2014年9月号 [Vol.25 No.6] 通巻第286号 201409_286009

あの「夏の大公開」で、敢えて難しい話題に挑んだココが知りたい生パネル第3弾—地球温暖化と国際協力・将来の社会—

  • 地球環境研究センター 交流推進係

1. はじめに

毎年恒例の「夏の大公開」、地球環境研究センターでは昨年から社会環境システム研究センターと共同で「ココが知りたい生パネル」と題するパネルディスカッションを開催しています。テレビ番組でお馴染みの「朝まで生テレビ!(テレビ朝日)」のようにパネリストを登場させて(テレビ局にも了解を得ています)、地球温暖化にまつわる重要なトピックについて専門家でない方々にも問題点と解決の方向性を理解いただけるように工夫しました。これと地球温暖化研究棟での出展とを同時に行うのは非常に大変ですが、過去2回ともに「実に興味深い」議論が展開されたため、今年も迷わず開催してしまいました。

今年のテーマは「地球温暖化と国際協力・将来の社会」という、おそらくは地球温暖化問題で最も難しいテーマを敢えて取り上げました。以下に、このパネルディスカッションでの議論内容と雰囲気をお伝えしたいと思います。

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写真1パネリストからの話題提供のあと、会場に質問を投げかけ、○×の札で回答いただきました。会場との意思疎通を図りながら、皆で納得する議論にしたかったからです

2. 事前の準備(如何にして会場の皆様にご参加いただくか)

パネルディスカッションという形式にこだわったのは、多くの講演会がワンウェイで、講演者が一方的にお話しして終わるため、わざわざ時間を割いて下さった来場者の方が本当に満足できたのか疑問であったからです。また、パネルディスカッション形式でも講演会形式でも、会場の意見を聞かれたとき、うまく質問ができる人は少ないし、人前で話すのは躊躇するのが普通です。このことを踏まえ、私たちのパネルディスカッションでは、会場の皆さんに聞きたいことを紙で書いてもらい、すぐに回収してモデレータが紹介する形式をとりました。これなら、来場者の知りたいことをうまく質問できると考えました。

また、皆様におなじみの「朝まで生テレビ!」の仕立てを一部再現し、議論の雰囲気作りも行いました。パネリストには実際にこのテレビ番組に参加した研究者もおり、テレビ朝日からもこのような模擬イベントを行い、地球温暖化について議論することについてご了解をいただいています。

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写真2説明するパネリスト。手前の段ボール箱には会場からの質問・アンケート回答用紙が入れられています

もう一つの工夫が、パネリストとして専門の研究者の他に、非専門家を入れた点です。専門家同士の難しい議論では、会場の方も参加しにくいと考えたからですが、実際にこの非専門家パネリストが議論のわかりやすさに貢献してくれました。科学者たちと市民がコミュニケーションをしながらお互い高め合っていく、という目的の一部が達成できたと思います。

3. パネルディスカッションの内容

今回のパネルディスカッションのテーマは「地球温暖化と国際協力・将来の社会」です。しかも時間は90分間。子どもたちがたくさん集まる夏の大公開にしては少しヘビーなイベントです。

冒頭、モデレータの江守正多地球温暖化研究プログラム総括が、このイベントのこれまでの内容と今回の趣旨説明を行い、続いて3名の研究者(甲斐沼美紀子フェロー、久保田泉主任研究員、藤田壮センター長、いずれも社会環境システム研究センター)から話題提供とクイズを行いました。話題提供の内容は、甲斐沼フェローが「地球温暖化の予測と対応策」、久保田主任研究員が「2020年以降の地球温暖化対処のための国際制度」、藤田センター長が「都市から始める低炭素社会?」でした。

甲斐沼フェローは、温暖化対策を一生懸命行った場合とそうでない場合に将来どのような影響の差が出ると考えられているのか、2050年の家庭での生活を想像しながら説明しました。続く久保田主任研究員は、国際社会で今議論されている2020年以降の国際制度については、いろいろな論点があり、そのうちの一つである排出削減目標の決め方については、排出量を国ごとに割り当てる方法と自主的に目標を設定する方法とがあり、環境保全効果を得るには、「一定数以上の参加国 + 高い目標設定」が必要だと説明しました。最後に藤田センター長が、環境都市や低炭素型まちづくりとはどのようなものかを説明しました。

このうち研究者が問いかけたクイズ(藤田センター長のものはアンケート的な質問)の内容と回答をご紹介しましょう。

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図1甲斐沼フェローの問題と解答 注:低炭素エネルギーには、再生可能エネルギーのほか、原子力エネルギーやCCS付化石燃料発電所で発電されたエネルギーが含まれます

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図2久保田主任研究員の問題と解答

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図3藤田センター長からの質問
藤田センター長の質問について、会場の回答は政府が8名、自治体7名、市民15名、研究者8名となり、「市民一人一人」という方が多数でした

この後、非専門家のパネリストである池水博子さんにコメントが求められました。ここからは、パネリストの発言をそのまま要約します。

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パネリスト 池水博子
私には4人の子どもがいて、将来のために環境に優しい生活をしようと、自宅の建設には茨城県内木を使い、太陽光発電パネル、雨水再利用、コンポストなど使用しているほか、最近、大型の車を小型自動車に買い替えて、燃料が1/3になりました。それでも温室効果ガスの排出量は減らず、地球の気温が上がってしまうという現実を知ると、自分たちの無力を感じてしまいます。私たちは、どうすれば良いのでしょうか。
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モデレータ 江守正多
池水さんのお話を踏まえ、我々に何ができるか突き詰めて考えてみたいと思います。専門家パネリスト皆さんいかがでしょうか。
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パネリスト 藤田壮
産業革命以降、化石燃料を消費して豊かな生活を得ることにより、人口も増え、死亡率も減りました。低炭素社会では、その化石燃料消費を今より8割も減らすとなると、もう一度産業革命が必要になることは間違いないと思います。その中でも、個人の役割はやはり重要ですが、例えば削減の半分の4割ぐらいを個人が担い、残りの4割を社会が担う方向を考えた時には、社会の仕組みの抜本的な変革が必要となります。そのためには個々人からどのような社会の変革が望ましいかについて意見を持ち、みんなで検討しなければなりません。
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パネリスト 久保田泉
頑張った人がより報われるように制度を作らなければならないでしょう。国際的な枠組みでも同じです。まずは、皆さんが、関係するところや身近なところから制度に関心を持ち、どのような制度が望ましいかについての意見を持って下さることが重要です。
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パネリスト
甲斐沼美紀子
温室効果ガス80%削減のうちの半分は需要側、半分は供給側で対策することになる可能性が高いです。技術として注目されるCCS(炭素貯留)は需要側ではなく供給側の対策となります。2°Cまでに温度上昇を抑える目標を達成するためには、CCSの導入を含め大幅な改革が必要になります。現在、温室効果ガス排出量は増加しており、それに伴って温室効果ガス濃度も上昇しています。正直、なかなか難しい面があります。

会場から、「温暖化問題がこれだけ世界の課題になっていながら、先進国の中で日本だけ地球温暖化を防ぐための法律を持っていないとテレビで聞いたが。どうなのか?」と質問あり。

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写真3会場の質問に答えるパネリスト

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久保田
日本では、京都議定書第一約束期間(2008–2012年)については、京都議定書目標達成計画が策定され、どのように日本の目標を達成していくかがはっきりしていましたが、第一約束期間後、どのように温暖化対策を進めていくかが明らかにされていません。
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藤田
温室効果ガスを2050年までに80%削減することの目標については、日本でも2008年に閣議決定されるなど政策化されています。東日本大震災以降エネルギー戦略に見直し議論がつづいていますが、2015年にパリで開催されるCOP21までの、1〜2年の間に何かできてくると考えています。
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江守
日本は前の安倍政権のときから地球温暖化防止でリーダーシップを取ると言っていますが、その内容には日本の効率の良い技術を世界に売り込むという側面が強いと思います。会場アンケートでは「地球温暖化防止のための国際協力がうまくいくか?」の問いに対してYES 13人、NO 19人でした。この他、政治家が短期的な利害しか考えない。票にならないことはしないという意見もありました。これについては政治家を選ぶ選挙民の意識の問題という捉え方も必要ではないでしょうか。
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久保田
温暖化交渉を見ていると、一部のグループは別ですが、報道されているほどには目先のことしか考えていないわけではないと感じます。以前は、途上国は一丸となって、「先進国が温暖化問題を起こしたのだから先進国が責任をとるべき」という主張をしていました。現在では、途上国の中にもいろいろなグループができてきて、必ずしも一枚岩ではなくなり、交渉が複雑化しています。日本は、マルチ(多国間)とバイ(二国間)の国際協力の役割の違いを認識して、振る舞う必要があります。
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江守

国際協力がうまくいかない理由として、「本気で心配していない」、「問題の重要さを認識していない」というものがありました。

地球温暖化の解決について何に期待するかという問いに対しては、革新的な技術に12人、新しい制度22人、その他には「教育」、「人々の意識」などが複数ありました。

何年先の環境問題が心配か?の問いに対しては、「10年先まで」が5名、「10〜30年後」が11名 、「30〜50年後」が11名、「100年以上後」が2名、「特に心配はない」が3名でした。

世の中には技術が大事という人も制度が大事という人もいます。きっと技術と制度の両方が必要なのでしょうが、その辺はどのように考えますか?

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甲斐沼
新しい技術を利用するには適切な制度が必要になります。技術も制度も両方必要です。
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江守
再生可能エネルギーの普及などを見ていると制度の後押しがないと、普及しないとか、投資が進まないとかいう面がありますね。
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藤田
技術には様々なものがあり、技術は仕分けする必要があります。例えば太陽光発電などはかなり成熟した技術であり、iPS細胞とかIT(携帯電話)とか、進歩著しい分野の筋の良い技術は今後も発展の見込みがありそうなのに対して、成熟技術がどれくらい発展するかは慎重に考える必要があります。また、技術の適用を進めるために社会の仕組みを変えると必ず誰かが得をし、誰かは損をすることになります。「損をさせるリスク」を避けるために、これまで政府はあまり制度を変えてきませんでした。これからは温暖化対策のためにも、選別された技術と適切な制度の組み合わせが重要になるでしょう。
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池水
これまで温度が上がってしまうことにわりと悲観的でしたが、皆様の話を聴いて、個人ができること、供給側で期待できること、制度を変えてできることなど、まだまだありそうなので、希望をもって進んでいきたいと思います。私たちも政治家をちゃんと選ぶとか、きちんとした主張をするとか、考えていかなければならないですね。
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江守

今まで議論してきたほかに、会場の皆様からパネリストへの質問を紹介しておきます。例えば、「日本はこれから人口も減り、財政力も落ちてくると経済上の援助が難しくなっていくだろうが、その中でどうしていくのか」や「研究と対策を別の所管でやっているのが良くないのでは」との指摘もありました。大事なことだと思います。

時間も無くなってきましたが、最後にそこにいるペンギンが「しゃべることができない動物を代表して一言しゃべらせろ」と言っているので聞いてあげてください。

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写真4会場からのアンケートを踏まえつつ、議論の舵取りをする江守正多モデレータ

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ペンギン
動物はものが言えません。明治時代の新聞社が実施した100年後予測では、「犬の言葉が翻訳される」としましたが、残念ながら犬語はまだ解明されていません。そういう立場の動物として、「人間はいったい何人まで増えたい、発展したいと思っているのだろうか。人間はどこまで動物のことを考えてくれるのかな」と感じました。
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江守
日本では少子化が進んでいますが、世界では人口が増えています。動物にそのことを指摘してもらいましたが、そろそろ終わりの時間が迫っています。各パネリストから一言ずつもらって締めたいと思います。
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池水
私は20年近く専業主婦をやってきて、最近やっとお勤めを始めました。いろいろ時間がなくて大変です。自分は何とかやっていますが、世界には大変な方も多いと思います。研究者の方々にはいろいろ頑張っていただいて成果を発信していただきたく思います。
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藤田
20年以上環境の研究を職としてやってきましたが、10年前と現在を比べるとはるかに環境主流の世界になっています。日本の環境対策に対する優先度(ステータス)も最近ちょっと停滞していますが、装置的に高い水準にあると思います。研究者から省庁縦割りを突破するようなこともこれから起きるかもしれません。これからも努力していきます。
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久保田
できる限り2015年3月までに、今後の日本の温暖化対策を国際社会に対して示すことが求められています。日本はまだ準備ができておらず、提出時期も示せていません。日本でも、再び、温暖化問題について議論する気運が高まるよう願っています。また、開発援助の在り方について議論することも重要だと感じています。私としては、温暖化国際交渉で何が問題になっているかをもっと皆さんに伝えていきたいです。
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甲斐沼
途上国では、石炭火力発電で作られたエネルギーに補助金を与えて、市民がエネルギーを安く使えるようにしている国があります。このため石炭火力発電から再生可能エネルギーへの転換が難しくなっています。石炭火力への補助金をなくしていくことが必要ですが、なかなか進んでいません。開発援助の分野でも環境考慮した投資が重要になっています。これも一つの制度づくりです。
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江守
今回は、地球温暖化問題に関する非常に難しいテーマを敢えて皆さんと一緒に議論させていただきました。ご覧のとおり明確な結論はないけれども、これからもこのような重要な問題を含めて、皆さんと議論していきたく、皆さんもこの問題について、ご自身の意見を持っていただきたいと思います。
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写真5最後の挨拶をする司会・向井地球環境研究センター長

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司会
向井人史センター長

会場の皆様、関係者の皆様、長時間ありがとうございました。90分という時間を設定したのでもう少し議論ができると思いましたが、研究者の話が長く、そうでもなかったかもしれません。会場の皆様ももっとしゃべりたかったのではないでしょうか?

議論を聞いていますと、個人的には地球温暖化防止のトップランナーは池水さんではないか、地球温暖化防止の主役は、現時点では市民の皆様ではないかと感じました。

今後も地球温暖化防止にお力をいただきますようお願いします。

目次:2014年9月号 [Vol.25 No.6] 通巻第286号

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