2014年6月号 [Vol.25 No.3] 通巻第283号 201406_283008

【最近の研究成果】 全球平均気温および降雨変化に対する土壌炭素応答のグローバルな不確実性評価

  • 地域環境研究センター 土壌環境研究室 研究員 仁科一哉

土壌有機物炭素は、陸域における最大の炭素プールであり、地球の炭素循環における重要なコンポーネントである。また同時に、植物の生産力や水資源供給など、様々な生態系サービスに深く関わっている。将来の気候変動下において、土壌は正のフィードバック効果をもたらすと考えられており、気候・地球システムモデルによる将来予測の精度を向上させるうえで土壌炭素動態の正確な把握が必要である。しかしながら、土壌炭素が地下部に存在するため、現在の土壌炭素の存在量を正確に把握することは依然として困難であり、分解・蓄積メカニズムの理解とモデル化も不十分である。我々は、気候変動影響に関するモデル相互比較プロジェクトISI-MIP(花崎直太ほか「温暖化影響の全体像に迫る:米国科学アカデミー紀要に特集されたISI-MIPの紹介」地球環境研究センターニュース2014年2月号参照)において、7つの生態系モデルによる結果を比較し、将来予測における土壌炭素動態の不確実性を評価した。

推定された現在の存在量および将来の変化量はモデルごとに大きく異なり、最も温暖化が進行するRCP8.5シナリオ下では、2099年時点の全球合計値で、122Pg-Cの正味放出から347Pg-Cの正味吸収まで差が見られた。本研究では、土壌炭素と植生バイオマス炭素を全球でまとめて一つのコンパートメントとみなし、それらの全球土壌炭素動態を簡易モデルで表現した。各生態系モデルの全球計算結果を用いて、ベイズ推定により簡易モデルの全球土壌炭素のグローバルな分解速度定数、温度応答特性などのパラメーターを求めた。全球平均温度に対する土壌分解特性はモデルによって大きく異なり、そのために全球平均温度上昇に伴う土壌炭素分解の変化もモデル間で大きく異なることがわかった(図参照)。また、推定された2000年時点の全球土壌炭素存在量は大きく異なっていたが、現在の推定値を用いて補正することで、将来予測の不確実性を30%程低減することができた。これらのことから、土壌炭素動態について、現在の存在量を高精度で把握し、温度依存性に関連する土壌モデル改良を進めることが、気候変動の予測影響評価に有意義であることが示された。

figure

簡易モデルによって推定された7つの生態系モデルの全球平均気温上昇によって加速する1年間の全球土壌炭素分解量の差。青色の四角は各モデルによって推定された2000年時の全球土壌炭素量を用いて推定した値、オレンジ色の円は全球土壌炭素量をTodd-Brownら(2014)によって推定された2000年時の賦存量(1225Pg-C[891–1667Pg-C])によって規格化して推定した値を示している

本研究の論文情報

Quantifying uncertainties in soil carbon responses to changes in global mean temperature and precipitation
著者: Nishina K., Ito A., Beerling D. J., Cadule P., Ciais P., Clark D. B., Falloon P., Friend A. D., Kahana R., Kato E., Keribin R., Lucht W., Lomas M., Rademacher T. T., Pavlick R., Schaphoff S., Vuichard N., Warszawaski L., Yokohata T.
掲載誌: Earth System Dynamics (2014) 5, 197–209, DOI:10.5194/esd-5-197-2014.

ご意見、ご感想をお待ちしています。メール、またはFAXでお送りください。

地球環境研究センター ニュース編集局
www-cger(at)nies(dot)go(dot)jp
FAX: 029-858-2645

個人情報の取り扱いについては 国立環境研究所のプライバシーポリシー に従います。

TOP