最近の研究成果 南アジア・東南アジアにおけるバイオマス燃焼の時空間変動分析
人為的バイオマス燃焼(biomass burning 以下、BB)は、森林伐採、焼畑農耕、作物残渣処理(crop residue burning 以下、CRB)などのため、南アジア(SA)と東南アジア(SEA)の広範囲で習慣的に実施されています。BBから大量の粒子状物質が排出されたことにより、周辺地域の大気の視程(どこまで遠くの景色が見えるかの指標)が低下して煙霧を引き起こすとともに、呼吸器および循環器疾患の罹患率が増加するなど広域大気汚染による健康影響が発生しています。SA・SEAのBB地域分布特性は不均一であり、地上での観測はできないため、BBの時空間変動分析に対して、リモートセンシングは不可欠な技術です。
本論文では、人工衛星MODIS(MODerate resolution Imaging Spectroradiometer)の火災データ(MOD14A1)と土地利用データ(MCD12Q1)を利用し、SA・SEAにおけるBB*1の時空間変動を分析しました。SEA赤道域のBB時系列はノイズが多すぎることから、異常値の影響を低減するために、Siegel's repeated median estimator (RME)*2を使用しました。さらに、線形傾向分析(Mann-Kendall検定*3)と二つの地理的分布分析(標準偏差楕円・地理的中間地点*4)を用い、年次変動を定量化し、BBの空間特性をまとめました(脚注参照)。また、研究地域のBBに降雨とENSO(エルニーニョ・南方振動)が与えた影響を解明しました。
本研究の結果から、SAのBBが主にCRBであり、CRBが年間BB発生スポット数の57.30%を占めることが示されました。2001年から2018年までは、SAのCRBが年間844スポットにまで大幅に増加し、その地域は主にインド中部・南部とパキスタン東部でした(図)。
一方、インドガンジス平野の大気汚染の重要な発生源と考えられる、パンジャブ州とハリヤーナ州のCRBは、明らかな減少傾向が見られています(図)。これは、地方自治体の実施した措置によりCRBが減少したからです。しかし、インド中部・南部およびパキスタン東部でのCRBの増加は、なお注意が必要であり、SAの大気質の改善に非常に重要だと考えられています。
また、SEA赤道域のBBはエルニーニョ現象の影響を受けやすく、NINO.3海域(5N-5S,150W-90W)の海面水温偏差が平年より1℃上がると、SEA赤道域の年間BB発生が51,800スポット増加したことが分かりました。SEA赤道域のBBは年々激しく変化しますが、RME分析によってBBの発生が年間1825スポットのペースで減少してきたことを明らかにしました。
このような減少傾向は、インドネシア政府がBBを抑制したり、泥炭地の生態系を回復したりすることに努めていることを反映しています。ただし、エルニーニョ現象の際に少雨傾向で激化するBBを防止するため、人為的な出火を減らすなどのさらなる対策を講じる必要があると考えられます。