2011年9月号 [Vol.22 No.6] 通巻第250号 201109_250009
「ココが知りたい温暖化」講演会概要 車のかしこい使い方〜ガソリン節約術〜
松橋啓介 (社会環境システム研究センター 環境都市システム研究室 主任研究員)
「かしこい」を英語で言うと、smart(スマート)です。情報技術で「見える化」をすることで、無駄遣い・浪費をしないエコロジーやエコノミーを我慢もしないでうまく進めていこうという考え方です。
どうしてガソリンを節約するのでしょうか。金森さんの講演で、家庭からの二酸化炭素(CO2)排出量で電気とガソリンが大きな割合を占めているという話がありました。家庭からの排出の約3割が自家用乗用車からの排出です。身近な温暖化対策としてガソリンの節約をしていただきたいと思います。ガソリン価格が10年前より高くなっているので、お金を節約する効果も大きくなっています。
1. 効果的なガソリン節約術(短期):エコドライブ
効果的なガソリン節約術として、短期・中期・長期の取り組みをお話したいと思います。
短期的にはエコドライブが効果的です。エコドライブ10のすすめ(http://www.cger.nies.go.jp/ja/library/qa/15/15-2/qa_15-2-j.htmlまたはhttp://www.cger.nies.go.jp/publications/qa/q030.pdf)にもありますが、今日は、私たちの研究に基づいて、(1) アクセルを踏まない、(2) ブレーキを踏まない?、(3) エコドライブを宣言する、の3点についてご説明します。
一つ目は「アクセルを踏まない」。でも、アクセルを踏まないと車は進みませんので、踏んでください。ただし、最高速度を控えめにしてください。エネルギーは速度の二乗で増えるので、エネルギーを節約することができます。また、最高速度を控えめにすると、加速する分と空気抵抗で失われる分のエネルギーが節約できるので、ガソリンの節約になります。さらに目標の速度に近くなったら、アクセルを緩めて、できるだけ一定の速度でその後走行することが重要です。車を走らせるために必要なエネルギーをそこまで持ち上げる高さで表してみると、時速40kmまで加速するには車を建物の3階まで上げるエネルギーが必要という計算になります。60kmであれば6階くらいまで、80kmであれば9〜10階まで上げるエネルギーが必要となります。
二つ目は「ブレーキを踏まない?」です。もちろん、ブレーキは踏まないと危険ですから踏んでください。しかし、車の流れや信号を予測して、できるだけブレーキを踏まない運転をすることがガソリンの節約になります。加速に使ったエネルギーを有効に使用することになります。フットブレーキはできるだけ使わないで、アクセルを早めに緩めるエンジンブレーキを使う方がいいです。実際に私が行った路上での走行例をご紹介します。こまめに車間距離を調整し、車線があいていれば車線変更して前の車を抜いていく運転をした場合は、加速していくときにCO2をたくさん排出します。制限速度以上に加速し、信号で止まるときにはエンジンブレーキだけでは足りずにフットブレーキを踏みます。そうすると停止するまでの排出量はかなり多くなります。一方、エコドライブではスムースに加速してそのまま一定の速度で走行し、アクセルを早めに離して信号で止まることができました。全体でみると20%くらいガソリンの節約ができることになります。
エコドライブをすると迷惑がかかるからできないと言い訳をする人がいます。速度が遅いと燃費が悪くなると言う人もいますが、そうではありません。たとえば40%の車がエコドライブをすると、エコドライブをしていない残りの60%の車もガソリンが節約できるという効果があることがわかりました。この研究成果は2010年11月に記者発表し(http://www.nies.go.jp/whatsnew/2010/20101101/20101101.html)、新聞に掲載されました。さらに安心してエコドライブしていただくために、エコドライブのマグネットステッカーを作りました。これを貼ると、実行していますと宣言することになりますので、自制になります。また、周辺の車にエコドライブをしていることがわかってもらえるので安心です。エコドライブを呼びかけることで宣伝にもなりますし、お手本を示してエコドライブをまねてもらうという普及効果もあります。
2. 効果的なガソリン節約術(中期):エコ替え
次にエコ替えについてお話しします。家電製品と同じように車も (1) 低燃費車に替える、(2) 小型車にする、(3) 車を共有する、ということが考えられます。
低燃費車は自然にエコドライブになる技術をたくさんもっています。アイドリングストップを支援する装置や自動で行う装置があります。またCVTというエンジンの回転数を抑える技術があり、アクセルを踏んでいても効率よく走ります。ハイブリッド車はエンジンを停止できますし、ブレーキ時に回生する(熱でエネルギーを捨てるのではなく発電して電池にためて、加速するときにモーターを回すために使う)技術もあります。電気自動車はそもそもガソリン不要なので一番いいという考えもありますが、電池の価格が高いのと発電のときにCO2を出しますので、エコ替えの主役にはまだならないようです。いずれにしても、エコドライブをすることが重要です。
小さい車は燃費がよいので小型車に替えるのも効果的です。自動車1台(約1,200kg)は人間一人(約60kg)の約20倍の重さになります。車両の重さが倍になると燃料も2倍消費する傾向がありますから、小型車はガソリン節約になります。
車を共有する(Share:シェア)カーシェアリングは、使った分だけ払う(ガソリン代+車両+保険など)ので、長距離を走らない場合にはお得です。また、空いている席を有効利用する相乗りも節約になります。それを応援する仕組みとして複数人乗車車両やバスだけが走行可能なHOV(High-Occupancy Vehicles)レーンを導入している国もあります。
3. 効果的なガソリン節約術(長期):エコシティ
車のかしこい使い方に含まれるのかというご意見もあるかもしれませんが、エコシティについてお話ししたいと思います。(1) 交通手段を変える、(2) 行き先を変える、(3) まちを変える、のが長期的な取り組みです。
交通手段を変えるということは、歩く、自転車やバスを使うということです。途中で車から電車に乗り換えるパークアンドライドもあります。しかし交通手段を考えるときには、時間と費用の面から速くて安い手段を選ぶことが普通でしょう。料金制度を変えることも考えられます。日本やアジアの多くの国では公共交通は独立採算ですが、ヨーロッパでは3〜7割くらいが補助金で賄われている国があります。そうすればバス代が半額になったり運行頻度が倍になったりします。高齢化社会に向けてはこういうやり方もよいでしょう。
行き先を変えて近所に行くようにすると、近所のお店を応援する効果もあります。また公共交通を利用しやすい場所に行くことで、多くの人が集まりやすい魅力的なまちができます。こういう行動は、お店の立地戦略や自治体のまちづくりに影響していきます。
まちを変える場合に、歩いて暮らせるまちづくりを目指すことが挙げられています。これは国立環境研究所で研究している「低炭素社会に向けた12の方策」の一つでもあります。まちを変えるために私たちができることの一つは「パブリックコメント」を出すことです。つくば市では平成21〜22年度の間にまちづくりに関する案件がいくつかありました。私も委員として参加しています。パブリックコメントでいろいろな意見を出すと、委員会での議論も活発になりますし、まちづくりに市民が参加するきっかけになると思います。
私たちが2010年の国立環境研究所夏の大公開で行ったアンケートについてご紹介します。来場者165人に「30年後のつくばの交通はどういう姿になっているとよいと思いますか」という質問をし、A、Bから選んでいただきました。A:マイカー中心の面的展開型の土地利用で、電気自動車やハイブリッド車を利用する生活、B:公共交通といろいろな手段を組み合せた拠点連携型の土地利用をし、鉄軌道系や徒歩、セグウェイなどパーソナルモビリティのある生活、です。アンケートの結果は、Aが56人、Bが109人でした。
最後に、まとめです。エコドライブで1割くらい、車の買い替えで2割くらいガソリンの節約ができます。時間はかかりますが、まちを変えることで4割くらいガソリンを節約できるのではないかと考えています。エコドライブは簡単にできますが、エコシティは時間がかかります。しかし今すぐ取り組まないと30年後、または2050年には間に合いません。ガソリンの節約術としてすぐに簡単にできそうなことは続けていただきながら、難しいところもチャレンジしていただければと思います。
(文責 編集局)