2014年9月号 [Vol.25 No.6] 通巻第286号 201409_286003

環境研究総合推進費の研究紹介 16 2015年、国際社会は合意できるか? 環境研究総合推進費2E-1201「気候変動問題に関する合意可能かつ実効性をもつ国際的枠組みに関する研究」

  • 社会環境システム研究センター 持続可能社会システム研究室長 亀山康子

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1. 研究の背景

1997年の気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)で京都議定書が採択されて17年が経つ。京都議定書は、気候変動の原因である温室効果ガス排出量に対して削減目標を先進国に規定した最初のそして唯一の国際法で、国連気候変動枠組条約の下に位置づけられる。その後、当事最大排出国だった米国が京都議定書への不参加を表明し、また、削減目標が定められていない中国など新興国からの排出量が急増し、現行の京都議定書だけでは地球全体で十分な排出抑制とはならないことが明らかとなった。しかし、そのような時代の変化に国際条約が追いつけていない。

2009年末にコペンハーゲンにて開催されたCOP15では、このような状況を改める機会となるはずだったが、交渉は膠着し、新枠組みは実現しなかった。2011年のCOP17にて新しい国際枠組みに向けた交渉を再開。すべての国が参加し2020年以降の排出抑制に関する目標を記載した文書を2015年末にパリで開催されるCOP21で合意することが目指されている。

2. 研究の概要

交渉期限は設定されているが、この交渉が目指している文書の法形式(議定書なのか締約国会議決定(COP決定)なのか等)や、その中に規定されることになる各国の約束の書きぶりなどについては、詳細は未定なままである。例えば、緩和策(温室効果ガス排出削減)に関して、京都議定書では議定書の末尾にある附属書に、2008年から2012年までの5年平均の排出削減数値目標を国ごとに設定し、その目標の達成を国際約束としている。他方、2010年のCOP16で採択されたカンクン合意(COP決定)では、各国が自主的に提示した2020年目標に向けて必要となる政策の導入を各国に求めた。今回の交渉では、2020年以降の目標を自発的に、できれば2015年3月までに決定することが各国に求められているが、そのように決定された目標の法的な性質や、水準の妥当性の審議、目標年に至る途中での報告審査の有無、といった詳細までは議論が及んでいない。一般的には、規定が議定書に盛り込まれた方が法的拘束力は強いと認識されるが、そうであるがために、議定書には厳しい目標は盛り込みたくないという交渉力学が働くことも事実である。緩い約束を議定書に盛り込むのと、厳しい約束をCOP決定に盛り込むのとどちらがよいかという話になる。

本研究は、COP21までに合意可能で、かつ、気候変動抑制の観点から実効性のある国際枠組みのあり方を提示することを目的としている。似たような主旨の研究は他国でも実施されているが、いずれも著者の主観で制度評価のモノサシが選ばれ、そのモノサシを用いて「最も望ましい」国際制度が推薦されるという問題を抱えている。また、法形式の違いがそこに記載されるコンテンツに及ぼす影響まで考慮したものはない。これらの課題を解消するため、本研究では、法形式の違いに重点をおいたウェブアンケート調査を複数回行うことで、できるだけ多くの国の専門家の意見を収集することを目指した。アンケート調査は、URLさえ知っていれば誰でもアクセスできる設定としたが、気候変動政策に関心を持つ人々が登録するメーリングリストにのみ本アンケート調査の案内を周知し、さらに、回答者には所属やCOP参加回数などを尋ねることで、気候変動問題に関する知識を十分に持たない人の回答を区別できるように工夫した。

3. 研究の直近の成果

今までに2013年1月に1回目、2014年1月に2回目の調査を実施し、その結果を英文報告書としてとりまとめ、国際社会に発信してきた。その間にも国際交渉が進むが、公式な文書には明記されないものの交渉関係者たちが共通認識としておぼろげながら共有する2015年枠組みのイメージが徐々につかめてきた。ここでは、紙面の制約上、今年実施した2回目の調査結果についてのみ概要を記す。

1回目の調査結果を踏まえ、2回目の調査では、2015年枠組みが、国際法である議定書(あるいはそれに類似する法的文書)と、国際法ではないが尊重が求められるCOP決定で構成されるパッケージとなると仮定し、各国の緩和策や資金に関する規定が、議定書とCOP決定のどちらにどのように記載されることが想定されるかという観点から質問した。アンケート調査の結果、回答者の多くが選択した枠組み案は、大きく3種類あった。

第1のタイプは、排出削減目標を提示しその達成に必要な国内法規制を定めることを国際約束として議定書に盛り込む方法である。この記載方法は、気候変動枠組条約4条2項に近い。目標達成に向けて十分と評価される対策をとっていれば、その結果として排出削減目標に達成できなくても約束違反とならない。資金についても同様に、資金供与の金額が目標となるのではなく、自国の企業の投資先を気候変動抑制に資するものに振り替えていくための政策を取ることが約束となる。

第2のタイプは、排出削減目標達成を国際約束として、その目標値を議定書本体に書き込むタイプである。これは京都議定書に近い構造となる。排出量取引制度などの炭素市場の活用は、排出量に上限が定められる本タイプの枠組みと親和性が最も高い。途上国は比較的厳しくない目標でも許されるのであれば、このタイプでも受け入れられるかも知れない。気候変動緩和効果も相対的に高く評価された。

第3のタイプ、議定書本体には目標の全般的な性質だけを規定し、具体的な目標値そのものは別途COP決定に記載するという方法である。本タイプはさらに、議定書とCOP決定を2015年に同時に採択する方法と、COP決定だけ採択を数年後に延ばす方法に分けられる。各国が提示した目標の水準の妥当性に関する協議を重視する国は、そのための時間を確保するため、2015年末に数字を確定させるべきではないと考えている。他方で、いかなる数字を約束するか分からない状態で先に議定書だけに合意できるのかという疑問もある。

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第3の枠組みタイプと交渉工程のイメージ[クリックで拡大]

このアンケート調査結果をとりまとめた後で、直近の交渉会議(2014年6月)の各国の主張と照合させると、第3タイプを念頭においている国が比較的多いことが分かる。議定書などの法的文書は改正手続きが煩雑なため、比較的短期的に変更あるいは更新されうる削減目標は、柔軟なCOP決定で扱ったほうがよいという手続き面からの意見もこのタイプへの支持につながっている。このタイプの枠組みは、3種類の中では最も合意達成可能性が高そうだが、気候変動抑制の実効性は比較的低いとアンケートでは評価されている。目標値がCOP決定に記載されるため、法的拘束力が弱まると想定されるためである。第3タイプの気候変動抑制効果が低い点を懸念して、あくまで第2のタイプを求める国も見られる。また、一部の途上国は議定書という法形式そのものに強く反対し続けており、新議定書を前提とする第2、第3タイプがこれらの国に受け入れられる目処はたっていない。

今後、本研究では、第2、第3タイプの構造を前提として、気候変動抑制効果の向上策と、新議定書に反対する途上国にも受け入れ可能な制度の構築に向けて工夫を続けていく予定である。

追記

本研究の一部は、名古屋大学、兵庫県立大学、公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)に再委託されています。詳しくは、本課題のウェブサイトをご覧ください。

http://www-iam.nies.go.jp/climatepolicy/adp/index-j.htm

目次:2014年9月号 [Vol.25 No.6] 通巻第286号

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