REPORT2024年9月号 Vol. 35 No. 6(通巻406号)

第20回宇宙からの温室効果ガス観測に関する国際ワークショップ(IWGGMS-20)参加報告

  • 吉田幸生 (地球システム領域衛星観測研究室 主任研究員)

2024年5月29日から31日にかけて、第20回宇宙からの温室効果ガス観測に関する国際ワークショップ (20th International Workshop on Greenhouse Gas Measurements from Space: IWGGMS-20) がアメリカ大気研究センター (National Center for Atmospheric Research: NCAR)、コロラド州立大学(Colorado State University: CSU)等の共催により米国コロラド州ボルダーで開催されました。当ワークショップは日本の温室効果ガス観測技術衛星GOSATプロジェクトと米国の軌道上炭素観測衛星OCOプロジェクトの研究者間の情報交換の場として2004年4月に東京で第1回が開催されて以降、概ね年1回の頻度で日本、欧州、北米の研究機関・大学等が持ち回りでホストを担当し現地開催されてきました。COVID-19によるパンデミックの影響を受け、完全オンライン開催(第16回(2020年)、第17回(2021年))を経て、オンラインと現地のハイブリッド開催(第18回(2022年)~)へと移行しています。第20回の今回もハイブリッド開催でしたが、口頭発表は9割以上の発表者が現地参加、前回まではオンラインであったポスター発表も現地での対面形式のみとなり、パンデミック前の形式に近い形での開催となりました。

IWGGMS-20はNCARのH. Worden氏とCSUのC. O’Dell氏の挨拶で始まりました。59件の口頭発表と74件のポスター発表が(1)現行衛星ミッション、(2)校正・検証、(3)局所~領域スケールの排出源、(4)アルゴリズム・先験値・プロダクト、(5)領域~全球フラックス、(6)将来衛星ミッションの計6つのセッションに分けて行われました。以下、興味深かった発表について簡単に紹介します。

セッション(1)ではIWGGMSではすでにお馴染みとなったGOSAT、GOSAT-2、OCO-2/-3、TROPOMI、GHGSatに加え、新たにACDL(Aerosol and Carbon dioxide Detection Lidar) 、EMIT、MethaneSATに関する報告がありました。ACDLは2022年4月に打上げられた中国のDQ-1衛星に搭載されている世界初の衛星搭載能動型温室効果ガスセンサです。二酸化炭素の吸収の強い波長とその近傍の弱い波長に対応する2つの波長のレーザー光を衛星から地表に向けて照射し、反射してきた2波長の光の強度比を利用することで二酸化炭素カラム平均濃度を求めることができます。GOSAT以降主流であった太陽光を光源とする受動型センサは太陽が当たる昼半球が観測対象域で、季節に応じてその緯度範囲が変化するのに対し、能動型センサは自身が光源となるため、太陽光の有無に関わらず観測することが可能という利点があります。EMIT(Earth Surface Mineral Dust Source Investigation)は2022年7月に打上げられ国際宇宙ステーションに搭載されたイメージング分光計で刈幅80 kmを60 mという高い空間分解能で観測します。元々鉱物ダストの起源を調べる目的で開発されたセンサでしたが、観測波長帯に二酸化炭素とメタンの吸収帯が含まれており、そのデータを解析することで点排出源周辺の高濃度域を捉えることができます。MethaneSatは2024年3月4日に打上げられたばかりの衛星です。空間分解能100 m x 400 mで200 kmの刈幅をもつMethaneSatは、GHGSatやEMITのような数十mの空間分解能で数十kmの刈幅を持つ局所的な排出源の観測に特化したセンサとGOSAT、GOSAT-2、OCO-2/-3、 TROPOMI のような数~10 kmの空間分解能で全球を観測するセンサの中間に位置しており、比較的小規模な地域発生源の排出を網羅的に捉えることができると期待されます。

セッション(2)では衛星から得られたカラム平均気体濃度の地上検証データとして広く用いられている全炭素カラム観測ネットワーク(Total Carbon Column Observing Network: TCCON)に関する最新の知見が報告されました。TCCONでは地上設置の高波長分解能フーリエ変換分光計で観測した太陽直達光のスペクトルをTCCON共通の解析プログラムを用いて解析することで、二酸化炭素やメタン、酸素等のカラム量を求めています。大気中の酸素濃度は二酸化炭素の増減に伴い僅かな変化を示すものの(10年間で約40ppm(0.02%)減少)十分に安定していると見なせることから、TCCONでは対象気体のカラム平均濃度は対象気体の気柱量(単位面積当たりの仮想的な空気の柱内に存在する対象気体の分子の総数)と酸素の気柱量の比に酸素の平均濃度0.2095を乗じた値として計算してきました。しかしながら観測の長期化に伴い、大気中の二酸化炭素濃度も増加していることから、二酸化炭素カラム平均濃度XCO2の計算において酸素平均濃度の変化も考慮することになりました(10年間で約0.08ppmの変化)。最新の解析プログラム(GGG2020)で処理した結果には従来通り酸素平均濃度を固定値として計算されたXCO2に加え、酸素平均濃度の時間変化を考慮して計算されたXCO2も格納しているとのことです。

セッション(3)では米国の静止気象衛星GOES(Geostationary Operational Environmental Satellite)によるメタンの大規模排出観測について報告がありました。静止衛星による温室効果ガス観測としておそらく世界初の事例かと思われます。GOES衛星搭載のABI(Advanced Baseline Imager)は空間分解能2 kmで米国本土を5-10分に一度の頻度で連続的に観測することができるので、非常に強力な観測手段となるでしょう。なお、日本の静止気象衛星ひまわりに搭載されているAHI(Advanced Himawari Imager)もABIと同等の機能・性能を有しているため、同様の解析が可能だろうとのことでした。

セッション(5)では極域におけるメタン放出に関する報告がありました。永久凍土には二酸化炭素やメタンが大量に含まれており、その融解に伴い大気中にこれらの気体が放出されることが懸念されています。TROPOMIにより観測された極域のXCH4の偏差と土壌温度の偏差を比較したところ、ハドソン湾において両者が正の偏差を示す領域が類似しており、永久凍土からのメタン放出が示唆されるとのことでした。

セッション(6)では雲により衛星観測が困難な熱帯域に焦点を当てた衛星ミッションの提案がありました。熱帯域は雲の出現率が高く、既存の衛星ではカラム平均気体濃度の有効データ取得率が極めて低いことがわかっています。雲の出現率が比較的低い時間帯に観測時刻をずらしたり、センサの刈幅を広くして観測機会を増やしたりしてもあまり効果がなく、空間分解能を30 m程度まで高くすることが熱帯観測には最も有効であるとのことでした。

さて、本ワークショップの最後に国立環境研究所の谷本地球システム領域副領域長から次回のIWGGMS-21は日本がホスト国として2025年5月下旬~6月中旬に香川県高松市で開催することが案内されました。順調にいけばGOSATシリーズの3号機となるGOSAT-GWの観測が始まっており、関連する報告も期待されます。

写真 会場となったNCAR Center Green 1 Building。手前の屋根付きスペースでは昼食をとりながら様々な情報交換がなされた。
写真 会場となったNCAR Center Green 1 Building。手前の屋根付きスペースでは昼食をとりながら様々な情報交換がなされた。