REPORT2022年3月号 Vol. 32 No. 12(通巻376号)

国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)報告 ~パリ協定のルールブックの詳細固まる~

  • 畠中エルザ(地球環境研究センター温室効果ガスインベントリオフィス マネジャー)
  • 小坂尚史(地球環境研究センター温室効果ガスインベントリオフィス 高度技能専門員)

2021年10月31日~11月13日に、英国・グラスゴーにおいて国連気候変動枠組条約(United Nations Framework Convention on Climate Change: UNFCCC)第26回締約国会議(Conference of the Parties: COP26)、京都議定書第16回締約国会合(Conference of the Parties serving as the meeting of the Parties to the Kyoto Protocol: CMP16)およびパリ協定第3回締約国会合(Conference of the Parties serving as the meeting of the Parties to the Paris Agreement: CMA3)が開催された。

また、これと並行して、第52~55回補助機関会合(科学上および技術上の助言に関する補助機関会合: Subsidiary Body for Scientific and Technological Advice: SBSTA52-55、実施に関する補助機関会合:Subsidiary Body for Implementation: SBI52-55)*1が開催された。

今次会合では、パリ協定の長期目標である産業革命前からの気温上昇を1.5度に留めるべく努力を追求することを決議し、2030年目標を2022年中に強化することを各国に求めるなど、1.5度目標が大きくクローズアップされた。また、資金については、コペンハーゲン合意(2009年)の際の先進国による2020年までの年間1000億ドル動員の目標が達成されていないことについて深い遺憾の意が表明され、早急にこの目標を達成し2025年までその動員状況を維持するよう先進国を促すことになった。

気候変動の悪影響に伴う損失及び損害(例えば海面上昇に伴う土地の消失)については、その回避・最小化・対応のための資金調達に関する対話の枠組みであるグラスゴー対話が設定された。そして、パリ協定のルールブックについては、市場メカニズム等・透明性枠組みの詳細がようやく決定された。

本稿では、筆者らが日本政府代表団員として担当していた透明性関連の議題の概要について報告するが、上記を含むCOP26全体の概要は環境省の報道発表(https://www.env.go.jp/press/110207.html)や、国立環境研究所社会システム領域研究コラム(https://www.nies.go.jp/social/navi/colum/cop26.html)を参照されたい。また、国立環境研究所が参加したサイドイベントなどについては、地球環境研究センターニュース2022年2月号の記事(伊藤昭彦「COP26に参加して ―ジャパンパビリオンでのセミナー開催報告―」)を参照されたい。

1. 隔年透明性報告書

2018年のポーランド・カトヴィツェのCOP24では、先進国・途上国双方に要求されるパリ協定の下での隔年透明性報告書(Biennial Transparency Report:BTR)の遅くとも2024年末からの報告開始が決定されていた。

隔年透明性報告書とは、(a)国家インベントリ報告書、(b) 自国が決定する貢献(NDC)の進捗・達成状況の確認に必要な情報、(c)気候変動による影響および適応に関する情報、(d)途上国に提供された資金・技術移転・能力向上に関する支援の情報、(e)必要とされる/受領した資金・技術移転・能力向上に関する支援の情報で構成され、(a)と(b)はすべての国に報告義務があり、(c)はすべての国に報告が推奨され、(d)は先進国にのみ報告義務があり、その他の支援提供国には報告が推奨され、(e)は途上国にのみ報告が推奨されるものである。COP24では、報告書の提出期限に加え、報告内容等を規定するガイドラインが採択されていた。そのうち、インベントリ関連事項の具体的な中身は以下のとおりである。

報告書の様式

  • 国家インベントリ報告書は、隔年透明性報告書の一部としても、あるいは独立した報告書としてもよい

方法論

  • 2006年IPCCガイドライン
  • 地球温暖化係数(GWP)はIPCC第五次評価報告書の100年値

対象ガス

  • CO2、CH4、N2O、HFCs、PFCs、SF6、NF3の7ガス
  • 途上国は、CO2、CH4、N2Oの3ガス、および残り4ガスのうちNDCに含まれるガスもしくは市場メカニズム等の活動に含まれるガスもしくは過去報告したことのあるガスだけでもよい

報告期間

  • 1990年以降毎年分を報告
  • 途上国は、少なくともパリ協定4条の下でのNDCの参照年/期間を網羅しており、加えて2020年以降の毎年の報告があればよい

報告年

  • インベントリ提出年の前々年の数値まで報告
  • 途上国は、提出年の3年前までの数値報告でもよい

技術的専門家審査

  • 提出した情報は専門家により審査される

進捗に関する促進的多国間検討

  • 公開の場で(a)インベントリ、(b)NDC進捗、(d)提供した支援、(e)受領した支援について各国の代表により質疑応答が行われる

ただ、報告すべき事項の詳細(各国共通の報告表や、報告書の目次)、審査員のトレーニングプログラムはCOP24では合意されず残留課題となっていた。

2. インベントリの共通報告表等

今次COPの前の最後の対面開催の交渉だったCOP25(2019年)では、インベントリの確からしさを担保する、排出量算定の根拠情報となる活動量(燃料消費量など)を含むセクター別の背景表を用いた報告に途上国が反対して、交渉は決裂していた。途上国には元々一部事項について柔軟性条項を適用する権利があり、どのような能力的制約によるものなのか、また、どのようなスケジュールで改善策をとるのかを明示した上で、報告範囲を限定することができるという規定になっている。これを拡大解釈するような流れに先進国は反対していた。こういった大きな考え方の乖離のせいで一年を費やしたのち、残り一年で合意しなくてはいけないという状況の中、コロナ禍でCOPが延期されていたので、今回合意できなければ最初の隔年透明性報告書の報告期限に各国の準備が間に合わないという状況だった。

そのような焦りがあったため、2020年、2021年は、様々なオンライン会議やイベントが開催されたが、議論を深められないまま、今次COPを迎えていた。オンライン形式だと、出張して実施する会議とは異なり期間が決まっておらず、続けて議論できる分だけ交渉としての終わりが見えず妥協がうまく成立しないということもあったと思うが、ネット環境が悪く不利益を被るという途上国の声も大きかった。その一方で、交渉終盤では、他議題の議論が進捗したからか、議論・妥協点の模索は急速に進み、最終的に合意に至った。

透明性枠組みに関する今回の最も重要な合意は、やはり先進国・途上国共通の報告様式が採択されたことだった。インベントリ関連では、インベントリ共通報告表(common reporting tables:CRT)が、また、インベントリ報告書(national inventory document:NID)の目次が採択された。いずれも提供される情報の詳細さを担保するのが目的だが、前者は全部で60の表を含むエクセルで、提供しなくてはいけない情報量が格段に増えるため、多くの途上国は排出量などを報告できない場合はその欄に新しい注釈記号FX(flexibility)を、柔軟性条項を適用したいセルに入力して報告していく等することになる。(例:空調機器からのHFCの排出量算定のためのデータが不足しているため、活動量や排出量の欄にFXと入力する)

また、HFC等のFガス類はデータが乏しく、算定に労力がかかる場合があるため、余裕のない国は全般的にセルにFXと入力するようなケースも想定され、このような場合には関連する表全体を非表示にするオプションなども認められた。このように複雑な仕様の電子情報報告ツールになるため、また、合意そのものが遅れたため、これら報告ツールの開発は2024年6月完了を目指すことが合意された。

なお、同決定では、先進国のインベントリの提出期限は4月15日であることも再確認された。これは、取り組みの後退があってはならないという考え方に基づき、提出のタイミングが維持されたものである。

その他、対象ガスは現在先進国が報告しているものからは特段変更はないが、地球温暖化係数(GWP)は、IPCC AR5の表8.A.1に示される100年値のGWP(ただし同表内fossil CH4の値は除く)を用いることとなった。

ただ、インベントリの共通報告表に加え、削減目標への進捗評価のための報告表、資金等の支援に関する報告表も、元々は一年前に採択予定であったので、各国は今から急いで国内検討を行い、2023年(2021年までのインベントリを含む)または2024年の報告に向けて報告準備を開始する必要がある。コロナ禍でとくに途上国での作業の遅れは容易に想像されるので、パリ協定下の透明性報告の順風満帆なスタートとならない可能性が高い。

なお、隔年透明性報告書を審査する審査員のトレーニングプログラムについても同時並行で議論していたが、隔年透明性報告書の中で任意に報告された気候変動影響・適応に関する情報についても実質的に審査の対象として、関連事項をトレーニングプログラムの中に位置づけるのか否かも論点となり、次回SB会合では本情報の審査と関連するトレーニングコースについて取り得るオプションを継続協議することになった。

3. 最後に

おおよそ二年ぶりの対面開催となった気候変動交渉だったが、議長国の英国の対面開催へのこだわりが強いことは当初からうかがえたものの、各国が本腰を入れて渡航準備を開始したのはおそらく一カ月前くらいだったと思われる。そのため、渡航と宿泊関係の情報収集や予約の作業が短期間に集中した上に、日々刻刻と変化する感染対策に関連する情報収集が追加されてのせわしい渡航となった。

写真1 COP26会場入り口のかつて機関車の積み込みなどに使った巨大クレーンの下で入場を待つ人の列。
写真1 COP26会場入り口のかつて機関車の積み込みなどに使った巨大クレーンの下で入場を待つ人の列。

英国入国前や入国時の検査に加え、滞在中は毎日抗原検査キットでの検査を要求され、陰性でないと会場に入れなかったため、皆が真面目に検査しているのであればかなり安全だったと思うが、検査結果は自己申告制であったことや、現地の開催支援スタッフが適切にマスクをつけていないケースも多かったので、不安は残った。また、上記にもかかわらず、参加者数が過去最大だったというのも奇妙な状況ではあった。

議論そのものは、エディンバラから通勤する政府代表メンバーも少なからずいたこともあり、コロナ前ほどは夜遅くまで実施しなかったように感じられたが、従前同様、会合終盤では関心国で膝を突き合わせて実施された。言いっ放しではなく、細かい文言まで合意しないといけない状況であるため、やはり対面開催は議論の効率がよかったと言える。ただ、感染対策にまつわる追加的な負担を除いても、各国から飛行機に乗って渡航して来ていること、各出張者が長時間の移動・時差調整を行い、また約二週間家族・友人、職場から離れる必要性があることを含めて考慮すると、オンラインツールが発達してきた現在、これが最適解だったのか分からない。

また、今次COPでは、議題として議論はされなかったが、石炭火力発電などが注目を集めた。日本を含め、事前の各国への働きかけを経て、議長国が音頭をとって作成される決定の中に、緩和策がとられていない石炭火力発電のフェーズダウン(段階的縮減)を各国に呼び掛ける文言が入った。これは、当初はフェーズアウト(段階的廃止)を呼びかける文言だったものについて最終段階でインド等が反対して表現が弱まったものである。ただし、非効率な化石燃料への補助金については、フェーズアウトの文言が残った。

その他、米・EUが主導して立ち上げたグローバル・メタン・プレッジも話題を呼んだ。これは、協力して2030年までにメタンを2020年比で30%削減することを呼びかけるものであり、日本を含め100カ国以上が参加することになっている。また、会合二週目の半ばに気候行動に関して米中が共同声明を発表した。意味のある緩和行動・実施の透明性の文脈における資金動員目標達成の重要性を認識する(すなわち、緩和行動・実施の透明性があっての資金動員である)、といった、COP成果に対する期待にも言及したもので、その後のCOPでの各種決定の合意を促したと思われる。このように、公式の交渉の外側での様々な動きが交渉に影響を与えていく流れは益々深まってきているように思われる。

次の対面での交渉は、2022年6月6~16日にドイツにおいて補助機関の会合が予定されているが、開催の如何はまた直前まで注視する必要があるだろう。

写真2 会議室エリアの廊下
写真2 会議室エリアの廊下。

*国連気候変動枠組条約締約国会議(第1回~第25回)の報告は、地球環境研究センターウェブサイト(https://www.cger.nies.go.jp/cgernews/cop/)にまとめて掲載しています。