NEWS2021年2月号 Vol. 31 No. 12(通巻363号)

被災地の環境回復や環境創造、災害環境マネジメントに貢献 国立環境研究所初の地方組織「福島支部」

  • 渡會貴之(国立環境研究所福島支部 企画総務係長)

「地球環境研究センターニュース」をお読みのみなさんなら、国立環境研究所の地球環境研究センターについてはよくご存じのことと思います。では、国立環境研究所に福島支部があることはご存じでしょうか? この記事では福島支部についてご紹介します。

1. 福島支部の紹介

国立環境研究所は、平成23年(2011年)3月の東日本大震災の直後から、被災地の環境回復や環境創造に貢献できるよう、「災害環境研究」に取り組み始めました。現在「災害環境研究」として、大きく分類すると次のような3つの研究を実施しています。

(1)「環境回復研究」

東京電力福島第一原子力発電所の事故により、放射性物質により汚染された被災地の環境をできるだけ速やかに回復することを目的とし、環境中における放射性物質の動態解明と将来予測、ヒトへの被ばく量解析及び生物・生態系に対する影響に関する研究と、災害廃棄物や放射性物質に汚染された廃棄物の適切な管理、処理・処分方法に関する研究を進めています。

(2)「環境創生研究」

環境と調和した被災地の復興を支援することを目的とし、地域環境診断と将来シナリオの作成、省エネルギーな技術開発や地域事業設計、住民が参画する計画づくりなどに取り組んでいます。

(3)「災害環境マネジメント研究」

東日本大震災の教訓をもとに環境・安全・安心面から将来の災害に備えることを目的とし、資源循環・廃棄物管理システムや環境・健康リスク管理戦略、それを支援する人材育成と国内外ネットワークの確立に向け研究に取り組んでいます。

福島支部は、上記の「災害環境研究」を進めるための現地拠点として、平成28年4月に福島県三春町にある福島県環境創造センター内に国立環境研究所初の地方組織として開設され、令和3年4月で開設5周年を迎えます。福島支部は、福島県環境創造センターに入居する福島県、日本原子力研究開発機構の研究組織と互いに連携しながら研究活動等をしております。また、国立環境研究所つくば本部とも連携して研究を展開し、被災地の環境回復と復興を研究面・技術面で支援するとともに、将来起こりうる災害に環境面から備える技術・社会システムの構築に貢献していくことを目指しています。

写真1 福島県環境創造センター外観
左前方:研究棟(国立環境研究所福島支部、日本原子力研究開発機構が入居)
中央:本館(福島県が入居)
右後方:交流棟(展示施設、愛称は「コミュタン福島」)

2. 広報活動について

福島支部では研究活動だけではなく、研究で得られた成果や活動内容等を広く一般の方々に知っていただくため、刊行物やWEBサイト等による情報発信をはじめ、地域住民の方々を対象とした出前講座の開催や、各種の広報活動も積極的に行っています。

令和2年度は新型コロナウイルス感染拡大の影響でイベントや出前講座は自粛せざるをえなかったため、YouTube動画の作成に力を入れました(刊行物や、動画は後述のWEBサイトに掲載していますのでぜひご覧ください)。また、国立環境研究所の第5期中長期計画が令和3年度から始まることもあり、今までの広報活動を総括し、今後どのように活動を行っていくべきかの戦略を、現在、福島支部全体で検討しています。

写真2 YouTube動画「エコとエコノミー、何でも答えます!」の撮影風景。できるだけ見やすく、理解しやすい内容となるように、考えながら作成しました

また、福島県環境創造センターの交流棟(愛称:コミュタン福島)では放射線や環境問題を身近な視点から理解し、環境の回復と創造への意識を深めてもらうためのさまざまな展示物を展示しており、誰でも無料で見学できます。

福島支部からも令和2年8月に「福島プロジェクションマッピング 3Dふくしま」を設置しました。これは福島県の立体白地図に、プロジェクターを使って人口分布や放射線量分布の状況、地球温暖化がもたらす農作物等への影響など、さまざまな環境・社会・地理データを投影し、時間の経過による変化や将来のシミュレーションを「目で見てわかりやすい形」にして解説する展示物です。コミュタン福島にお越しいただいた際はぜひご覧ください。

令和3年(2021年)は東日本大震災から10年、福島支部設立から5年という節目でもありますので、より一層災害環境研究を進展させ、また、皆様に福島支部の研究成果がわかりやすく届くよう取り組んでいきます。

写真3 「福島プロジェクションマッピング 3Dふくしま」。展示施設のコミュタン福島に設置されています。音声解説付きで、来館者が自分で操作できます。また、コミュタン福島には展示しておりませんが、出前講座やイベントなどで展示できる小型版「3DふくしまLite」も作成しました(サイズ:3Dふくしま140cm×110cm 3DふくしまLite70cm×50cm)
写真4 放射線量分布を投影した「3Dふくしま」
立体地図へのプロジェクションマッピングによって、専門的な研究成果の科学データを子供にも大人にもわかりやすく「見える化」することを実現しました。このほかにもさまざまなデータが映し出されます