2011年8月号 [Vol.22 No.5] 通巻第249号 201108_249001

気候変動枠組条約および京都議定書の特別作業部会会合(AWG-LCA14第2部、AWG-KP16第2部)並びに補助機関会合(SB34)報告

  • 地球環境研究センター 温室効果ガスインベントリオフィス 高度技能専門員 畠中エルザ
  • 地球環境研究センター 温室効果ガスインベントリオフィス 高度技能専門員 伊藤洋

1. はじめに

2011年6月6〜17日に、ドイツ・ボンにおいて気候変動枠組条約の下での長期的協力の行動のための特別作業部会第14回会合(第2部)(The second part of the AWG-LCA14)および京都議定書の下での附属書I国の更なる約束に関する特別作業部会第16回会合(第2部)(The second part of the AWG-KP16)並びに第34回補助機関会合(科学上及び技術上の助言に関する補助機関会合:SBSTA34、実施に関する補助機関会合:SBI34)が開催され、日本政府代表団の一員として国立環境研究所から温室効果ガスインベントリオフィスの畠中、伊藤らが参加した。以下に測定・報告・検証(MRV、地球環境豆知識参照)、温室効果ガスインベントリ[1]・国別報告書[2]関連事項を中心に、会合の概要を報告する。

2. 経緯

メキシコ・カンクンのCOP16会合において両AWGの作業期限の延長が決定されたことを受け、本会合に先立ち、4月にタイ・バンコクにおいてAWG会合が開催されていた。しかし、AWG-LCAにおいて、昨年のカンクン合意に沿った議題を話し合うべきとする先進国と2007年のバリ行動計画の内容も含む議題にすべきとする途上国とが対立したため、交渉を始める前の議題設定に多くの時間が割かれ、議論があまり進捗していない状態で、本6月会合を迎えることとなった。(詳細は本ニュース6月号参照)

3. AWGおよびSBの成果

(1) AWG-LCA

今次AWG会合は、6月7〜17日まで開催された。AWG-LCAでは、共有のビジョン、先進国・途上国の緩和(排出削減)の約束・行動およびその透明性の確保、市場メカニズム、対応措置、適応、資金、技術移転、長期目標のレビュー等について公式、非公式に議論が重ねられた。

先進国・途上国の緩和に関しては、会期中、カンクン合意の要請に基づき公開ワークショップが開催され、先進国の削減目標の前提条件や国内政策、今後の目標の深掘りの可能性等、また途上国による適切な緩和行動(NAMA、本ニュース6月号参照)の多様性やその前提条件、必要とされる支援等につき発表と質疑応答が行われた。

ワークショップ、交渉を通じて、多くの途上国が先進国による目標に関する野心(level of ambition)の深掘りを求めた。また、交渉では、先進国の隔年報告書(地球環境豆知識参照)の作成や国際評価・レビュー(地球環境豆知識参照)のガイドラインの基本的事項について合意することが必要とされる旨指摘があった。途上国の緩和については、途上国はNAMAのレジストリ[3]に、先進国は隔年報告書および国際協議・分析(地球環境豆知識参照)のあり方に焦点を当てるべきとし、それぞれの構成要素等を提案した。ただ、ワークショップの開催で実際の交渉に当てる時間が減り、また議論の進め方に関して先進国と途上国が対立したため、十分に技術的な議論に時間を割けたとは言い難い。

(2) AWG-KP

本AWG-KP会合では、議論の進め方がまず焦点となった。先進国からは、先進各国の排出削減に関する更なる約束の政治的事項の議論を行う前に、京都議定書改正案・先進国の削減目標、森林等吸収源、市場メカニズム、対象ガス等といった技術的事項に関する分科会を立ち上げて議論を進めるべきであると主張したのに対し、途上国からは、京都議定書第2約束期間への参加の意思確認や参加を受け入れるための条件の明確化を先進国に求める声が上がった。そこで、会合中盤から、一日一回は関心国が集まり、第2約束期間参加への政治的意思について公開の形で検討を継続することとしつつ、並行して技術的事項に関する非公開の分科会(スピンオフグループ)を設置して検討を進めることが決定した。

前回AWG会合同様、今回も、日本を含め、京都議定書第2約束期間へ参加しないことを明らかにしている国々が議論に参加することそのものへの風当たりが強い場となったが、政治的事項に関してはあまり議論が深まらなかった。一方、森林等吸収源や対象ガス等の方法論等、技術的事項に関しては、一定の進捗がみられた。

規制対象となる温室効果ガスの範囲設定、温室効果ガスの排出・吸収量をCO2換算するための共通の指標(metric)に関しては、議長テキストの中に含まれていたオプションの整理が進んだ。IPCC第4次評価報告書に示されている地球温暖化係数[4]を共通の指標として採用し、対象ガスを、同報告書に示されているハイドロフルオロカーボン(HFC)、パーフルオロカーボン(PFC)のうち一定の選定基準を満たすガス種および六フッ化硫黄(SF6)とすることに加え、三フッ化窒素(NF3)を追加すること一点の合意さえ得られれば、完全合意に至るというところまで議論を深めることができた成果は大きい。

(3) SBSTAおよびSBI

今次SB会合は6月6〜16日に開催予定であったが、6日に開会全体会合を始めることができたのはSBSTAだけであった。SBIは翌日に開会全体会合を開始したが、いずれも議題設定に関して先進国と途上国が対立した。議題案のうちカンクン合意に基づいた議題について一部の途上国が反発したり、追加議題を提案する等したり、また意見の対立がない議題については先に採択を行い、残る議題については協議を継続するといった提案に関してもなかなか合意には至らず、最終的に議題の採択が始まったのは、SBSTA、SBIともに9日、すべての議題の採択が終了したのは会期の折り返し地点の翌10日であった。

photo. SBSTA34の開会全体会合

SBSTA34の開会全体会合

国別報告書、資金メカニズム、適応・損失、技術、キャパシティビルディング、途上国における森林減少・劣化に由来する温室効果ガス排出の削減等(REDD+)、対応措置等に関して公式、非公式に議論が重ねられたが、本節では、筆者らが交渉を担当していた温室効果ガスインベントリ・国別報告書関連の議題について、簡単に紹介したい。

2013年分からの温室効果ガスインベントリ提出のためのさまざまな要件を規定する附属書I国による報告のためのガイドライン関連の議題については、同ガイドラインの新テキスト案および共通報告様式[5]案の改訂作業を今次SBSTA会合で開始した。

温室効果ガスのCO2換算量を計測するための共通の指標の議題については、2012年前半に、指標に関する新たな知見や不確実性、政策目標との関連性等に関するワークショップを開催し、その結果を踏まえてSBSTA36で今後の取り扱いの予定を議論することに合意した。本議題において、現在使用されている地球温暖化係数以外の指標の検討方針について一定の道筋がついたため、AWG-KPの議長テキストの中に含まれていた対象ガス・共通の指標に関するオプションの整理も進んだと言える。

国別報告書関連の議題は、とくに非附属書I国が作成する温室効果ガスインベントリの内容の充実、作成頻度の増加との関連性が深いため、昨今重要な議題となってきている。それ故に、取り扱いについて紛糾しやすく、上述した交渉開始前の議題設定に関する議論の中で、会合前に示された暫定アジェンダからその一部が削除されるに今回は至った。削除対象となったのは、カンクン合意を受けて盛り込まれた附属書I国、非附属書I国それぞれの国別報告書・隔年報告書作成等のためのガイドラインの策定に関する二議題であった。この流れは、直近のカンクン合意を踏まえて議論を前に進めようとする先進国を途上国が牽制するという動きと一貫している。

残る議題のうち、附属書I国の国別報告書の将来の提出期限については、前回SBI33において次回提出は2014年1月1日で合意されたが、今次会合では、AWG-LCAにおいて報告義務がさらに明確化された時に柔軟に対応できるような文言の結論文書となった。非附属書I国の国別報告書については、カンクン合意を踏まえた報告義務の強化を視野に入れつつ、改めて作成のための資金手当ての重要性が強調された。ただ、附属書I国・非附属書I国双方の国別報告書の提出頻度そのものを扱う議題は、AWG-LCAに議論の場を譲り、あまり実質的な議論は行われず継続協議となった。

4. おわりに

南アフリカ・ダーバンのCOP17を前に、最後の交渉機会となるAWG会合が、10月1〜7日にかけてパナマ・パナマシティで開催予定である。テーマを分けて他にも小規模な会合は事前に開催されるが、COP前の正式会合はあと7日ということになる。先進国および途上国による緩和を下支えするMRV、温室効果ガスインベントリ・国別報告書関連事項が実際に機能するのに必要とされる詳細さでガイドライン等を策定するには、なかなか厳しい道のりだと言わざるを得ない。各国には、残された時間を最大限に活用してもらいたい。

*伊藤洋は2011年7月末まで所属・2011年9月よりJICA気候変動対策プロジェクトの長期専門家としてインドネシアに赴任予定。

脚注

  1. ある期間内に、国内の人為的な活動に伴いCO2等の温室効果ガスがどれくらい排出・吸収されたかを、排出源・吸収源ごとに示す目録。
  2. 附属書I国の国別報告書は、温室効果ガスインベントリ情報、政策・措置、将来予測および政策・措置の総合的効果、資金および技術移転、教育、研修および普及啓発等の内容を含むこととなっており、おおよそ4年に一度提出している。なお、非附属書I国の国別報告書は、温室効果ガスインベントリ、条約の実施のための現在・将来のステップの概説等、制約・不足部分、関連の資金・技術・キャパシティ的ニーズを含むこととなっており、多くの国は概ね1〜2回提出している。
  3. 途上国の削減行動と先進国が提供する支援・技術・キャパシティビルディングとのマッチングを行う登録簿。
  4. Global Warming Potentials。CO2の地球温暖化への効果を1とした場合の他のガスの相対的な影響の強さを指す。
  5. 温室効果ガスの排出・吸収量および関連情報を報告するために使用する各国共通のエクセル形式のファイル。

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