Q9車のかしこい使い方
!本稿に記載の内容は2014年6月時点での情報です
私たちにもできる身近な温暖化対策として、車の効率的な使い方があると思います。具体的にはどんな工夫があるのでしょうか。また、どれくらい二酸化炭素削減に貢献できるのでしょうか。
松橋啓介 社会環境システム研究領域 交通・都市環境研究室 主任研究員(現 社会環境システム研究センター 環境経済・政策研究室長)
最高速度を控えめにする等のエコドライブにより、走行時の二酸化炭素排出量を約1割削減できます。しかし、二酸化炭素を約7割削減しようとする中長期的な温暖化対策の例では、徒歩や自転車の活用で2〜3割、公共交通機関の利用増加で約1割、燃費のよい小型軽量車等の普及で約4割の削減効果を見込んでいます。これらの対策を取り入れ、それを促進する制度やまちづくりの導入を地域社会に働きかける工夫まで含めると、相当に大きな貢献が可能です。
日本では、乗車由来の二酸化炭素(CO2)排出量は全体の約1割
日本のCO2排出量の約2割が運輸部門からの排出です。その約9割を自動車からの排出が占めています。乗用車とトラック等の排出は6:4の割合ですので、乗用車からの排出量は日本の全体の排出量の約1割に相当します。
運輸部門のCO2排出量は、自動車の普及と大型化、安全対策のための重量増加等により、2001年に京都議定書の基準年(1990年)比で23.3%増(現在までの最大値)に達しました。そこで、『京都議定書目標達成計画』では、2010年度におけるエネルギー起源CO2の運輸部門の目標の目安として、基準年比15.1%増を挙げました。対策としては、省CO2型の地域・都市構造や社会経済システムの形成を挙げ、自動車グリーン税制による燃費改善の効果に加えて、エコドライブの普及や公共交通の利便性の向上等を行うこととしていました。結果的には、燃費改善や人口減少等の影響もあり、7%増に収まりました。
エコドライブによって、10%以上のCO2削減
車の効率的な使い方のなかで、比較的取り組みやすいものとしては、実際に車を運転するときに少ない燃料で走行させるエコドライブがあります。エコドライブの普及啓発のために、警察庁、経済産業省、国土交通省および環境省を関係省庁とするエコドライブ普及連絡会が、「エコドライブ10のすすめ」を策定しています(図1)。10項目のうち、走行時の主な行為についてエコドライブを実施すると、燃費 [km/l] が15%程度改善すると見込まれています。これは、走行距離あたりのCO2排出量 [g-CO2/km] に換算すると約13%削減となります。なお、自家用乗用車(自家用軽乗用車を含む)の走行距離あたりのCO2排出量の2010年の平均値は249 [g-CO2/km] です。
あらゆる走行状況においてエンジン効率のよい回転域を活用できるCVT(連続可変トランスミッション)などの燃費向上技術を採用した最新の低燃費車にも、エコドライブは有効です。回答者らがCVT車両を用いたエコドライブ調査を行った結果では、平均で約12%のCO2削減になりました。また、規制速度を遵守し、速度を控えめにすることで(ブレーキ時に熱になって捨てられる)運動エネルギーを抑える効果が、削減の大半を占めていることがわかりました。速度遵守は、「エコドライブ10のすすめ」の1〜3の運転手法にもつながります。エコドライブは、京都議定書の目標達成に貢献できる身近な対策のひとつと考えられます。
中長期的には、さまざまな対策を組み合わせて7割削減が可能
しかし、低炭素社会に向けた温暖化対策という観点からは、わが国でも2050年に1990年比で約7割あるいはそれ以上の削減が求められます。運輸部門のCO2を約7割削減するための対策の組み合せはどういったものになるでしょうか。
たとえば、施設の建て替えや移転の際には、集約的な土地利用となるように都市計画的な誘導を行うとともに、徒歩や自転車が利用しやすい道路整備を行うことで、その利用が進み、2〜3割のCO2削減が可能と見積もられます。また、公共交通機関の整備や運行に対して公的補助を手厚くするとともに、沿線に集約的な土地利用を行うことで、公共交通機関の利用を促進し、約1割の削減が可能と考えられます。さらに、燃費の良い小型車に移行するように自動車グリーン税制を強化・継続させることで、適切な大きさで燃費の良い車(ハイブリッド車や電気自動車、バイオ燃料車等)の普及が促進され、約4割の削減が可能と想定されます。
私たちにもできる中長期的な温暖化対策がある
中長期的な話や社会制度の話となると、私たち一人ひとりには縁遠いものと感じられるかもしれません。しかし、少し長い目で見ていくと、エコドライブのほかにも取り組めそうな対策があります。
車の利用を前提とすると、日常的にはエコドライブに努めることが重要です。少し長い目で見ると、車を買い替えるときには、低燃費技術を導入している車(事情が許せば小型で軽量の車)を選ぶことで、CO2の大幅削減が可能です。
車の利用を減らす工夫として、日常的には、できるだけ歩くか自転車や公共交通を使うことが挙げられます。相乗りすることも有効です。しかし、車の利便性が格段に高い場合には、徒歩や自転車や公共交通を利用することは容易ではありません。その場合は、発想を転換して、行き先を近所に変えてしまうことも一案です。長い目で見ると、転居・転職の機会に、徒歩や自転車や公共交通が使いやすい住まいや職場を選ぶことで、その後の生活での大幅削減が容易になります。
また、こうした工夫を誰もがたやすくできるようにするために、徒歩や自転車や公共交通が使いやすいまちになるように、あるいは環境負荷が小さい方法等を選択する人が得をする仕組みになるように地域社会へ働きかけることも、実は、私たちができる身近な温暖化対策のひとつではないでしょうか。
さらにくわしく知りたい人のために
- エコドライブ/チャレンジ25キャンペーン http://www.challenge25.go.jp/practice/carlife/about_ecodrive/
- 松橋啓介 (2007) 低炭素社会に向けた交通システムの将来ビジョンの構築について. 都市計画論文集, 42(3), 889-894.
- 松橋啓介・加藤秀樹 (2009) 低炭素社会に向けたエコドライブの役割. 環境情報科学, 38(4), 37-41.
- 2008-02-04 地球環境研究センターニュース2008年1月号に掲載
- 2014-06-24 内容を一部更新