スーパーコンピュータの利用

近い将来、人間活動による環境の変化が地球の回復力の許容量を超えて、取り返しのつかない気候変動や環境変化をもたらす可能性があります。そのような事態に陥る前に、予測を立て、対策を立てて回避することが必要です。

私たちを取り巻く大気や海、河川などの地球システムは、複雑な物理・化学・生物プロセスの上に成り立っています。これらの様々なプロセスに関する最新の知見を取り入れた仮想的な地球環境を計算機上で再現し、気候変動や環境変化を調べ、時間・空間的に詳細に予測することが必要になってきます。

地球環境研究センターでは、所内外の研究者がスーパーコンピュータを利用して、地球環境予測モデルなどの研究を広く行うことができるように、環境情報部と協力し、支援しています。

スーパーコンピュータの仕様

スーパーコンピュータ(ベクトル処理用計算機)は、地球規模での環境変化に関する現象解明や予測などを行うために導入したものです。1991年度に第1号機を導入し、2020年3月には第7号機に更新しています。

現在のコンピュータシステムは、ベクトル演算処理を超高速で行う256 VE(Vector Engine)のベクトル処理用計算機(NEC製SX-Aurora TSUBASA A511-64、総理論演算性能622.8 TFLOPS)を中心としたシステムです。システムの中心となっているベクトル処理用計算機は、地球環境シミュレーションなどの大規模計算に必要な超高速ベクトル演算能力と大容量メモリを有しています。また、スカラー処理用計算機(HPE製Apollo 2000、総理論演算性能86.0 TFLOPS)や実効容量22 PBの大容量ファイルシステムなども導入して多様な計算ニーズや膨大な演算結果の保存に対応しています。これらのシステムは各研究棟を結ぶ所内ネットワークを通じて利用可能となっています。

ベクトル処理用計算機(SX-Aurora TSUBASA、2020年3月より稼働
スカラー処理用計算機(Apollo 2000)および大容量ファイルシステム(2020年3月より稼働
ノード数 256 VEノード
総CPUコア数 2048
最大ベクトル演算性能 622.8 TFLOPS (1秒間に622.8兆回の浮動小数点演算が可能)
(2048 CPUコア × 304 GFLOPS)
総主記憶容量 12TiB
ノード間最大データ転送性能 12.5 GB/秒(双方向)× 2
OS CentOS 7
コンパイラ NEC SDK for VE
ライブラリ NetCDF、地球流体電脳ライブラリ(DCL)など
ツール GTOOL、GrADSなど

利用研究

スーパーコンピュータの運用研究課題は、所内外の専門家からなる「研究利用専門委員会」の意見を反映させて採択しています。また、本システムを利用した地球環境研究の幅広い紹介、利用者間の情報交換などを目的として、研究成果をNIES Supercomputer Annual Report(年報)およびMonograph Reportとして刊行しています。

令和5年度スーパーコンピュータ研究課題および代表者(9課題)

スーパーコンピュータの利用について

国立環境研究所スーパーコンピュータは、毎年実施される公募に応募し、審査を経て採択された研究課題の課題メンバーのみが利用できます。

令和6(2024)年度国立環境研究所スーパーコンピュータシステム(ベクトル機)利用研究の募集について

スーパーコンピュータ利用研究報告会

スーパーコンピュータの利用研究課題は、毎年秋に開催されるスーパーコンピュータ利用研究報告会にて中間報告並びに事後報告を行っています。この報告会は全国の利用研究者間の貴重な情報交換の場でもあり、毎年多くの方々にご参加いただいております。以下に、終了した利用研究報告会のプログラムと発表要旨および発表資料(発表者より希望があった課題のみ)を掲載しています。

年報

Monograph Report

研究成果の例

スーパーコンピュータシステムは、大気や海洋における複雑な自然現象の再現や予測を長期かつ全球的にシミュレーションすることや、地球上の生物個体や環境の情報を過去から現在にわたり蓄積して解析する膨大な処理に使われるなど、地球環境の中で起こるさまざまな現象・問題を扱う研究に利用されています。

将来の地球温暖化により地表付近の気温がどのように変化するか、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が想定している最新シナリオ毎に数値シミュレーションを行いました。また、福島第一原子力発電所事故の結果放出された放射性物質の海域での動態解明と将来予測など、幅広い分野で大きな成果を上げています。