2015年5月号 [Vol.26 No.2] 通巻第294号 201505_294002

ミル・シル・ヘラス:インドネシアでのエネルギー消費量モニタリングプロジェクト

  • 社会環境システム研究センター 持続可能社会システム研究室 主任研究員 芦名秀一

1. はじめに

自分の家の中のことは誰よりも知っていると思っていても、「引っ越しのために部屋を片付けていたら、押し入れの奥から新品の衣類の詰まった段ボールが発見された」「部屋の掃除をしていたら、タンスの下から無くしたと思っていたピアスが見つかった」という、これまで見ていなかったところを見てみたら意外なものが、という経験は誰しもあるのではないでしょうか。衣類や宝飾品、隠していた0点の答案用紙のように形のあるものは見つかりやすいのですが、見えないものを発見することは困難を極めます。「本当に大切なものは目に見えない」とは、かの『星の王子さま』に出てくる言葉ですが、目に見えないからといっていつまでも大切に取っておく必要があるかといえば、そうではないものもあるでしょう。たとえば、エネルギー消費量のように、不要な部分は減らしていったほうがお財布にも、地球環境のためにも望ましいものがあるのではないでしょうか。

見えないものの無駄を省くためには、まず見えるようにする(ミル)ことが必要です。その次に、何が起こっているかを理解し(シル)、無駄を減らす(ヘラス)とつながっていくことになります。私たち国立環境研究所を中心とした研究チームでは、昨年度環境省より「二国間クレジット(JCM)促進のためのMRV[1]等関連するインドネシアにおける技術高度化事業委託業務」を受託し、インドネシア・ボゴール市を対象に住宅及び業務施設のエネルギー消費量をミル・シルための活動(= モニタリング)を進めてきました。本稿では、その成果とともに、今後の展開についても紹介したいと思います。

2. プロジェクト及びシステムの概要

インドネシアでは、経済成長に合わせてエネルギー消費量も着実に伸びており、2012年の一次エネルギー消費量[2]は215百万石油換算トン(Million tons of oil equivalent: Mtoe)となっています。日本の一次エネルギー消費量は横ばいですが、インドネシアでは着実に伸びており、人口が日本の2倍近くあることを考え合わせると、将来は逆転される勢いとなっています(図1)。これからも経済成長が引き続く見込みのなかでは、省エネルギー等のエネルギー消費効率化が重要となりますが、省エネルギー対策を検討、実施するための基礎となるエネルギー消費量に関わるデータが十分整備されていないのが現状です。そこで、本プロジェクトでは、インドネシア・ボゴール市を対象に、住宅や業務施設、産業部門等のエネルギー消費量を実際にモニタリングして省エネルギー対策検討の基礎となる情報を収集するとともに、低炭素化も視野に入れた有効策を検討、実施していくことを目的としています。

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図1日本とインドネシアの一次エネルギー消費量の比較(出典:EDMCエネルギー・経済統計要覧2015年度版) [クリックで拡大]

2014年度は、ボゴール市を対象に、ボゴール農科大学(Institut Pertanian Bogor: IPB)の中央管理棟(Central Administration Office)及び研究室(Centre for Climate Risk and Opportunity Management in Southeast Asia Pasific: CCROM=SEAP)、カフェ(Café Taman Koleski)、ホテル(IPB Convention Hotel)と、住宅の広さに着目して小さめから広い邸宅までのタイプの異なる住宅(4軒)に合計113点のモニタリングポイントを設置しました(図2)。

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図2ボゴール市内のモニタリングポイント一覧 [クリックで拡大]

本プロジェクトで設置したモニタリングシステムの全体像は図3のようになっています。システムでは、電流量と電圧量をそれぞれ計測することで、1分ごとの電力消費量をモニタリングしています。電圧はブレーカーにつながる回路の電圧を直接計測していますが、電流は回路をくるむように変流器を取り付けて計測します。測定したデータは、日本にあるクラウドサーバに送られます。測定箇所の関係者はタブレットを用いてデータを呼び出して、現在どれくらいの電力消費量なのかや、過去はどうだったのかを確認することができるようになっています。なお、関係者はそれぞれ自分のところの電力消費量データしか参照することはできないようになっています。これは、電力消費は生活や業務の状況に密接に関係していて、たとえばある住宅の電力消費がゼロや低い水準で一定しているということが第三者に見えてしまうと、家族が不在であるとか寝静まっているということがわかり、不要なトラブルを引き起こしかねないためです。

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図3モニタリングシステムの全体像 [クリックで拡大]

3. システムで何をミル・シルことができたのか:プロジェクトのこれまでの成果

図4に、3月1日(日)から7日(土)までの一週間の施設ごとの電力消費の特性をまとめました。ボゴール農科大学の中央管理棟(Central Administration Office)と研究室(CCROM=SEAP)の電力消費量は日中が高く、夜間はほぼ一定の傾向を示すことがわかりますし、Caféも日中が高いのは同様ですが来店者の多い時間帯(昼食・夕食時)の少し前の時間帯にピークが出ることがわかります。また、ホテルは宿泊者の居る夜間が高い傾向が見られることがわかりました。住宅は、他の施設に比べれば少ないですが、終日電力を使用している傾向が見られることがわかりました。

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図4施設別の電力消費量の傾向の比較 [クリックで拡大]

設置したモニタリングシステムは、建物全体の電力消費量だけではなく、いくつかの施設については機器別に見ることもできるようになっています。一例として、図5に、研究室(CCROM=SEAP)でのエアコン及びコンセント・照明の電力消費量を示します。図中では、各データは異なるエアコン(エアコン1〜エアコン6)、あるいはコンセント・照明のデータを示しています。

研究室は2階と3階にまたがって立地していますが、3階にはサーバ室が設置されているためにエアコン5とエアコン6はほぼ24時間稼働しています。いっぽう、2階は研究室・オフィス機能のみのため、エアコン(エアコン1〜エアコン4)は研究室メンバーの滞在する日中のみ運用されていることがわかります。また、2階のエアコンの間でも使い方は異なっていて、あるエアコン(エアコン3)はメンバー滞在中は常時稼働させていますが、エアコン1やエアコン4は頻繁にON/OFFがされていることがわかります。エアコン4は、朝方と昼にとても頻繁なON/OFFとなっていて、もしかすると寒がりの人と暑がりの人がエアコン争いをしているのかもしれませんね。

コンセント・照明については、エアコンの使用状況から推測されるメンバー滞在時間中に電力消費が計測されていることがわかります。また、照明とコンセント(PCなど)では、電力消費の動きが異なることがわかります。たとえば、「コンセント5 + 照明3」は、夕方頃に0.4kWとほぼ一定の電力消費がはじまり、19時頃に終わります。これは、研究室のメンバーがその時間帯に照明を点灯していたことを示唆しています。この「コンセント5 + 照明3」は、朝から夕方まではとても複雑な動きをしていますが、これは主にPCの利用によるものとなっています。

コンセント4は、一日中0.1kWで一定の電力消費と、時たま0.2kW〜1kW増えるという独特の動きをしています。これは何だろうと調べてみたところ、ウォーターサーバーが接続されていました。ウォーターサーバーが水を冷やし続けるために一定の電力消費をしていたのです。

このように、機器別のデータからいったいどこでどんな電力消費をしているのかをはっきりとミルことができて、その原因をシルことで、よりよい電力の使い方を考え、提案することができるようになるのです。

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(a) エアコンの電力消費量(毎分値)

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(b) コンセントと照明の電力消費量(毎分値)

図5研究室(CCROM=SEAP)の電力消費量(2月6日(金)0:00〜23:59の計測値) [クリックで拡大]

4. ミル・シルそしてヘラスの次は?:地上から宇宙の眼を支援する

今のところ、プロジェクトではインドネシア・ボゴール市を対象にエネルギー消費量を見えるようにして(ミル)、何が起こっているかを理解(シル)してきました。次のステップは、無駄を減らす(ヘラス)ためにどのような対策がよいかを検討、実施することと、より多くの点をミル・シルための観測ポイント増設及び推計手法を開発することです。

プロジェクトでは、ミル・シルためのシステム設置とともに、ヘラスためのシミュレーションモデルも開発してきました。これは、計測されたデータを元に、さまざまな対策を想定して毎時の電力消費をシミュレートし、対策実施前後の電力消費量を比較して対策の効果を定量評価できるものです。特に、前述のようなモニタリングシステムでは、機器ごとにエネルギー消費量と使い方のモニタリングをしていますので、どの機器のエネルギー消費効率が低いのかを特定し、機器更新にあたってどの順番で実施するのが費用対効果の観点で適当かを分析、提案することができる点が特徴となっています。これからは、モニタリングから得られたデータをもとに、それぞれのエネルギー消費の特徴に合わせて、低炭素の視点も加味して省エネルギーのために有効な対策の検討、実施を進めることを予定しています。

今後は、モニタリングポイントを増やすとともに、点のデータを結びつけて都市全体のエネルギー消費量を面的にミル・シルための手法開発も予定しています。国立環境研究所及び環境省、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の運用する温室効果ガス観測衛星「いぶき」(GOSAT)の観測では、大都市等における化石燃料消費による二酸化炭素濃度の上昇を捉えている可能性が高いことが発表されました(詳細:http://www.nies.go.jp/whatsnew/2014/20141205/20141205.html)。都市のエネルギー消費量を面的にミル・シルことができれば、宇宙の眼としてのGOSAT及びその後継機のGOSAT-2の観測データの検証を支援することができるのではないかと考えています。もちろんその実現は容易なものではありませんし、今後数年にわたる研究開発が必要となりますが、ボゴール市周辺では地球環境研究センターによるタワー観測開始も予定されているなど、研究所のさまざまな研究者が同じ場所で研究活動を進めつつありますので、これらの活動を総合して宇宙から地上までをモニタリングで結ぶ夢の実現のために今後も努力して参りたいと思います。

脚注

  1. MRV: Measurable, Reportable, Verifiableの略。測定・報告・検証の意味。
  2. 石炭、石油、天然ガスなど、自然から得られるエネルギー源のこと。電力や水素などは二次エネルギーと呼ばれる。

バティックとクールビズ

社会環境システム研究センター 環境経済・政策研究室 研究員 中村省吾

初めての海外出張ということで若干の緊張含みであったが、インドネシアはどことなく故郷沖縄に似た、懐かしい雰囲気の漂う国だった。特に、バティック(ろうけつ染め布地、2009年にユネスコの無形文化遺産に認定)で作られた衣服は公的な場での着用も認められており、かりゆしウェアに通じるものがあると感じた。2007年にバリ島で開催されたCOP13では、各国の出席者が色とりどりのバティックを着て会議に臨んだとのことである。

今回のフォーラムや会議の現地出席者の多くもカラフルで涼しげなバティックを着用しており、現地でいち早く購入した同行メンバーを羨ましく思いつつ、タイミングを逃した私は最後まで暑苦しいスーツ姿での参加となった。

2012年から環境省が打ちだしているスーパークールビズでは、アロハシャツなどが解禁された。バティックも同様の位置づけと思われるので、今夏はかりゆしウェアのローテーションにバティックを何着か組み込んで乗り切ろうと考えている。

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バティックを着た現地出席者

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