告がなされました。中でも測器較正に欠かせない標準ガスに関するセッションはほぼ1日を費やすほど重要視されています。これは温室効果ガスの非常に精密な計測には測器の較正が重要で、それに必要な標準ガスが避けては通れない話題であるうえ、標準ガスの調製方法やその保存性に多くの問題を抱えていることによります。WMOと協力関係にある国際度量衡局や各国の計量研究所からの参加者から、CO2をはじめとする温室効果ガスの標準ガスの調製方法その精度、国際度量衡局や計量研究所とWMOとの標準ガス比較実験予定について報告されました。また、WMOの標準ガスを管理している機関からも、標準ガスの保存性の問題について報告され、決定的な解決策はないことが実感されました。データの配布についても、様々な議論がなされています。観測する研究者とそのデータを利用する研究者の橋渡しをするデータベースはいくつかありますが、使い勝手や橋渡しの機能についての改良が報告されました。そのデータベースの作成やデータ配布に尽力されてきたアメリカ海洋大気庁のKenneth Masarie氏が自身が作成したデータセットであるObsPackの報告を行うと共に、今年末で引退することを表明すると、会場は総立ちとなり拍手がおくられました。学術会議の場でこのような出来事は筆者にとって初めての経験でした。

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写真2アメリカ大気海洋庁のKennith Masarie氏による発表。この後引退が表明され参加者総立ちで拍手がおくられました (写真提供:寺尾有希夫)

今回の会議には地球環境研究センターから6名の研究者と技術者が参加し、アジア地域や波照間ステーションでの観測紹介や、O2/N2比分析の機関間相互比較、同位体分析技術等について発表し、意見交換を行いました。次回の会議はスイス・チューリッヒ近郊で2017年8月に開催されます。

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