最近の研究成果 地球温暖化による影響の連鎖を理解する
脱炭素社会を実現し、今後も変化する気候に社会が適応するためには、多くの人々が気候変動のリスクに関して理解を深めることが重要です。気候変動のリスクは一つだけでなく、さらにそれらが相互に関係しています。このため私たちの研究グループは、これまでに気候変動リスク連鎖を包括的に分かりやすく可視化する手法の開発を行いました*1。
この論文では、これまでに開発した手法によって得られた、水資源・食料・エネルギー・産業とインフラ・自然生態系・災害と安全保障・健康の7つの分野に関連するリスク連鎖の可視化結果(ネットワーク図・フローチャート)について議論することにより、気候リスク連鎖の全体像を明らかにしました(図1から図3)。
また、可視化結果を利用して行った市民対話イベント*2の実例を紹介することにより、我々の開発したネットワーク図・フローチャートの有用性や、気候リスクに関する市民対話の重要性について論じました。さらに、日本における気候変動リスク評価の概要について紹介し、気候変動リスク連鎖を評価するための今後の課題について議論しました。
パリ協定の目標の実現に向けて、EUなどは2050年でのネットゼロエミッションの達成を目標として掲げ、日本も同様の目標を宣言しました。2050年脱炭素化に向けて、今後30年で社会を変革させるためには、脱炭素化技術やインフラへの投資の拡大、炭素税などの導入、地域・市民レベルの取り組みの促進などを通じて、社会全体を大きく変えていく必要があります。
このためには、短期的・局所的な利益にとらわれず、気候変動のリスクを認識することで、環境に対する合理性を行動基準とすることが求められると思います。気候変動リスクについて深く理解することは、気候変動を重要な問題だと考え、気候変動対策に関与するモチベーションを高めることにつながります。COVID-19からの回復において、様々なリスクに対してよりレジリエントな社会を実現させることも重要です。今後も、本研究で紹介したツールのさらなる開発・改良を通して、気候変動リスクに関する人々の理解を助けることは、脱炭素社会の実現のために、非常に重要な取り組みとなると考えています。