2014年6月号 [Vol.25 No.3] 通巻第283号 201406_283004

わが国の2012年度(平成24年度)の温室効果ガス排出量について 〜第一約束期間の排出吸収量出揃う。マイナス6%の目標を達成〜

  • 地球環境研究センター 温室効果ガスインベントリオフィス 高度技能専門員 小坂尚史
  • 地球環境研究センター 温室効果ガスインベントリオフィス マネージャー 野尻幸宏

1. はじめに

わが国は、京都議定書の第一約束期間(2008〜2012年)の5カ年で温室効果ガス排出量を基準年と比べて6%削減することが求められています。また、その目標を達成するためには森林等吸収源と京都メカニズムのクレジットを加味することができます。

国立環境研究所地球環境研究センター温室効果ガスインベントリオフィス(Greenhouse Gas Inventory Office of Japan 以下、GIO)は、環境省の委託を受け、わが国の温室効果ガス排出吸収量を算定し、それをとりまとめた目録(インベントリ)を作成しています。2014年4月15日に、GIOと環境省は「2012年度(平成24年度)わが国の温室効果ガス排出量」を公表しました。その概要を簡単に紹介します。今般公表した排出量は第一約束期間最終年に当たる数値であり、本稿では削減目標の達成状況についても説明します。

2. 温室効果ガスの総排出量

1990年度から2012年度までのわが国の温室効果ガスの排出量の推移を表に示しました。2012年度の温室効果ガス総排出量(各温室効果ガスの排出量に地球温暖化係数[1]を乗じ、CO2換算したものを合算した量)は13億4,300万トン(CO2換算、以下省略)となりました。京都議定書の規定による基準年排出量[2]を6.5%上回り、2年連続で基準年排出量を上回りました。前年度比2.8%(3,660万トン)の増加で、3年連続の増加となりました。前年度からの排出量増加の要因としては、欧州債務危機の影響等により製造業の生産量が減少し、家庭部門での節電が更に進んだものの、東日本大震災以降の火力発電の増加によって化石燃料消費量が増加したことなどが挙げられます。

各温室効果ガス排出量の推移(1990〜2012年度、単位:百万トン)[クリックで拡大]

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*土地利用、土地利用変化及び林業(Land Use, Land-Use Change and Forestry: LULUCF)分野の排出・吸収量は除く。

3. 2012年度の各温室効果ガスの排出量

(1) 二酸化炭素(CO2

2012年度のCO2排出量は12億7,600万トンであり、基準年比で11.5%の増加、前年度比で2.8%の増加となりました。

部門別(電気・熱配分後)[3]では、産業部門からの排出量[4]が基準年比で13.4%の減少、前年度比で0.1%の増加となりました(図1)。前年度からの増加は、欧州債務危機の影響などによる製造業の生産量の減少等に伴い製造業からの排出量が減少した一方で、非製造業(農林水産業、鉱業、建設業)からの排出量が増加したことによります。

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図1二酸化炭素の部門別排出量(電気・熱配分後)の推移[クリックで拡大]

運輸部門からの排出量は基準年比で4.1%増加、前年度比で1.4%の減少となりました。基準年からの増加は、貨物からの排出量減少の一方で、旅客(主に自家用乗用車)からの排出量増加によります。なお、運輸部門からの排出量は1990年度から2001年度までは増加傾向にありましたが、その後は減少傾向が続いています。主な原因としては、自動車の燃費の改善、自動車の小型化(軽・小型自動車の比率増加)、輸送量の頭打ちが挙げられます。

家庭部門、業務その他部門[5]からの排出量は、それぞれ基準年比で59.7%、65.8%の増加、前年度比で7.8%、8.9%の増加となりました。前年度からの増加は、火力発電の増加により一般電気事業者の電力排出原単位が悪化し、その影響を受けて電力消費に伴う排出量が増大したためです。また、家庭部門の基準年比排出量の大幅な増加は、家庭用機器の大型化・多様化、世帯数増加などによる電力等のエネルギー消費の急激な伸びが原因です。同様に、業務その他部門の基準年比排出量増加は、事務所や小売等の延床面積の拡大、それに伴う空調・照明設備の増加、オフィスのOA化の進展等による電力等のエネルギー消費の急増によるものです。

非エネルギー起源CO2排出量(ここでは、工業プロセス分野と廃棄物分野からの排出量を合わせた値)は、基準年比で20.0%の減少、前年度比で0.8%の増加となりました。基準年からの減少は、工業プロセス分野(セメント製造等)からの排出量の減少等によります。

(2) メタン(CH4)、一酸化二窒素(N2O)、ハイドロフルオロカーボン類(HFCs)、パーフルオロカーボン類(PFCs)、六ふっ化硫黄(SF6

2012年度のCH4排出量は2,000万トンであり、基準年比で40.1%、前年度比で1.4%の減少となりました。基準年からの減少は、廃棄物埋立量の減少により廃棄物分野からの排出量が減少したこと等によるものです。

2012年度のN2O排出量は2,020万トンであり、基準年比で38.0%、前年度比で1.3%の減少となりました。基準年からの減少は、6,6-ナイロンの原料となるアジピン酸の生産に伴うN2O排出量が分解装置の導入で削減され、家畜排せつ物、農用地の土壌などからの排出量が減少したことによります。

2012年のHFCs、PFCs、SF6のそれぞれの排出量は2,290万トン、280万トン、160万トンであり、基準年(1995年)比でそれぞれ13.4%の増加、80.4%の減少、90.6%の減少、前年比でそれぞれ12.1%の増加、8.6%の減少、3.2%の減少となりました。基準年からのHFCsの増加は、HCFC-22製造時におけるHFC-23排出量の減少等の一方で、オゾン層破壊物質であるHCFCからHFCへの代替に伴い冷媒からの排出量が増加したことによるものです。また、基準年からのPFCs、SF6の減少は、それぞれ洗浄剤・溶剤等からのPFCs排出量の減少等、変圧器等電気絶縁ガス使用機器からのガス回収といった管理強化等によります。

4. 第一約束期間の温室効果ガスの排出量

冒頭で述べたとおり、わが国は第一約束期間において温室効果ガス排出量を削減する義務を負っています。わが国の温室効果ガス排出量はこの5カ年の平均で12億7,800万トンであり(表、図2)、基準年排出量を1.4%上回りました。これは、サブプライムローン問題に端を発する2008年後半の金融危機の影響により2009年度にかけて総排出量が減少したものの、2010年度以降、景気回復及び東日本大震災を契機とした火力発電の増加により3年連続で総排出量が増加したことによります。

以下、ガス別部門別にこの5カ年の排出量を見ていきます。

(1) CO2

CO2排出量は5カ年平均で12億1,300万トンであり、基準年比で6.0%の増加となりました。

部門別では、産業部門からの排出量が5カ年平均で4億1,300万トンとなりました。基準年からの減少は、2008年後半の金融危機の影響による製造業の生産量の減少等によります。

運輸部門からの排出量は5カ年平均で2億3,100万トンとなりました。基準年からの増加は、交通需要の増大等によります。5カ年の推移をみると、交通需要の減少や輸送効率の改善等により排出量が減少傾向にあります。

家庭部門、業務その他部門における5カ年平均排出量はそれぞれ1億7,900万トン、2億3,800万トンとなりました。基準年からの増加は、いずれの部門も1990年度に比べエネルギー消費が大きく増加したことに加え、震災を契機とした火力発電の増加による電力排出原単位の悪化等によります。家庭部門の電力消費量は2011年度、2012年度と2年連続で減少しています。

非エネルギー起源CO2排出量は5カ年平均で6,890万トンとなりました。基準年からの減少は、工業プロセス分野のセメント製造からの排出量等の減少によります。

(2) CH4、N2O、HFCs、PFCs、SF6

CH4の排出量は5カ年平均で2,080万トンとなりました。基準年からの排出量の減少は、廃棄物分野の埋立からの排出量等の減少によります。

N2Oの排出量は5カ年平均で2,090万トンとなりました。基準年からの排出量の減少は、工業プロセス分野のアジピン酸製造からの排出量等の減少によります。5カ年の推移をみると、アジピン酸製造や自動車からの排出量が減少傾向にあります。

HFCsの排出量は5カ年平均で1,870万トンとなりました。基準年からの排出量の減少は、HCFC-22の製造時の副生HFC-23等の減少によります。5カ年の推移をみると、HCFCからHFCへの代替に伴い冷媒からの排出量が増加傾向にあります。

PFCsの排出量は5カ年平均で340万トンとなりました。基準年からの排出量の減少は、洗浄剤・溶剤等からの排出量等の減少によります。5カ年の推移をみると、半導体製造等からの排出量が減少傾向にあります。

SF6の排出量は5カ年平均で210万トンとなりました。基準年からの排出量の減少は、電気絶縁ガス使用機器からの排出量等の減少によります。5カ年の推移をみると、SF6製造時の漏出による排出量が減少傾向にあります。

5. 吸収源活動の排出・吸収量

わが国は京都議定書に基づく吸収源活動の排出・吸収量についても算定を行い、インベントリの補足情報として国連気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局に提出しています。わが国が報告している吸収源活動は、「新規植林」、「再植林」、「森林減少」、「森林経営」及び「植生回復」の五種類です。わが国では植生回復を除く四種類の吸収源活動を「森林吸収源対策」、植生回復を「都市緑化等」と呼称しています。

2012年度の吸収源活動の排出・吸収量は5,280万トンの吸収(森林吸収源対策5,170万トン、都市緑化等110万トン)となっており、基準年排出量の4.2%に相当します(うち森林吸収源対策による吸収量は4.1%に相当)。

6. 第一約束期間の目標達成状況

わが国の5カ年平均の温室効果ガス排出量は、4.で述べた通り基準年排出量を1.4%上回りました(図2)。第一約束期間の目標達成に向けて算入可能な森林等吸収源による吸収量は5カ年平均で4,870万トン(うち森林吸収源対策による吸収量は4,770万トン[6]、都市緑化等による吸収量は100万トン)となり、基準年排出量の3.9%に相当します。この結果、総排出量に森林等吸収源及び京都メカニズムクレジット[7]を加味すると、5カ年平均の排出量は基準年比−8.4%[8]となり、6%削減目標は達成となります(図2)。

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図2第一約束期間の排出量と目標達成状況[クリックで拡大]

7. おわりに

GIOでは、今後もウェブサイトや報告書の改善を図っていく予定です。なお、本稿に使用した2012年度の温室効果ガス排出吸収量に関する情報はGIOのウェブサイト(http://www-gio.nies.go.jp/index-j.html)にて公表しておりますので、ご利用ください。

参考文献

脚注

  1. 地球温暖化係数(Global Warming Potentials: GWP):温室効果ガスが一定時間内に地球の温暖化をもたらす程度を、二酸化炭素の当該程度に対する比で示した係数。IPCC第二次評価報告書(1995年)に示された値を用いる。CO2 = 1、CH4 = 21、N2O = 310、HFCs = 1,300など、PFCs = 6,500など、SF6 = 23,900である。
  2. 京都議定書の基準年の値(12億6,100万トン)は、「割当量報告書」(2006年8月提出、2007年3月改訂)で報告された1990年のCO2、CH4、N2Oの排出量および1995年のHFCs、PFCs、SF6 の排出量であり、変更されることはない。一方、毎年報告される1990年値、1995年値は算定方法の変更等により変更されうる。
  3. 発電および熱発生に伴うエネルギー起源のCO2排出量は、電力・熱消費量に応じて各最終消費部門に配分されている。また、廃棄物のうち、エネルギー利用分の排出量については廃棄物分野で計上している。わが国がUNFCCC事務局に提出している「日本国温室効果ガスインベントリ報告書」では、1996年改訂IPCCガイドラインに従い、これらの排出量が異なる分野・部門に計上されている。
  4. 産業部門(工場等。工業プロセス[セメント製造等]を除く)からの排出量は、製造業(工場)、農林水産業、鉱業および建設業におけるエネルギー消費に伴う排出量を表し、第三次産業における排出量は含んでいない。また、製造業の企業であっても、本社ビル等の部分は業務その他部門(オフィスビル等)に計上されている。
  5. 業務その他部門(オフィスビル等)には、事務所、商業施設等、通常の概念でいう業務に加え、一部の移動発生源(ブルドーザー、トラクターなど)が含まれる。
  6. 森林吸収源対策による吸収量は、5カ年の森林吸収量がわが国に設定されている算入上限値(5カ年で2億3,830万トン)を上回ったため、算入上限値の年平均値。
  7. 京都メカニズムクレジットには、わが国の政府が2013年度末時点でクレジット取得事業により取得したクレジット(約9,750万トン。基準年排出量の1.5%/年に相当)と民間事業者が取得した京都メカニズムクレジット量(ここでは電気事業連合会が取得したクレジット量。基準年排出量の4.3%/年に相当)が含まれている。
  8. 最終的な排出量・吸収量は、2014年度に実施される国連気候変動枠組条約及び京都議定書下での審査の結果を踏まえ確定される。また、京都メカニズムクレジットも、第一約束期間の調整期間終了後に確定する(2015年後半以降の見通し)。

2008年度以降の温室効果ガス排出量に関する記事は以下からご覧いただけます。

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