2011年8月号 [Vol.22 No.5] 通巻第249号 201108_249004

地域炭素収支評価(RECCAP)の構想と展開

  • GCPつくば国際オフィス 事務局長 DHAKAL Shobhakar(ダカール・ソバカル)
  • GCPキャンベラ国際オフィス 事務局長 CANADELL Pep(カナデル・ペップ)

1. はじめに

地域炭素収支評価(Regional Carbon Cycle Assessment and Processes: RECCAP http://www.globalcarbonproject.org/reccap/)​は、グローバル・カーボン・プロジェクト(GCP)が推進する国際的なアセスメントで、世界中の著名な炭素循環研究者がメンバーになっています。RECCAPの科学的な役割は、将来における変動を解明するため、ホットスポット(二酸化炭素[CO2]の強い放出源または吸収源になっている地域、あるいは収支の時間変動が激しい地域)となる地域を特定し、全球的な炭素収支を高い空間分解能で提供することです。地域的なフラックスの変動や気候変動緩和策の成果を測定・報告・検証できることへの要求が高まるなかで、RECCAPの役割は大変重要といえます。またRECCAPは全球に与える影響が大きいにもかかわらず、技術面での能力が不足、あるいは全くない地域においてキャパシティ・ビルディングの支援を行っています。さらに、自然および人為起源による炭素の放出と吸収の動向を監視する全球的な観測システムを設置するという、地球観測に関する政府間会合(GEO)の要請にも応えています。

2. RECCAP が取り組む範囲と地域

RECCAPの取り組みは、大陸または海盆スケールでの地球上の広い地域において、構成要素となるフラックスを含む年平均炭素収支量を把握することです。そのために、ボトムアップ手法による推定とトップダウン手法から得られた地域的なインバージョン(大気観測からの逆推定)の結果を利用し、比較しながら進めていきます。これにより、ボトムアップ手法による地域の炭素収支量の推定と、全球の大気の制約条件との整合性を確かめることが可能となります。また、「ホットスポット」となっている地域における経年変動性やトレンドを検討し、さらに、長期的な観測とモデルを結合することで過去20年以上の基本的なプロセスを解明できるでしょう。RECCAPのアセスメント期間は、炭素収支については1990年から2009年、トレンド解析については1958年から2009年ですが、海洋のトレンド観測に関しては1983年から2009年の情報しかありません。一地域の炭素収支を解明するのに、RECCAPでは多数の制約条件を用いています。トップダウン手法は、大気中のCO2等の温室効果ガス観測データを基にしてインバージョンモデルから得られる情報を利用します。ボトムアップ手法では、陸域と海洋における地域的な炭素収支をたくさんの観測結果(現場での観測やリモートセンシングなど)やモデルから得ることができます。この二つの手法を用い、陸域10、海洋4の計14地域(陸域:アフリカ、北極圏ツンドラ地域、オーストラリア、ヨーロッパ、ロシア、東アジア、南アジア、東南アジア、中南米、北米、海洋:北大西洋と北極海、インド洋、太平洋、南洋)を設定して評価を行います。

3. RECCAPの統合評価

RECCAPでは、どの地域についても、目標とする期間を超えた長期間の年平均炭素収支量を求めるため、また、可能であれば経年変動の速度やトレンドについても評価するため二つの手法で解析を行います。RECCAPの「全球」統合システムでは、全球を大きな地域に分けて、均一な手法で解析します。テーマは、(1) 化石燃料の燃焼による放出、(2) 土地利用変化による放出、(3) 大気中の温室効果ガスの放出/吸収、(4) 海洋におけるCO2濃度、(5) CO2の海洋貯留、(6) 沿岸域や河川のフラックス、(7) 国際貿易によるフラックスなどです。「地域」統合システムは、陸域と海洋で構成されています。テーマは以下のとおりです。(1) 長期的な年平均炭素収支量の推定、(2) 生態系フラックスの平均的な月ごとのサイクルと撹乱による放出の推定、(3) 長期的な年平均炭素収支量の分析結果から、総一次生産量・純一次生産量・微生物呼吸によるフラックスや、農地・草地・森林など土地被覆の違いに基づく撹乱による放出の解明、(4) フラックスの年々変動の推定、(5) 小地域のホットスポットにおける放出/吸収が引き起こすプロセスの把握。海洋について、RECCAPの「地域」統合システムは以下のテーマに取り組みます。(1) 海洋内部などにおける過去20年以上の長期的な年平均炭素収支量の測定、(2) 自然起源および人為起源によるCO2フラックスの見積もり、(3) CO2フラックスの平均的な季節変動の予測、(4) 長期的な年平均炭素収支量の分析結果から一次生産の総フラックス量や輸出用生産、熱成分、物理的輸送などを解明、(5) 1983年以降のフラックスの年々変動の評価、(6) 地域以下のスケールのホットスポットにおける放出/吸収を引き起こす主要なプロセスの把握。RECCAPの統合評価の最終目標は、上記から得られる成果を統合評価報告書として集成することです。統合評価報告書の多くの章では、トップダウン手法によるインバージョンの結果と、ボトムアップ手法による最新の成果である長期的な年平均フラックスやその経年変動、また重要となる地域における長期トレンドとが統合される見込みです。二つの手法による結果が一致する地域と異なる地域を特定するだけではなく、この一貫した枠組みのなかで不確実性を評価することもできるでしょう。CO2の施肥効果と過去の土地利用変化による影響や気候変動との関係など、地域的な現象のさまざまなプロセスに関する問題提起も可能でしょう。最終的に、統合評価報告書は、将来予測をするときの誤差要因を減らすための重要な提案をすることを目指しています。つまり、データ交換の際のプロトコルを作成したり、モデルの相互比較やモデルとデータの比較を企画したり、必要な情報が不足している地域を特定し、5〜10年の間に不確実性を低減する方法を提案することです。

RECCAPによる評価は、世界中の200人もの専門家による協力体制で実行されます。このような協力体制が準備されており、地域間の統合評価の整合性をとるための議論も進められています。評価は、二つの指標で行います。第一に、既存の分析結果や地域・国家プログラム(北米炭素評価プログラム[NACP]、CarboEuropeやCOCOS、中国と東アジア炭素収支、オーストラリア・北米の炭素評価と統合、アマゾンにおける生物圏–大気圏の大規模実験[LBA])および、全球モデルと統合システムの取り組み(GCPによる全球の年間炭素収支、GCP-TRENDY、大気トレーサー輸送モデル相互比較計画[TRANSCOM])によって行います。第二に、すでに評価が進んでいる地域の支援による炭素プログラムが確立されていない南アジアや東南アジアのような地域では、新たに統合評価チームを設立できるかどうかが重要です。RECCAPの計画や取り扱うテーマは、コミュニティによる一連の協議を経て2007年半ばに設定されました。代表著者は2009年12月に選出されました。第1回のリードオーサーワークショップが2010年10月6〜8日、イタリアのビテルボで開催され、基本的な工程とそれにしたがった計画を決定しました。第2回ワークショップは2011年5月23〜27日に、アメリカ・ウェストヴァージニア州の国立保全トレーニングセンターで開催されました。ワークショップでは各章のゼロ次ドラフトが紹介され、チームごとに、また分野を横断して協力することの重要性を考慮し、チームを越えて、進捗状況について議論しました。さらに、これまで進められてきた地域および全球の統合評価について高いレベルでの「統合解析」について検討しました。今後、2012年中旬までに評価をまとめ、計25の統合レポートとして、学術誌の特別号や代表的ジャーナルにおいて発表することを目指しています。

*本稿はDHAKAL ShobhakarさんとCANADELL Pepさんの原稿を編集局で和訳したものです。 原文(English)

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