3年ぶりに落石エコスクールを現地で開催しました。
令和4年6月27日、北海道根室振興局が主催する落石エコスクールが、3年ぶりに地球環境モニタリングステーション落石岬において現地開催されました。国立環境研究所からは、地球環境研究センターの町田、林と、総務部会計課の村本、杉本の4名が参加しました。詳細な内容と参加者の生の感想はこの後の村本、杉本両氏の報告文をご覧ください。
北海道には梅雨はないものの6月の道東地方は霧に覆われる日が多いのですが、エコスクール当日は天気に恵まれ、小学生たちは汗をかきながら現地まで歩いてやってきました。小学生のみならず引率者を含めた見学者の目の輝きを見ると、やはり現地で本物の装置や設備を見ながら環境について学ぶことの効果や影響は大きいと感じられるエコスクールとなりました。コロナ禍の困難な社会状況の中、タイミングを見極めて開催に尽力していただいた根室振興局ならびに関係の皆様に感謝いたします。
あらためて実感、エコスクールの役割
1.はじめに: 3年ぶりの現地開催となったエコスクール
国立環境研究所は、子どもたちに環境保全の重要さを理解してもらうため、北海道根室市落石地区の小学校(根室市立落石小学校と海星小学校の2校)を対象にしたエコスクールを例年環境月間である6月に北海道根室振興局の要請及び根室市の支援の下開催しています。しかし、令和2年度は新型コロナウイルス感染のまん延のため中止、令和3年度は同理由でリモート開催となり、地球環境モニタリングステーション落石岬(以下「ステーション」という。)の現地見学会は中継での開催となっていました。今般、同ウイルスの感染状況も落ち着き、また各種制限の緩和により、令和4年度は3年ぶりに現地開催を行うことができました。
これまで、両校を卒業する全ての生徒が一度はステーションを見学できるよう1年おきにエコスクール開催学校を変えていましたが、久しぶりの現地開催に当たり、今年度は両校を対象に開催することとなりました。またエコスクールは小学校での学習会とステーション見学会の2部構成ですが、両校開催に当たり、国立環境研究所は小学校での学習会には参加せず、ステーション見学会のみを担当することとなりました。とはいえ、この時期の落石岬は霧が出ることも多く、無事に開催できるか、ぎりぎりまで心配する時間が続きました。
2.6月27日エコスクール当日: 楽しみながらCO2の季節変動を理解する子どもたち
当日は天気に恵まれ、予定どおりエコスクールを現地にて開催することができました。落石岬のステーション周辺は許可された車両しか乗り込めないため、小学生を含め現地見学一行は車両立入禁止のゲートから約1.7kmの道のりを歩かねばなりません。しかし子どもたちはたくましく、楽しそうに会話をしながら歩いていました(写真1)。道中、エゾシカの群れが姿を見せましたが、現地の子どもはもう慣れっこになっているのか、リアクションがとても低かったのが関東地方に住む私たちには衝撃的でした。また落石岬には、アフラモイチャシというチャシ跡(16-18世紀頃に砦や見張り台などに使われたとされる史跡)があるとのことでしたが、実際に訪れてみると、断崖絶壁の海岸線、台地に広がる草原、そしてそこを駆け巡るエゾシカの姿には神秘的なものさえも感じたことから、チャシは古くには聖域的な意味合いを持っていたという説にも頷けました。
ステーションに到着すると、町田室長よりステーション内に設置されている観測機器についてそれぞれ何を測定しているのかということや、ここで得られたデータが世界中の研究に役立っていることなどの説明を受けました(写真2)。子どもたちはその説明に耳を傾けながらメモを取っており、中には前の子の背中を画板代わりにして書くくらい熱心にメモを取っていたことがとても印象に残っています。
次に隣の倉庫棟にて、落石岬で観測された20年間の二酸化炭素(CO2)濃度の観測結果を、町田室長が壁に貼ったグラフで説明しました。季節によってCO2濃度が変動していることを参加した子どもたち一人ひとりの誕生年月のCO2濃度を使って説明することで、子どもたちも楽しそうに話を聞いていました(写真3)。そしてこの季節によるCO2濃度の変動が植物の光合成と呼吸によるものであり、こうした変動を繰り返しながら化石燃料の燃焼によって毎年CO2濃度が増加していることを学んでもらいました。
そして、大気放出されたCO2の一部が海に吸収されていることを説明した上で、体験学習として海水によるCO2吸収実験を屋外の風通しの良い場所で行いました。これは、海水を入れた小ビンに指示薬のBTB溶液を滴下して弱アルカリ性である海水が青色を示したところで小ビンに息を吹き込んだ後、蓋をして振ると呼気に含まれていたCO2を吸収して海水が酸性になる(水の色が黄色になる)ことを確かめる実験です。黄色になった酸性の海水に今度は新鮮な空気を入れて混ぜると(CO2を海水から放出すると)、また元の青色に戻ります。
お手本として先に実践する町田室長が小ビンを振る際、子どもたちが手拍子を打ちながら数を数えており、色が実際に変わると歓声が上がりました(写真4)。そして子どもたちが実際に自分たちで実験する番になると、一生懸命に小ビンを振る姿や、何度もビンに息を吹きかけたり、新鮮な空気を入れたりする姿から実験を楽しみながら行ってくれていると感じました(写真5)。落石地区に住む子どもたちにとって身近な海がCO2を吸収していることを楽しみながら理解してくれたようでした。
3.おわりに: エコスクールの役割を実感
私たちのように会計課に長く所属していると、自分が働いている研究所がどのような研究をし、またそれをどのように発信しているのかについて、調達書類等で間接的に知ることはあっても、身をもって触れることはほぼありません。そのような貴重な経験の機会を設けてくださったことに対し、感謝の意を申し上げます。
エコスクールは小学生が対象であり、未来を担う子どもたちが環境保全について学ぶことが目的であると思いますが、私たちのような事務職員、同行している学校の先生やその他自治体等関係者の大人たち、そして町田室長が最後に子どもたちに「帰ったらおうちの人にも見せて説明してね」と宿題を出したとおり、子どもを通じて保護者も同時に学ぶことができる機会でもあります。エコスクールの重要な役割を今回、実際に参加してみて強く感じました。
また出張期間中、地元関係機関へ挨拶させていただきましたが、このステーション一つを落石岬に置かせてもらうことに対して、多くの地元関係者の協力が必要であることを身をもって感じさせられました。モニタリングステーション事業へご理解・ご協力いただいていること、感謝の念に堪えません。
最後に、新型コロナウイルス感染症のまん延で中止されていたエコスクールの再開にご尽力いただいた北海道根室振興局と根室市、そして地元の皆様に心より感謝申し上げます。