2014年9月号 [Vol.25 No.6] 通巻第286号 201409_286004

地球環境モニタリングステーション落石岬20周年 6 観測成果 2:落石岬モニタリングステーションにおける窒素酸化物の観測

  • 地球環境研究センター 炭素循環研究室 高度機能専門員 橋本茂
  • 地球環境研究センター 炭素循環研究室長 向井人史

1. はじめに

地球環境モニタリングステーション落石岬(以下、落石岬ステーション)での気象及び一部の温室効果ガスの観測が1995年に開始されてから、今年度で20年目になります。本稿では、窒素酸化物の観測結果について紹介します。

2. 窒素酸化物とは

窒素酸化物(NOx = NO + NO2)は、自動車や工場などから大気中に直接放出される物質で、短寿命気候汚染物質であるオゾンの生成に寄与する物質の一つです。窒素酸化物は、主として燃焼過程など高温状況下で、大気及び燃料中の窒素と酸素が結合することによって生じます。窒素酸化物は、大気汚染防止法により排出基準が定められており、また二酸化窒素に関しては環境基本法に基づく環境基準が設定されています。このため、都道府県及び政令市の、約2000の測定局で観測が行われており、北海道では北海道、札幌、旭川、函館、小樽、室蘭、千歳、苫小牧市などにある一般環境大気測定局で、観測されています。しかし、北海道の全測定局(自排局、国設酸性雨測定局含む)約50のうち道東地方に測定局はないため、落石岬ステーションでの観測は非常に貴重です。一般に、窒素酸化物は大気汚染成分ですが、リモート地域と考えられる場所(バックグラウンド地域)でも自然起源を含む窒素酸化物が大気中に存在しています。しかしその濃度が非常に低いため通常の感度(例えば1ppb)の測定器では精度ある測定ができません。落石岬ステーションでは高感度(0.02ppb)の測定器を用いて1995年9月から窒素酸化物の観測を行っています。

3. 落石岬ステーションにおける窒素酸化物の観測

窒素酸化物の測定には、化学発光法により一酸化窒素、二酸化窒素濃度を測定する計測器と一酸化窒素標準ガスを精製空気により一定濃度にする希釈装置及びデータを処理するPCから構成されています。計測器と希釈装置はPCにより制御されているため、トラブルが発生した時、つくばからのリモート操作や室内カメラで、その状況の把握や対策をたてることができます。20年も観測を行うと、計測器以外の予想もしないトラブルがあります。大気採取方法は鉄塔にテフロン管を固定し、観測所内にあるダイヤフラムポンプとテフロン管を接続することにより、地上から約50mの高さの大気を採取しています。過去に、このテフロン管の固定が何らかの原因で緩み、テフロン管の一部が地面に落下していたということがありました。幸いにも(一財)地球・人間環境フォーラム、現地管理人の方々の早急な対応により、データの欠測期間が比較的短くすみ、事なきを得ています。

約20年間の落石岬ステーションにおける窒素酸化物(NOx*)の観測結果を図1に示しています。1995年、1996年、1998年、2003年の一部期間での計測器のトラブル以外、長期間、安定的に観測が行われています。落石岬での窒素酸化物は0.5〜1.5ppbの濃度であり、沖縄県の波照間ステーション(落石岬と同様の観測施設)と比べて全体的に濃度が高いことがわかります。また波照間のような冬季に濃度が高くなり、夏季に低くなるような明瞭な季節変化は認められず、逆に夏季に濃度が高くなる傾向が時折、見られます。このような季節変化の特徴(あまり季節変化が大きくなく、その濃度レベルが1ppb前後である)は、これまで観測されている変化(例えば波照間のように、通常燃焼起源の窒素酸化物は冬に高い)とは異なり、北海道特有のものであろうと推察されました。

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図1落石岬ステーション(赤)と波照間ステーション(青)における大気中窒素酸化物濃度

このような特徴を生む原因を解明するために昨年、光コンバーター使用の計測装置を導入し、既存のモリブデンコンバーターを使用した化学発光法の計測装置との並行試験を行っています。光コンバーターを使用した場合は、硝酸とパーオキシアセチルナイトレートガスの影響を受けなく、一酸化窒素と二酸化窒素を計測することが可能です。一方モリブデンコンバーターでは一酸化窒素と二酸化窒素以外の窒素酸化物に感度があり、それをまとめて観測してしまっている可能性があります。長期観測における各コンバーターの効率を確認するために1日に1回、一酸化窒素標準ガスとオゾンとの反応により生成した5〜7ppbの二酸化窒素ガスを計測装置に導入しています。その観測結果と変換効率を図2に示します。2013年8、9月と2014年6月、7月における光コンバーターとモリブデンコンバーターによる二酸化窒素濃度は、ほぼ同一であり、それ以外の秋季、冬季、春季の期間においてはモリブデンコンバーターの方が光コンバーターより0.2〜0.6ppb程度、高いことがわかります。この原因はモリブデンコンバーターを使用することにより、二酸化窒素以外の窒素酸化物(硝酸、パーオキシアセチルナイトレート等)を含んで計測してしまうため、光コンバーターより濃度が高くなったと考えています。夏季においては計測された窒素酸化物濃度は二酸化窒素以外の窒素酸化物の影響は非常に少なく、高濃度の一酸化窒素を計測していることから、その発生源はステーション近郊や日本全域の汚染が流入している可能性があると考えています。冬季には、むしろシベリア、北極の正常空気が多く、NOx濃度は減少していることがわかりましたが、そのかわり別の窒素酸化物濃度が上昇しているという特徴をこの地域の大気が持っていることが推察されました。今後、光コンバーターによる観測を継続することで、より正確な落石岬の窒素酸化物濃度が明らかになると期待されます。

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図2落石岬ステーションでの化学発光法における光コンバーター(青)とモリブデンコンバーター(赤)により観測された大気中二酸化窒素濃度と各コンバーターの変換効率(CE)

目次:2014年9月号 [Vol.25 No.6] 通巻第286号

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