最新の研究成果 北極海で観測された大気中の黒色炭素エアロゾル(ブラックカーボン)の濃度と起源
北極における気温の上昇速度は世界平均の 3 倍以上であり、その結果、北極の海氷面積が急速に減少し、生態系に変化が生じています。 黒色炭素エアロゾル (BC) は、CO2 に次いで2 番目に大きな正の放射強制力を有し、特に北極における急速な温暖化、ひいては雪と海氷の融解の原因となっています。従って、北極における大気中のBC濃度を減らすことは、北極の急速な気候変動を緩和する効果的な方法となり得ます。BCエアロゾルの多くは東アジアから大気中に排出されており、北極海にも運ばれています。また、シベリアやアラスカの森林火災で放出されたBCも運ばれています。
一方、北極海での現地観測は困難です。そこで本研究では、韓国極地研究所(KOPRI)と協力して船舶を用いた観測を行い、北極海上空の大気中のBCの濃度分布とその起源(どこから運ばれて来たのか)を解析しました。
具体的には、研究観測船Araon(アラオン)にBC分析計を搭載して西北極海の大気中のBC濃度を観測しました。2016年から2020年にかけて夏と初秋に観測を行い、西北極海域のBC濃度レベルとBC濃度の高濃度イベントを調べました。
図1は西北極海におけるBCの質量濃度の空間分布、および10のイベントを示しています。2019年のBC濃度は (>70 ng m–3)は、他の年(~10 ng m–3)に比べて明らかに高いことが分かりました。BCがどこから運ばれてきたのかを調べるため、全球化学輸送モデルのシミュレーションを行ったところ、2019年にはシベリアで森林火災が多く発生し、北極海に運ばれていたことが分かりました。こうした輸送は地表近くの場合もある一方、対流圏中部の場合もありました。
今回の研究成果は、モデルの検証、北極圏の気候変動の予測、北極海の大気質研究の指針として役立つことが期待されます。