令和6年度波照間小中学校エコスクール報告
国立環境研究所は、北海道と沖縄に温室効果ガスや大気汚染物質のモニタリングステーション(以下、ステーション)を設置して気候変動や大気環境などの研究を行っています。そのうち1992年に最初に設置されたステーションが、八重山諸島の一つで、日本で最南端の有人島である波照間島にあります。地球環境研究センターニュース2024年9月号「貴重な環境におかれるステーションでのエコスクール」では、同じく北海道落石岬に設置しているステーションにおけるエコスクールをご報告しましたが、今回は波照間島でのエコスクールの様子をご紹介します。
【波照間島でのエコスクール】
波照間島では2017年から二年に1度、波照間小中学校の小学生5、6年生を対象にエコスクールを実施しています。エコスクールは学校の教室での授業と、ステーション見学の二本立てで、波照間島での観測がどのような役割を担っているか、どのような研究結果が得られているかを説明しました。

~小学校での授業~
今回のエコスクールには小学5、6年生13名が参加しました。まずはステーションに行く前に、大気・海洋モニタリング推進室の町田室長と笹川主幹研究員から、授業を受けます。外部から来た先生に、子どもたちも少し緊張した様子でした。

町田室長からは「モニタリングステーションで観測された温室効果ガス」についての授業。観測がいつから行われていて、施設内がどうなっているのか、写真を交えて説明しました。町田室長から配られたワークシートに、生徒たちは一生懸命穴埋め問題に取り組んでいました。二酸化炭素(CO2)の濃度が一年を通じてなぜ変動するのか、先生も含めてクイズに参加。正誤に一喜一憂しながら楽しんでいました。Nature(ネイチャー)という世界的科学雑誌に、“HATERUMA”の名前があると紹介すると、先生も生徒も驚いていました。

続いて笹川主幹研究員からは大人でも知らない人が多いPM2.5 について説明しました。PM2.5のPMとは何の略なのか、何からできているのか、笹川主幹研究員のお話には先生方も教室の後方で真剣に聞き入っていました。授業のはじめはクラスのほとんどの子がPM2.5という言葉を聞きなれない様子でしたが、ワークシートを全て埋められている子ばかりでした。
授業が終わり、普段は遠くから眺めるだけの観測タワーに登れると知って大はしゃぎする子どもたち。島の東端にあるステーションに移動しました。

~モニタリングステーションでの見学~
ステーションでは2班に分かれて、ステーション内部と観測タワーを交互に見学しました。
内部見学では、事前に教室で習ったことを思い出しながら、たくさんの分析器を興味津々にながめていました。見学用に用意されたメモには文字がびっしり。イラストを描きながらメモする子もいました。また、学校の先生方もたくさん質問をしてくださいました。

内部見学が終わると、お待ちかねの実験です。
BTB溶液を使って、酸性、中性、アルカリ性について学びます。そっと息を吹きかけたりするだけで海水の色が変化する様子に新鮮な驚きの反応。子供たちにとって酸性やアルカリ性は授業ではまだ習っていない内容でしたが、再び学校で学んだ際にはきっとこのエコスクールを思い出してくれると期待しましょう。

海水が二酸化炭素を吸収し酸性となりBTB液は黄色に変化します。
そして、エコスクールのメインイベントであるタワー見学。
タワーに登る際、怖がっている子もいましたが、最後まで登りきると、島全体だけでなく、西表島まで見える景色に皆が感動していました。どうして波照間島で測定するのか?という理由について、授業で説明した「空気がきれいだから」に補足して、「海に囲まれていて近くに汚染物質を排出するものが少なく、地球全体の均質な成分の空気を測定できるから」ということをあらためて説明。少し難しい説明ですが、実際に島の全景を眺めながら実感してもらえたのではないかと思います。このような条件が揃っていて、かつ緯度の異なる北海道(落石岬)と沖縄(波照間島)でそれぞれ観測を行うことで、精度の高い測定を行うことができています。


【わたしたち研究所の役割】
見学終了後、担任の先生からは「世界で意味のある研究がされていることを学べましたね。皆さんが今勉強している、理科や社会、算数のお勉強が全て、このような研究につながっています。これからも勉強頑張りましょうね」というお話がありました。また生徒代表からは、「とても楽しかった、実験をもっとたくさんやりたかった。」との感想をもらいました。
わたしたち国環研の使命は、もちろん研究成果を世に出し環境問題の解決につなげることが第一ですが、公的な研究機関として社会にその活動を還元することも同時に求められていると考えます。エコスクールをとおして、将来、地球環境や科学の研究に関心を持つ子どもたちが少しでも出てきてくれることを願います。また今回のエコスクールでは学校の先生方にも非常に熱心に授業を聞いていただき、多くの質問をしていただくことができ、国環研の活動を伝えられたのではないかと思います。この先、波照間島以外の学校で教えられる際でも何かの折に沖縄県でこのような大事な研究が行われていること、地球環境のことを触れていただくことがあれば、エコスクールの活動の効果がさらに広がっていくのではないかと思っています。
【おわりに(筆者より)】
わたしも小学校5年生のころ参加した、水についての環境フォーラムで、環境問題に興味を持ち、現在の仕事を選びました。エコスクールの目的は、子どもたちの理解はもちろん、ご家族の方にも環境問題や、国環研の研究を知ってもらうことです。今回参加してくれた小学生たちや、そのご家族が、これからも環境問題に対しての気持ちを忘れないでくれるといいなと思います。(野上)
大気環境の研究では長期的なモニタリングはとても重要ですが、離島にある観測施設を長期間維持するためには、多くの人的、物的なコストがかけられています。実際に施設には塩害による腐食が多々見られ、頻繁に修繕しなければいけません。研究所の人間が頻繁に訪れることは難しいため、 管理のためには地元の協力も不可欠です。今後もエコスクールのような活動をとおして、国環研がこのような場所で観測や研究を継続している重要性を一般社会の方々に少しでも伝えていきたいと思います。(吉村)