RESEARCH2024年7月号 Vol. 35 No. 4(通巻404号)

わが国の2022年度(令和4年度)の温室効果ガス排出量について ~総排出量は1990年度以降過去最小を更新~

  • 小坂尚史(地球環境研究センター温室効果ガスインベントリオフィス 高度技能専門員)
  • 畠中エルザ(地球環境研究センター温室効果ガスインベントリオフィス マネジャー)

はじめに

わが国は国連気候変動枠組条約(United Nations Framework Convention on Climate Change 以下、条約)等のもと、国際的な責務として日本国の温室効果ガスの排出・吸収量を算定しています。2024年からはパリ協定のもとでの報告が始まりました。

国立環境研究所 地球システム領域 地球環境研究センター 温室効果ガスインベントリオフィス(Greenhouse Gas Inventory Office of Japan 以下、GIO)では、わが国の温室効果ガス排出・吸収量を算定し、それをとりまとめた目録(インベントリ)を毎年作成し、国連に報告しています。それと同時に、環境省と共同で報道発表を行っています。今年は2024年4月12日に、2022年度の排出・吸収量を公表しました。その概要を含め、わが国の状況について紹介します*1

概況

2022年度の温室効果ガス総排出量*2は11億3,500万トン(CO2換算、以下省略)となりました。2022年度のNDC*3における吸収量*4は5,020万トンで、これを2022年度の総排出量から差し引くと10億8,500万トンとなり、2013年度*5の総排出量と比べて22.9%の減少となりました。

温室効果ガスの総排出量の推移と増減要因

1990年度*6から2022年度までのわが国の温室効果ガスの排出量の推移を図1および表1に示しました。

2022年度の総排出量は2013年度と比べて2億7,190万トン(19.3%)の減少、前年度と比べて2,860万トン(2.5%)減で、1990年度以降過去最小を更新しました。
前年度と比べて総排出量が減少した主な要因としては、発電電力量の減少及び鉄鋼業における生産量の減少等によるエネルギー消費量の減少があげられます。
2013年度以降、総排出量が減少した主な要因としては、エネルギー消費量の減少(省エネの進展等)及び電力の低炭素化(再エネ拡大及び原発再稼働)に伴う電力由来のCO2排出量の減少があげられます。

図1 わが国の総排出量と各温室効果ガスの排出量の推移(1990~2022年度)
図1 わが国の総排出量と各温室効果ガスの排出量の推移(1990~2022年度)
表1 各温室効果ガス排出量の推移(1990、1995、2000、2005、2010、2013、2015、2018~2022年度)
表1 各温室効果ガス排出量の推移(1990、1995、2000、2005、2010、2013、2015、2018~2022年度)
※LULUCF分野の排出・吸収量は除く

各温室効果ガスの前年度および2013年度からの排出量の増減要因

次にガスの種類別に前年度及び2013年度と比較した排出量増減の詳細を紹介します。

(1)二酸化炭素(CO2

2022年度のCO2排出量は10億3,700万トンであり、前年度と比べて2,700万トン(2.5%)減少しました。また、2013年度と比べて2億8,090万トン(21.3%)減少しました。
表1および図2に部門別(電気・熱配分後)*7の推移を示しました。

図2 二酸化炭素の部門別排出量(電気・熱配分後)の推移(1990~2022年度)
図2 二酸化炭素の部門別排出量(電気・熱配分後)の推移(1990~2022年度)

2022年度の産業部門からの排出量*8は3億5,200万トンであり、前年度比で1,970万トン(5.3%)減少、2013年度比で1億1,100万トン(24.0%)減少しました。
前年度からの減少は、鉄鋼業における生産量が減少したことから、エネルギー消費量が減少したこと等によります。2013年度からの減少については、電力のCO2排出原単位(電力消費量当たりのCO2排出量)が改善したこと、製造業における生産量が減少したこと等があげられます。

2022年度の運輸部門からの排出量は1億9,200万トンであり、前年度比で720万トン(3.9%)増加、2013年度比で3,240万トン(14.5%)減少しました。
前年度からの増加は、新型コロナウイルス感染症で落ち込んでいた経済の回復等により、旅客輸送量が増加したこと等によります。2013年度からの排出量の減少は、旅客輸送、貨物輸送ともに輸送量が新型コロナウイルス感染症の拡大以前の水準を引き続き下回っていること等があげられます。2019年度までは自動車の燃費の改善等により旅客輸送においてエネルギー消費原単位(輸送量当たりのエネルギー消費量)が改善したことも減少に寄与しました。
2022年度の業務その他部門*9からの排出量は1億7,900万トンであり、前年度比で790万トン(4.2%)減少、2013年度比で5,530万トン(23.6%)減少しました。
前年度からの減少は、石油製品や電力の消費量が減少したこと等によります。2013年度からの排出量の減少は、電力のCO2排出原単位の改善により電力消費に伴う排出量が減少したこと、省エネの進展等によりエネルギー消費原単位(第3次産業活動指数当たりのエネルギー消費量)が改善したため、エネルギー消費量が減少したこと等があげられます。

2022年度の家庭部門からの排出量は1億5,800万トンであり、前年度比で220万トン(1.4%)減少、2013年度比で5,140万トン(24.5%)減少しました。
前年度からの減少は、冬季が2021年度より暖かく、暖房等の需要が減少したことによる、エネルギー消費量の減少等によります。2013年度からの排出量の減少は、省エネの進展等によりエネルギー消費原単位(世帯当たりのエネルギー消費量)が改善しエネルギー消費量が減少したこと、電力のCO2排出原単位が改善したこと等によります。
2022年度の非エネルギー起源CO2排出量*10は7,260万トンであり、前年度比で400万トン(5.2%)減少、2013年度比で960万トン(11.7%)減少しました(表1)。前年度及び2013年度からの排出量の減少は、セメント生産量の減少等により工業プロセス及び製品の使用分野からの排出量が減少したこと等によります。

(2)メタン(CH4)、一酸化二窒素(N2O)、ハイドロフルオロカーボン類(HFCs)、パーフルオロカーボン類(PFCs)、六ふっ化硫黄(SF6)、三ふっ化窒素(NF3

CO2以外のガスについては、図1および表1に推移を示しました。 2022年度のCH4排出量(CO2換算)は2,990万トンで、前年度比で51万トン(1.7%)減少、2013年度比で280万トン(8.6%)減少しました。前年度からの減少は、農業分野(稲作等)における排出量が減少したこと等によります。2013年度からの減少は、廃棄物分野(埋立等)における排出量が減少したこと等によります。
2022年度のN2O排出量(CO2換算)は1,730万トンで、前年度比で34万トン(1.9%)減少、2013年度比で260万トン(13.3%)減少しました。前年度及び2013年度からの減少は、燃料の燃焼・漏出カテゴリーにおいて排出量が減少したこと等によります。
2022年のHFCs、PFCs、SF6、NF3のそれぞれの排出量(CO2換算)は4,610万トン、300万トン、210万トン、30万トンでした。これら4種類のふっ素を含むガスのうちHFCsが最も多くを占めています。HFCs排出量は前年比で80万トン(1.6%)減少、2013年比で1,580万トン(52.1%)増加しました。
HFCs排出量の前年からの減少は、業務用冷凍空調機器における低GWP冷媒への転換等による稼働時排出量の減少と機器廃棄時のHFCs回収量の増加等によります。HFCs排出量の2013年からの増加は、冷蔵庫やエアコンの冷媒として、オゾン層破壊物質であるハイドロクロロフルオロカーボン類(HCFCs)の代わりにHFCsが使われるようになったこと等によります。HFCs排出量はわが国の温室効果ガスの中で唯一、顕著な増加傾向にありましたが、減少に転じました。

おわりに

2020年以降の地球温暖化防止の国際枠組である「パリ協定」は、産業革命以降の平均気温上昇を2℃より十分低く抑え、1.5℃未満を目指す努力を追求するという世界共通の長期目標を掲げています。そのために、各国は今世紀後半に温室効果ガス排出量を実質ゼロ(カーボンニュートラル)にすることを目指しています。
パリ協定には京都議定書のように法的拘束力のある数値目標はなく、各国がNDCを表明し、排出量や目標達成の進捗状況について透明性を担保した形で報告し、世界全体での進捗確認を繰り返すことで排出を削減するという考え方に基づいています。
パリ協定の締約国は、先進国だけでなく途上国*11も、2024年中にパリ協定のもとでのインベントリの提出を始める義務があります。今回提出インベントリはわが国においてもパリ協定のもとでの初めてのインベントリとなります。地球温暖化係数がIPCC第4次評価報告書の値から第5次評価報告書の値に変わったほか、報告書の名称がNIR(National Inventory Report)からNID(National Inventory Document)に変わり、章立ても変更になりました。また、数値を報告する表の様式がCRF(Common Reporting Format)からCRT(Common Reporting Tables)に変わります。

わが国は温室効果ガス排出量を2030年度に2013年度比46%削減し、2050年までにカーボンニュートラルの実現を目指すという目標を掲げています。
私たちGIOが作成している温室効果ガスインベントリは、目標の進捗状況を測る指標として活用されています。排出削減策の効果をインベントリに反映することも含め、排出・吸収量の正確な把握は重要であることから、今後も算定方法を継続的に見直していく予定です。
本稿に使用した2022年度の温室効果ガス排出・吸収量に関する情報をGIOのウェブサイトにて公開しております〈https://www.nies.go.jp/gio/index.html〉。今後もウェブサイトや報告書において、情報をより利用しやすく、説明をわかりやすくし、公開情報の改善を図っていく予定です。