【最新の研究成果】 成層圏エアロゾルの長期変動:つくばとニュージーランド・ローダーにおける観測
成層圏エアロゾル(大気中を浮遊する微粒子)は、地球の放射収支、成層圏オゾン化学、大気循環に影響を与えるため、その分布を観測することは重要です。地上ライダーによる成層圏エアロゾルの鉛直分布の観測を、つくばでは1982年から気象研究所が、ニュージーランド・ローダーでは1992年から気象研究所とニュージーランド国立大気水圏研究所 (National Institute of Water and Atmospheric Research)が開始し、国立環境研究所が2009年に温室効果ガス観測技術衛星GOSATシリーズプロダクトの検証のためにローダーの観測に加わりました。図1に現在使用しているつくばとローダーのライダーの写真を示します。今回は最近20年(2003年~2024年)の観測結果を紹介します。
ライダーによる観測から、成層圏エアロゾルの気柱量(後方散乱係数の高度積算値IBC(16.5-33 km))は大規模な火山噴火や森林火災の後に数回増加していることが分かりました(図2の橙色と赤色の線)。つくばでは2019年のライコケ火山噴火後、ローダーでは2019/20年のオーストラリアの森林火災後に最大の増加を観測しました。増加したエアロゾルの量は、1~2年で平穏時のレベルに戻りました。また、エアロゾル粒子の非球形度に関するデータ(偏光解消度、図2の青色線)から、火山噴火後に増加したエアロゾルには火山灰と考えられる非球形粒子が含まれており、それらは数週間以内の早さで成層圏から除去されるか液体粒子に溶解または被覆されて球形化したことが示唆されました。一方で、大規模な森林火災後に増加したエアロゾルにも燃焼煙粒子と考えられる非球形粒子が含まれていることが分かりました。しかし、火山噴火後の場合とは異なり、非球形粒子は数年間成層圏に留まったことが示唆されました。エアロゾルが大気放射や化学過程に与える影響はその形状や化学組成、大きさ等によって異なるため、今回得られた観測結果はエアロゾルの気候影響を評価するための貴重なデータとなると考えられます。
今後も観測を継続し、成層圏エアロゾルが気候に与える影響やGOSATシリーズによる温室効果ガスカラム平均濃度推定値に与える影響を明らかにしていきたいと考えています。



参考論文:Sakai, T., O. Uchino, T. Nagai, B. Liley, R. Querel, I. Morino, Y. Jin, T. Fujimoto, E. Oikawa, N. Oshima, 2025: Stratospheric aerosol backscatter and depolarization ratio observed with ground-based lidar at Tsukuba, Japan, and Lauder, New Zealand, J. Geophysical Research: Atmosphere, 130, e2024JD041329. doi:10.1029/2024JD041329.