CGERリポート

CGER’S SUPERCOMPUTER MONOGRAPH REPORT Vol.14

Development of Process-based NICE Model and Simulation of Ecosystem Dynamics in the Catchment of East Asia (Part II)

Tadanobu Nakayama [Asian Environment Research Group, National Institute for Environmental Studies (NIES)]

PDFをご覧いただくには別途対応アプリケーションが必要になる場合があります

東アジア地域では様々な人間活動に伴って流域の生態系機能が急激に変化しており、地球環境の保全及び自然と調和した社会の実現は近年ますます重要な課題になってきている。持続可能な発展のためには、生態系メカニズムの定量化及びこれまでに損なわれてきた自然環境を回復するための再生事業は有効である。現地観測及び衛星データ解析との統合による数値モデルの開発は、非常に強力なツールとなり得る(図1)。

図1 グリッドモデル・現地観測・衛星データ解析の統合の概念図。

本モノグラフ(Part II)は、2006年に発行されたVol.11(Part I)の続版であり、人間活動が周辺環境に大きな影響を及ぼしてきた日本の代表的な流域を対象とする。日本では自然再生推進法が2005年1月に制定され、人間活動と生態系の共生関係を促進するための様々な対策がなされてきている。3次元グリッド型の統合型流域管理NICE(NIES Integrated Catchment-based Eco-hydrology)モデル(図2)の開発及び流域生態系のシミュレーションは、流域の定量的評価のためにも非常に重要である。

図2 執筆者が中心になって開発してきた統合型流域環境管理NICE(NIES Integrated Catchment-based Eco-hydrology)モデルの概念図。水・熱収支、物質輸送、植生増殖プロセスをインタラクティブに解くシステムになっている。

本モノグラフ(Part II)では、自然・都市再生事業が行われている流域へのNICEモデルの適用事例として、これまで行政対策上もほとんど無視されてきた地下水湧き出しが霞ヶ浦の水質に及ぼす影響(図3)、シナリオ条件下での関東平野における地下水位変化の予測シミュレーション(図4)、及び、釧路湿原の乾燥化の一因と考えられているハンノキ侵入の再現シミュレーション(図5)、等について紹介している。

図3 (a) 観測データの補間によって作成した地下水中の窒素濃度分布、(b) 地下水湧き出し量のシミュレーション結果、(c) 地下水由来の窒素負荷量のシミュレーション結果。これまで行政対策上もほとんど無視されてきた地下水由来の栄養塩負荷量は霞ヶ浦の水質に大きな影響を及ぼすことがシミュレーションによって解明された。
図4 関東平野における4つのシナリオ(エコシステムサービス用地の適地選定)のもとでの地下水位変化の予測シミュレーション結果。東京都心部における地下構造物は流域の水循環に大きな影響を及ぼすことが明らかになった。
図5 釧路湿原におけるハンノキ侵入の再現シミュレーション結果。シミュレーション結果は既存の観測データを良好に再現しており、湿原の乾燥化とハンノキ侵入の関係がNICEモデル内部のメカニズムとして組み込まれていることを示している。

現在、NICEモデルは東アジア地域における人間活動と水・熱・物質循環の関係をさらに評価することを目的として進化しており、モデル成熟段階での成果については今後Part III以降で紹介する予定である。